モータ制御システムにさらなる価値を付加する方法

東郷隆昭

シニアプリンシパルプロダクトマーケティングスペシャリスト

掲載: 2024年1月26日

モータ制御システムにさらなる価値を付加する方法

昨今のモータ制御システムには、高性能化、低消費電力化に加え、インテリジェントな機能が求められています。精密なモータ制御に加えて、アプリケーションの実行、他のデバイスとの通信、動作異常の検出を同時に行う必要があります。さらに安全設計とともに、これらのシステムがネットワークに接続されることによりセキュリティ対策も必要になります。

ルネサスは、設計者がこれらの要件を満たすことをサポートするため、32ビットマイクロコントローラRAファミリのモータ制御用MCUのRA8T1グループを開発しました。 RA8T1は、高精度なモータ制御を可能にし、システム全体の電力効率向上に貢献する最新のハイエンドCortex^®-Mクラスのコアを実装しています。 RA8T1は、性能だけでなく、最適化された豊富な機能が搭載されており、設計者はシステムに付加機能を追加することができます。ローエンドからハイエンドのモータシステムの需要に対応するべく、モータ制御向けの製品ラインアップを拡張することで、設計の拡張性が向上するだけでなく、共通の開発ツールやソフトウェアを活用できます。

RA8T1 MCUは、Arm^® Cortex^®-M85コアをベースに最大480MHzで動作し、最大2MBのフラッシュメモリと1MBのSRAM(TCMを含む)の大容量メモリオプションとともに、モータ制御用に相補PWM出力用の16ビット/32ビットタイマ、3チャンネルサンプル&ホールド付き12ビットADC、高速アナログコンパレータを搭載しています。通信機能としては、イーサネットMAC、CAN FD、USB 2.0フルスピードモジュール、SD/MMCホストインターフェイス、I³Cなどが利用可能です。さらに、Armv8.1-Mアーキテクチャは、AI/MLの計算性能を大幅に向上させるHeliumテクノロジに加えて、セキュリティを強化するPACBTI(Pointer AuthentiCation and Branch Target Identification)とTrustZone®をサポートしています。

RA8T1の一番の特長は、その高性能です。センサレスベクトル制御(FOC)のサンプルコードを使用した場合のRA8T1のモータ制御処理時間は、従来のCortex-M33製品と比較して約3分の1になりました。 RA8T1に搭載されているTCMを活用することで、Cortex-M85の優れた性能をでさらに発揮できることが明らかになりました。図2参照。

Figure 2. Motor Control Performance Benchmark

このようにモータ制御の処理時間を短縮することにより、エンドシステムに付加機能を追加できるようになります。たとえば、予知保全の例を見てみましょう。本デモでは、ルネサスのe-AIソフトウェアを用いて、A/Dコンバータで取得したモータ電流を256の高速フーリエ変換(FFT)で解析し、TensorFlow Liteを推論エンジンとしてモータ挙動の異常を検出します。このプロセスにおいては、RA8T1がサポートしているHeliumテクノロジがより効果を発揮し、既存のCortex-M7デバイスと比較して5.3倍の推論時間を実現します。