技術の発展と研究の加速により、新しい機能を活用して既存のプロセスやワークフローを強化・補完する取り組みが広がり、特にロボティクス分野で関心を集めています。
ロボットは1950年代から存在しており、初期の工業用ロボットの一つである油圧マニピュレータアーム「ユニメート」は1953年に特許が取得され、1961年にゼネラルモーターズ社の工場に設置されました。 このロボットアームは溶接やダイカストのような反復作業を専門とし、製造の自動化に革命をもたらしました。 それ以来、モータ駆動やモータ制御から機能安全に至るまでロボティクスを支える技術は進化を遂げ、ロボットがより複雑なタスクを実行し、より多くの産業で採用されることを可能にしました。
現在のロボットは、もはや静止して単一の反復タスクに限定されるものではなく、動的で変化する環境の中で、周囲の環境やそこにある物体とのより細かく精密な相互作用が必要とされる状況で積極的に働いています。 今日そして未来のロボットには、環境やその周りの物体とやり取りするために「手」の器用さが求められています。
ロボット用途におけるハンドの基本要素
ロボットの手は、物体や環境とより正確に相互作用するための、より細かなモータの動きと制御を提供します。 ロボットの手と言えば特定の形状を思い浮かべるかもしれませんが、用途の異なるロボットでは、その手の形状や機能は同じではありません。
例えば、畑で熟したイチゴだけを摘み取るロボットの手に求められる要件は、火星で大型の岩石を集めて持ち上げるためのロボットの手に求められる要件とは大きく異なります。 同様に、リサイクル施設に設置されコンベアで流れてくるリサイクル品を正しく選別・仕分けする据え置き型ロボットは、自動車の組立ラインで大型の金属部品を標準化された手順で取り扱うロボットとは、異なる種類の手とシステムを必要とするはずです。
最終的な形状、能力、精度などは、特定の最終用途とユースケースによって決まります。
たとえばロボットが持つ関節の数、搭載するモータ(アクチュエータ)の数、要求される精度レベル、そして能動的な処理・判断を行うべきかどうかなど、ロボットハンドの器用さに関する考慮事項は以下の通りです。
- 環境: ロボットが配備されている環境はどのようなものか?
- 静止 vs 動的: ロボットは特定の場所に据え付けられ、決まった空間内だけで動作するのか?それとも移動しながら、刻々と変化する周囲の状況に合わせて活動するのか?
- インタラクションの範囲: ロボットハンドは自律ロボットの延長なのか、人間が関与するワークフローの一部なのか、それとも人間の延長(例:義手)なのか?
- 対象物: ロボットハンドが相互作用する対象物は何か?
- 均一 vs 多様: 対象物は均一か(例:組立ライン工程で扱う同じネジや金属パネル)?それとも毎回異なるか(例:高速道路脇の様々なゴミを拾い上げるロボット)?
- 壊れやすさ: そ対象物はどれほど壊れやすく繊細か?
- 大きさ: 扱われる対象物の大きさはどれくらいか?
ロボットハンドが何をどこで扱うかといったこれらの要素は、次のようなシステムの機能要件を左右します:
- 統合された 人工知能(AI) または固定アルゴリズムによる制御
- モータの数
- モーター制御 および モーター駆動 の精度
- モーターのフィードバック機構およびセンサーの有無・種類
ロボットハンドの器用さの実現
ロボットハンドシステムを駆動するための基本構成要素は、次のサブシステムおよび機能から成ります。
- 上位制御: あらかじめ定義されたアルゴリズムやAIに基づき、 リアルタイムで意思決定して動作指令を行う機能。
- モータ制御: 制御信号とロジックの管理機能。
- モータ駆動: 制御信号を駆動に必要な電力レベルへ変換し、モータに供給することで必要な動作を実現する機能。
- モータおよびハンドのフィードバック: モータの動作から得られるフィードバックに基づいて判断を下す機能。

上位制御
上位制御はロボットハンドにどのような動作を行わせるかを決定する要となる機能です。その内容は、ロボットの自律性や取り組むタスクの種類によって変化します。つまり、ロボットが変化の大きい環境でリアルタイムの意思決定を要するタスクなのか、あるいは静的な環境で予測可能なワークフローに沿って進める定型的なタスクなのかによって、上位制御が果たすべき役割は異なってきます。
自動車組立ラインで金属パネルを拾い決まった位置に固定する産業用ロボットでは、動作の効率化と高い生産性を重視されます。 したがって、あらかじめ決められた制御アルゴリズムを用いる産業用プログラマブルロジックコントローラ(PLC) などが上位制御を担うでしょう。
一方、レストランで料理をテーブルに運び、こぼさず置く配膳ロボット(または サービスロボット)では、AIを組み込んだ上位制御が必要となります。その場合、ロボットはカメラやセンサーを使って環境を検知し、動的に行動を決定します(例:ボウルをテーブルに置く際、中身の量に応じて傾きを調整するなど)。
このように、ロボットハンドの動作は上位制御の性質に左右されます。固定的なアルゴリズムによる制御であれ、AIによるダイナミックなシステムであれ、上位制御がハンドの動きを決めているのです。
動的なAI対応の上位制御の例として、ルネサスが実演したVision AI を搭載したDexterous Hand System があります。高性能なビジョンAI MPUを用いて、カメラ映像をエッジAIで解析し、人間の手の動きをロボットハンドがリアルタイムに模倣するジェスチャーベースの制御を実現しました。 このVision MPUはカメラとインターフェースし、視覚情報を取得すると同時に高度なAI処理を行い、ロボットハンドに緻密な動作を指示します。
モータ制御
上位制御が動作を指示すると、ロボットハンド・システムに対してその命令が送られ、そこで モータ制御 がリアルタイムの制御信号とロジック管理を担当してハンドの運動を実現します。
ロボットハンドでは、モータ制御の段階で高レベルの意図が物理的な相互作用へと変換されます。 ロボットハンドは対象物を握り込む際にそれを潰さないようにしたり、ロボットが動いてもグリップを維持したり、複数の関節を協調制御して指先が滑らかで再現性の高い軌跡を描くようにする必要があります。 これらの動作が可能かどうかは、各モータへのコマンドをどれだけ素早く正確に出せるか、そしてコントローラが位置や電流/トルク、力のフィードバックを用いてどれほど巧みに閉ループ制御を行えるかにかかっています。 ユースケースが単純な一連の同じ部品のピック&プレースから、壊れやすく多様な対象を動的な環境で扱う複雑なケースへと高度化するにつれ、モータ制御に求められる要件(およびそれに対応するアーキテクチャ)もそれに応じて高度になります。
この機能は通常、マイクロコントローラ(MCU)やマイクロプロセッサ(MPU)によって実行され、上位制御やユーザーインターフェースと連携し、モータやセンサーのフィードバック回路、モータ駆動ステージに接続されます。 モータ制御用のプロセッサは通信や信号経路の管理に加え、各モータの駆動方法を決定するための制御アルゴリズムを実行します。 制御するモータの数、要求される制御ループの性能や計算の複雑さ、モータおよびハンドレベルで用いられるセンシングやフィードバックの種類などが、適切な制御プロセッサ選定時の重要な判断材料になります。
ハンドのモータ制御はカスケード構成とすることができ、複数のモータ制御および駆動のシステムやサブシステムを組み合わせる場合があります。 どのサブシステム(手首のモータ制御、指のモータ制御など)か、ハンドが扱う対象物の壊れやすさや大きさがどの程度かによって、コントローラ選定時に考慮すべき動作特性や精度などの要件も異なります。
以下に、モータ種別(それによる動作タイプや対象物とのかかわり)、制御可能なモータ数、産業用通信・機能安全への対応、センサーインターフェースの有無など、多岐にわたる要素を考慮し、様々なハンドの動作ニーズに合わせたモータ制御構成(モータ駆動回路を含む)の例を示します:
モータ制御アプリケーションブロック図の例
- サーボモータ制御: ステッピングモータで回転動作と保持トルクを実現する構成
- レゾルバ付き BLDC モータ制御: 滑らかで連続的な動作と高精度を実現するBLDCモータ
- 6軸/9軸 産業用モータ制御(Ethernet対応): 高度な演算処理やモーションプランニング、軌道生成機能を備えたスケーラブルな高性能モータ制御構成
- 産業ネットワークおよび機能安全対応 マルチモータ制御: 最大9軸の高性能・高精度制御と機能安全アーキテクチャを統合した構成
ロボットハンドのモータ制御は、最終的にはその最終用途(エンドアプリケーション)次第です。つまり、ハンドに求められる器用さの度合い、遂行するタスクの種類、扱う対象物の性質などによって決定されます。
前述の例で、工場の組立ラインに導入される産業用ロボットには、安全規格を満たすため 産業ネットワーク対応かつ機能安全対応のモータ制御システム が必要になる場合があります。 一方、身体障害のある方への食事補助用の器用なロボットアームの場合、 レゾルバ付きBLDCモータ制御 よって、滑らかで連続的な動作と、高精度な細かな動きが実現できます。
適切なモータ制御プロセッサの採用はロボットハンドの用途を広げ、その能力を引き上げる鍵となります。 ロボットハンドのニーズに合った適切なデバイスを選ぶために、当社の モータコントロールプロセッサーガイド を参照してください。
モータ駆動
モータ制御プロセッサが各アクチュエータの動作を決定した後、次にモータ駆動がその動作を実現するために必要な電力を供給します。 コントローラの出力は PWM やステップ/方向指令、目標電流値などの微弱な信号しか出せませんが、ロボットハンドのモータを動かすにはより大きな電流と特定の電圧波形が必要です。そのため、モータ駆動はこうした制御信号をモータ駆動に必要な電力まで増幅・変換し、モータに供給する役割を担います。
実際、駆動段は電力の増幅、位相の切り替え、電流の制御、保護機能などが組み合わさっており、ロボットハンドが様々な負荷や接触条件下でも効率的かつ予測可能に動作できるよう支えます。
モーター駆動の実装は、同じロボットハンド内であってもサーボモーター、ステッピングモーター、BLDCモーターなどの種類や各関節/指のパワーレベルによって大きく異なります。 一般的に、 ゲートドライバ や パワーMOSFET といった構成要素が駆動チェーンに含まれ、電流のスイッチングと制御、およびセーフティ回路が構成されます。 アーキテクチャによっては、プログラマブルな混合信号デバイス(例: HVPAK - 高電圧対応プログラマブル混合信号デバイス)を用いて、駆動段のグルーロジックや保護機能を実装・オフロードすることも可能です。
ゲートドライバを組み込んだ3相インバータ構成のモーター駆動チェーン例を、次の図に示します:

モーターおよびセンサのフィードバック
ロボットハンドの設計においては、「何をさせるか」に加えて、「どう制御し、どう駆動するか」も重要です。 ロボットハンドが自身の動作をリアルタイムで計測し、能動的に補正する閉ループ制御を実現するためには、モータのフィードバックやセンサが不可欠です。
ロボットハンドは周囲の物体や環境と相互作用する中で、対象物を持ち上げた際の負荷変化、不意の衝突、モーターの停止など、さまざまな事態に直面します。 モーターの位置、速度、トルク、接触力といった重要なパラメータを継続的にセンシングすることで、ロボットハンドは動作精度を維持し、グリップ力を調整し、故障を検出するとともに、対象物の大きさ・形状・壊れやすさの違いに適応できます。
ロボットハンドにさまざまな センサ や信号調整回路を組み込むことで、以下のようなフィードバックを実現できます:
- 位置/速度フィードバック: 各関節の位置と速度を検出し、正確な軌道と再現性のある把持を実現する。
- 電流/トルクフィードバック: モーターのトルクを調整し、滑らかな動作と適切なグリップ力制御を可能にする。
- 力/触覚フィードバック: 力センサや圧力センサによって、指先での接触、滑り、および加わる力を検知し、繊細な取り扱いを支援する。
指先や各関節などに配置された異なるセンサによって、圧力や位置など多様なパラメータが測定されます。 これらのセンサの出力は増幅・調整・処理され、システムコントローラが正確かつ確実に読み取ることで、ロボットハンドの動作をリアルタイムに補正できるようにする必要があります。
特にロボットハンドの自由度が増えるにつれて、フィードバックの重要性はさらに高まります。 コントローラは多数の関節を協調制御すると同時に、力やトルクの情報を活用して、対象物やロボットハンド自体を損傷しないよう制御する必要があります。
前述のイチゴを摘み取るロボットハンドの例では、接触力や滑りを検知してリアルタイムにグリップを調整することで、イチゴを潰さずに摘み取ることができ、繊細な操作の再現性を向上させます。 同様に、食事介助用ロボットアームでは、ロボットハンドが人の口に触れた時点でそれ以上進まないよう位置を認識する必要があります。
力覚センサによって自由動作と接触を判別することで、安全なインタラクションと、より緻密な把持が可能になります。 閉ループの力フィードバックと一貫したセンサインターフェースにより、把持や配置作業の再現性はさらに向上します。
ロボットハンドのフィードバック機構において特に重要な信号調整やセンサの種類として、以下が挙げられます:
すべてをまとめて:器用なロボットハンドシステムの構築
上位制御、モータ制御、モータ駆動、フィードバックシステムといった必須要素を備えることで、想定するユースケースや最終用途に合わせた器用なロボットハンドシステムのアーキテクチャを設計できます。
例えば、以下の図に示す通り、17自由度(DOF)の高性能ロボットハンドシステムのアーキテクチャは、ヒューマノイドロボットなどに搭載することで複雑かつ精密な動作タスクを可能にします。

上位制御: ロボットハンドの動きを生み出す上位制御から始めます。 この例では動的な上位制御を採用しており、ヒューマノイドロボットの「小脳」に接続してAI処理とシステム統合を実行します。 ヒューマノイドロボットはVision AIや音声認識、視覚マッピング/ナビゲーションなどで環境を認識し、その結果に基づいてロボットハンドシステムへコマンドを送信します。
一方で、固定的な上位制御もEtherCAT®、USB、RS-485などのインターフェース経由で実現可能であり、必要に応じてラップトップのGUIやPLCからロボットハンドを操作できます。
モーター制御と駆動: この17自由度の高性能ハンドシステムでは、複数の指の関節から手首の動きまで、各可動部に対応した複数のモータ制御プロセッサが組み込まれています。 各指やロボットハンドの基本動作は専用のモータ制御プロセッサによって管理され、専用のモータ駆動ICによって各指・関節が必要な動作を実行します。
これらの制御ユニット同士はCAN FDなどのインターフェースを介して連携しており、多数のモータサブシステムがつながって滑らかな協調動作を可能にしています。 この17-DOFアーキテクチャでは、各関節の駆動には多くのモータサブシステムが必要となるため、このような構成が採用されています。
例えば、指の末端関節(一番先の関節)を制御するモータ制御プロセッサがあります。このプロセッサは単一のモータシステムを制御します。 メインハンドコントローラから上位制御の指令を受け取り、単一の末端関節を駆動するためのロジック処理やアルゴリズムを実行します。 その後、モータ駆動コンポーネント(HVPAK)と協調し、関節の駆動(アクチュエーション)を行うとともに、ギアやモータのエンコード信号などの論理入力や信号入力も処理して、所定の関節動作を実現します。
センサー統合とシステムフィードバック: モータ制御プロセッサは、PWMやエンコードといった駆動信号を出力するだけでなく、モータおよび配備されたセンサからのフィードバックも統合しています。
この例では、ロボットハンド自体に圧力センサと力センサが組み込まれており、ロボットハンドは「何かに触れた」「どれだけの力で握っている」といった情報を認識できます。また、インピーダンス測定、信号センシングコンディショニング、電流検出を行うICも組み込まれています。これらのICは単体でセンサの役割を果たしたり他のセンサと連携したりしながら、モータ制御プロセッサとのフィードバックループを閉じる上で重要な役割を担います。こうして、ロボットハンドが周囲の物体や環境に対して安全かつ正確に動作できるようになります。
まとめ
ロボットハンドは一様ではありません。使用される環境、扱う対象物の多様さ・壊れやすさ、そしてロボットの自律性のレベルによって、あるシステムで求められる「器用さ」の内容は異なります。
ロボットハンドの最上位要件は、ロボットハンド駆動を支える中核要素に集約できます。つまり、上位制御(ロボットハンドが「何をするか」)、モータ制御(動きを「どのように指示・調整するか」)、モータ駆動(アクチュエータへ電力を「どのように供給するか」)、そしてモータおよびセンサのフィードバック(システムが結果を「どのように測定しリアルタイムで補正するか」)です。
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