データセンター設計の新時代において、AIは、電力を「どのように生成し、分配し、使うか」に大きな影響を与えています。従来のクラウドデータセンターは、比較的予測可能なCPUワークロードを前提として設計されていました。これに対して現在のAIデータセンターでは、アクセラレータを大量に搭載したシステムが主流となっており、その挙動も従来とは大きく異なります。こうした変化を背景に、データセンターの電源設計は根本的な見直しを迫られており、GaN(窒化ガリウム)半導体の採用が急速に進んでいます。

AIデータセンターが抱える電源課題
AIデータセンターが従来のクラウドインフラと決定的に異なるのは、消費電力の増大に加え、その変動が非常に激しいことです。従来型データセンターでは、サーバーラックあたりの電力は最大でも30kW程度でした。一方、現在のAIシステムでは、1ラックあたり約50~300kWに達しています。さらに、この数値は早ければ来年にも1MW(メガワット)を超える勢いです。これほど急速にラック電力が増大すると、電力の分配や変換を「裏方」として扱うことはできません。
AIを持続可能な形で拡大していくためには、電源アーキテクチャの高効率化・小型化・柔軟性が不可欠です。かつては運用コストの一部に過ぎなかった電源設計は、今や大規模な設備投資を伴う、長期的な経営課題となっています。より大規模なAIモデルが計算資源を求め続ける限り、この傾向は続くでしょう。

AIが切り拓く新しい電源アーキテクチャ
この変化を象徴するのが、従来の415V交流(AC)配電から、800V直流(DC)または±400V DCアーキテクチャへの移行です。高電圧化により電流が抑えられ、導通損失が低減し、システム全体の効率が向上します。一方で、電力変換ステージや、それを支えるデバイスへの要求も大きく変わります。
サーバーラックの内部を見ると、AIアクセラレータがデータセンター電源の再設計を牽引する存在になっていることが分かります。もはやアクセラレータは単なる「チップ」ではなく、大規模で分散したシステムへと進化しています。1つのAIポッド、いわゆる「スーパークラスター」には、最大9,000個のアクセラレータ、4,500個のCPU、大規模な光インターコネクト、そして電源管理装置やポンプ、液冷インフラなどが組み込まれています。これはあくまで一例に過ぎませんが、ハイパースケールデータセンターでは、こうした構成が年に数百単位で導入されています。
変換段数の削減と高電圧化

負荷が増大する中で、データセンター事業者は、電力が電力網からシリコンまでどのように供給されるのかを見直し始めています。大きな変化の一つが、800V DC(または±400V)DCを中心とした高電圧DC配電です。業界では、将来的に1,200Vや1,600V DCまで視野に入れた議論も始まっています。
理由は明快です。電力変換の段数が増えるほど損失は増えます。従来のトポロジーでは、480V三相ACで受電し、バッテリー充電用にDCへ変換し、再び415V ACで配電、さらにラックやボード用に48V DCへ変換する、といった複雑な経路をたどります。変換段数を減らすことで、エンドツーエンドでのシステム効率が向上し、実際に計算処理に使われる電力の割合を高めることができます。

こうした変化は、パワー半導体の役割も変えています。高電圧領域では、従来の油入変圧器に代わり、ソリッドステート方式への移行が進んでいます。これにより、高電圧・高周波で効率よくスイッチングできる新しい電源アーキテクチャが求められています。

さらに、ラック電力の急増により、AC/DC変換はサーバー筐体の外へと移行しています。現在、ラック内の貴重なスペースの多くが、415V ACから48V DCへの変換回路に占められています。変換ステージを専用キャビネットに集約することで、AI計算用のスペースを確保しつつ、熱管理も効率化できます。
なぜGaNなのか、そしてなぜ今なのか
AIデータセンターでは、GaNの二つの強みが際立ちます。高電圧対応をコンパクトな形で実現できること、そして高速かつ高効率なスイッチングです。
GaNは、シリコンと比べ電界に強いため、シリコンよりも短い距離で高耐圧を実現できます。また、電子移動度と飽和速度が高いため、MHz帯でのスイッチングが可能です。小型電源ではシリコンでも高速動作できますが、AIデータセンターのような大電力・高電圧環境では、GaNのほうが有利になります。さらに、GaNは寄生容量が小さく、損失を抑えながら高速スイッチングが可能です。
システムレベルでは、スイッチング周波数が高いほど、トランスやインダクタなどの磁性部品や受動部品を小型化できます。スマートフォン用の小型急速充電器は、すでにこの原理を実証しています。AIインフラは、同じアプローチをキロワット、さらにはメガワット級で適用しようとしているのです。
GaNが最も力を発揮する領域:800V→48Vと双方向電力
AIデータセンターの電源チェーンでは、電圧帯域ごとに適した材料があります。数kVクラスでは、ソリッドステート変換器用途としてシリコンカーバイド(SiC)が適しています。一方、GaNが当面の主戦場とするのは、800Vから48Vへの変換、場合によっては12Vへと変換するステージです。この800V→48V変換は、GaNが効率、信頼性、高速スイッチングの面でシリコンを上回る最適な領域です。
また、AIデータセンターでは、AC/DC変換において双方向電力フローの採用も進んでいます。大規模AIアクセラレータは、負荷変動が極めて激しく、コンデンサに蓄えられたエネルギーを単に損失として捨てるか、賢く再利用するかが重要になります。双方向アーキテクチャでは、負荷急増時にはエネルギーを供給し、余剰時にはローカルなエネルギー蓄積へ戻すことができます。考え方は、自動車の回生ブレーキの仕組みに似ています。
双方向GaNデバイスは、こうした設計をシンプルにします。たとえば、従来は4つのMOSFETで構成していたフルブリッジを、2つの双方向GaNデバイスで代替できるようになります。ルネサスは2026年3月、ルネサス初の双方向GaNデバイスを発売しました。この製品は、従来の2段構成アーキテクチャを単段の電力変換に置き換えることで、システム全体の効率を大幅に向上させることができます。
ルネサスが提案するGaNのシステムソリューション
AIデータセンターの進化スピードは、もはや部品単位で最適化できる段階を超えています。かつて3~4年だった製品サイクルは、今や12~15か月に短縮されています。データセンター設計者が必要としているのは、設計者側にリスクがのしかかるような断片的な製品群ではなく、システム全体を見据えた電源ソリューションと、長期的なロードマップです。
ルネサスは長年の電源分野での知見を基に、GaNの導入を容易にし、設計期間を短縮するには、コントローラ、ゲートドライバ、保護デバイスを一体で設計し、リファレンスデザインや技術サポートまで含めた「ソリューション力」が不可欠であると認識しております。ルネサスが先日Applied Power Electronics Conference(APEC)で発表したGaNソリューションは、こうしたシステムレベルのアプローチが、より迅速で低リスクな設計につながることを示しています。
ルネサスがTransphorm社を買収したことで、高耐圧のD-mode GaNと低耐圧のSi MOSFETを直列に接続したカスコード構造のSuperGaN®技術は、競争優位性をさらに強化しました。デバイスレベルの革新とシステムレベルのサポートを組み合わせて、データセンターOEMを始めとするお客様に提供することで、評価期間と設計サイクルの短縮を促進しています。
導入の課題と今後の展望
GaNには多くの利点がありますが、導入にあたっては課題も存在します。コストや認証要件、設計経験の有無などが、採用スピードに影響します。今後3〜5年の間にAIデータセンターへのGaN導入がどこまで進むかは、ベンダが教育やツール提供、信頼性の実証を通じて、こうした課題にどれだけ応えられるかにかかっています。
ただ一つ明確なのは、AIワークロードが今後も電源アーキテクチャを、より高密度で高効率なものへと進化させ続けるという点です。データセンター設計者にとって、GaNはエネルギー消費を過度に増やすことなく、AIの成長を支える手段となります。そして、これまで段階的な効率改善に注力してきたパワー半導体ベンダにとって、GaNは電力供給の仕組みそのものを根本から変える存在となります。そうした変化が進むにつれ、これまでシリコンに有利であったトレードオフはGaNに優位性を与えることになります。もはや問われているのは、「GaNがAIデータセンターで使われるかどうか」ではありません。どれだけ早く、どれだけ広く導入されるかです。
ニュース&各種リソース
ニュース 2026年3月23日 |



