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モータ制御におけるリアルタイム性能のさらなる向上

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Naoki Abe
Naoki Abe
Principal Engineer
Published: September 25, 2025

リアルタイム性は、精度の確保、効率の向上、故障の防止を可能にするため、モータ制御には不可欠で、今回はモータ制御システムの中の頭脳と手足を司るMCUに焦点を当てつつ、その「リアルタイム性」について深堀します。

まず電子制御されるモータはMCU/MPUといったコントローラで制御されています。これらはCPUとメモリを中心としたアーキテクチャという点は共通で、主に事前にプログラミングされた命令の実行・データ処理を行います。モータ制御においてはファンやポンプなど負荷の変動が小さく、回転速度も大きく変動しないアプリケーションにおいてMCUが用いられることが多く、産業機器のACドライブ・ACサーボなど大型のモータを制御して、回転速度やトルクの高速制御が必要なアプリケーションにおいてMPUが用いられています。

MCUとMPUの主な違い

 MCUMPU
CPU
周波数帯域
8~32-bit CPU
数十MHz~数百MHz
32~64bit CPU
数百MHz~数GHz
メモリフラッシュメモリ, SRAMを内蔵
キャッシュメモリや外部メモリの拡張性を持つ製品もある
フラッシュメモリは外付、SRAMは内蔵し、外部SDRAMなどの拡張が容易
キャッシュメモリやTCM(Tightly Coupled Memory)でメモリレイテンシを改善
用途・メリット民生・産業など非常に幅広い用途
MPUに比べて安価、小型
民生・産業の高性能が求められる特定機器向け
MCUに比べて高価、大型パッケージ

次に冒頭でも挙げたリアルタイム性についても触れておきます。リアルタイム性能とは「特定の処理を決められた時間内で完了すること」です。つまり重要なことは処理時間にばらつきが少なく、必ず決められた時間に処理が完了することです。もし、リアルタイム性が保証できない場合、モータが指令値通り動作しないだけでなく、最悪のケースではモータが脱調し事故につながることもあるのです。

従来のMCUの場合、CPUと内蔵メモリの周波数が近いため、処理時間のワーストを見積もることが可能でリアルタイム性を保証することが容易です。一方MPUは、制御精度を向上させるために制御周期が短くなり、CPUを高速になるものの、CPUより低速の外部フラッシュメモリからプログラムを実行するとそのメモリのスピードに律速し、本来の性能を引き出すことができません。よって一般的な対策として起動時に内蔵高速SRAMやTCMにプログラムを配置し高速動作を実現しています。一方でSRAMやTCMに全てのプログラムを配置することは容量の観点で難しいため、限られた内蔵メモリを活用してリアルタイム性を確保するかはMPUベースのモータ制御システムのソフトウェア開発者にとって常に課題なのです。

この課題に対して今回ルネサスが開発したRA8T2はMCUとMPUの良い点を組み合わせて高リアルタイム制御システムの実現に大きく貢献します。性能面はArm® Cortex®-M85 1GHzを搭載しMPUと同様にキャッシュメモリ・TCM・SRAMを内蔵していますが、MCUとしてコード用のMRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)を搭載している点がMPUとは大きく異なる点です。このMRAMは100MHzで動作し、外部フラッシュメモリに比べて大きく性能が低下することなく従来MCUのようにリアルタイム性の確保が容易です。

モータ制御システムにおいて課題はまだあります。ハイエンドのモータ制御のデバイスは、用途に応じてシステム制御や他デバイスとの通信などの他のタスクがモータ制御に追加されます。つまりモータ制御のリアルタイム処理とその他の非リアルタイム処理を並列実行しないといけません。この課題を解決する方法として主にMPUで採用されているマルチコアシステムを用いることが有効です。

RA8T2はCortex-M85に加えてCortex-M33コアをオプションで提供しデュアルコアシステムを構築できます。例としてCortex-M85側にモータ制御処理を配置するケースを考えてみます(図.1)。Cortex-M33側はシステム制御を割り当ており、最大動作周波数は250MHzで一般的なシステム制御を行うには十分な性能です。この構成であればモータ制御と非リアルタイム処理であるシステム制御を分離することが可能で、完全な並列処理を実現します。これにより、モータ制御側の高いリアルタイム性能が実現できることに加えて、システム制御側のレスポンスやシステム品質も向上させることができるのです。

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Example of Task Placement in a RA8T2 Dual-Core System
図.1 RA8T2 デュアルコアシステムにおけるタスクの配置例

最後に評価キットをご紹介します。MCK-RA8T2はモータ制御機能とEtherCAT® slave IFを搭載したキットです。モータも同梱されており、ボックスを開ければすぐ評価ができます。加えてユーザーズマニュアル、クイックスタートガイドを提供しているためユーザのユースケースに合わせて、初期評価からユーザインバータボードの評価など様々な用途に応用することができます。是非、この新たなMCUのリアルタイム性を実感してみてください。

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MCK-RA8T2 Kit Image
図2. MCK-RA8T2外観

詳しい製品情報は、www.renesas.com/ra8t2 へご覧でください。