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ルネサス エレクトロニクス株式会社 (Renesas Electronics Corporation)

インテリジェンスが料理を変える:CUCKOOのAI搭載IHクッキングヒーター

2026年3月26日

この記事は6分で読めます。


CUCKOO(クック)は韓国で20年以上にわたり、ご飯を完璧に炊き上げるブランドとして広く知られてきました。1978年にSung-kwang Electronicsとして創業した同社は、初期はOEM供給を担い、1998年にCUCKOOブランドを立ち上げました。CUCKOOの圧力炊飯器は発売以来、韓国でシェア首位の座を守り続けています。現在CUCKOOは、韓国で最も多くの炊飯器を販売する企業であると同時に、浄水器や空気清浄機から掃除機、幅広いキッチン家電まで手掛ける、成長中のグローバル家電ブランドです。

またCUCKOOは、調理を精密に行うということに新たな情熱を注ぎ、フラッグシップ製品を開発しています。それが、危険で後片付けも厄介な「吹きこぼれ」を自動で防ぐ「スマートリスニング」機能を備えたAI対応IHクッキングヒーターです。ルネサスのReality AI技術を用いて、韓国の家庭向けに限らず、世界中の安全性の高いキッチンに向けて設計されています。

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炊飯器専門メーカーからスマートIHのパイオニアへ

CUCKOOは、他社が見落としがちな小さな違いに向き合うことで評価を築いてきました。正確な圧力プロファイル、丁寧に調整した加熱カーブ、そして米の品種や地域の嗜好に合わせた炊飯アルゴリズムです。こうした細部へのこだわりが、韓国市場での優位を確かなものとし、中国、マレーシア、シンガポールから米国まで約30カ国へと展開を広げ、毎年の成長を支えてきました。

IH調理器への参入は、CUCKOOとしては自然の成り行きでした。2000年代半ば以降、CUCKOOは誘導加熱(IH)の技術を生かし、調理器具自体を発熱させることで、すばやく正確に加熱できる卓上IHヒーターやビルトインIHなどを開発してきました。

ガスコンロは直火のため、火の見え方で火加減を調整しやすい一方、室内に汚染物質を放出します。これに対してIH調理は電磁気を利用します。そのため、より速く、より安全で、より効率的です。エネルギーの伝達効率は、ガスレンジの40%に対して90%です。

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CUCKOOのエンジニアリング部門ラボラトリチーフディレクターのYoon Ho Lee氏は次のように述べています。「電気コンロも選択肢の一つです。エネルギー効率は70%ですが、放射コイルで天板をゆっくり加熱します。一方IH技術は、専用の磁性鍋やフライパンを使うことで、温度を瞬時に変えられますし、素早く冷えるという特徴があります。」

CUCKOOのIH調理器には独自の工夫が加えられています。誘導加熱とラジエント加熱を組み合わせたハイブリッドゾーンで鍋に合わせてしっかり熱を届ける技術や、鍋の内側と外側を均一に加熱する特許取得済みのバランス制御技術、加えて、高火力での炒め物や焼き物のために最大出力を最長1時間維持できる超高温制御技術です。

しかし、こうした強みがあってもなお、繰り返し悩まされる課題がありました。それが吹きこぼれです。

吹きこぼれの問題とその重要性

これまでIH調理器には1つの弱点がありました。水を数秒で沸騰させるほどの高火力によって、汁物や煮込み料理、デンプン質の多い料理を簡単に吹きこぼれさせ、キッチンを汚すだけでなく、特に子どもや高齢者にとって安全上のリスクとなる場合があります。韓国の高齢者向け居住施設で65歳以上の成人300人超を対象としたアメリカ国立衛生研究所(NIH)の 2025年の調査では、キッチンに関連するやけどと火災が、家庭内のケガの原因として3番目に多いことが明らかになりました。

従来、加熱面の制御はほぼ例外なく、単純なタイマーや温度しきい値アラートに頼ってきました。勢いはあっても安定している沸騰と、今にも吹き上がりそうな激しい沸騰とを確実に区別できる技術は、これまでありませんでした。 CUCKOOは、吹きこぼれをリアルタイムに検知し、調理者が鍋のそばに付きっきりにならなくても対処できる、よりスマートなIH調理器の開発に乗り出しました。それが、ある種の聴く(リスニング)能力と判断力を与えるということでした。

CUCKOOは、吹きこぼれをリアルタイムに検知し、調理者が鍋のそばに付きっきりにならなくても対処できる、よりスマートなIH調理器の開発に乗り出しました。それが、ある種の聴く(リスニング)能力と判断力を与えるということでした。

吹きこぼれの検知は一見簡単そうですが、実際には、エンジニアリング課題は決して単純ではありませんでした。沸騰の音の特徴は、調理器具の材質、容器の大きさと形状、内容量、食品の種類に加え、レンジフードのファンやキッチン内の音の干渉によって変化します。

 
 

Reality AIとRA6E1によるエッジでのTinyML

こうした条件に対応するため、CUCKOOのエンジニアは、IHクッキングヒーターの制御に、クラウド級サーバを必要としない学習可能なAIソリューションの採用を検討しました。そして、2008年以降CUCKOOのIH炊飯器にマイコンや技術支援を提供してきたルネサスとの協業に至りました。

ソリューションの基盤となったのは、ルネサスのReality AIRA6E1マイコン(MCU)です。Reality AIソフトウェアツールキットは、音や振動といったセンサーデータから、マイコンのような小型デバイス上でも動作する軽量AIモデル(TinyML)を自動生成できるため、ルネサスのマイコンで効率的に実行できます。

CUCKOO側は、ルネサスのエンジニアや現地の提携先Koshida Koreaと並行して作業しながら、さまざまな鍋やレシピ、キッチン環境から広範なセンサーデータを収集しました。そこから、調理器具の種類や使用条件ごとに異なる沸騰パターンを認識できるよう、複数の専用AIモデルに学習させました。

Lee氏は次のようにも述べています。「Reality AIは、機械学習に必要な最適なセンサーの組み合わせを自動で見つけてくれます。CUCKOOはこの仕組みを使って、さまざまな料理シーンに対応したAIモデルを作りました。ルネサスはそのモデルをRA6E1マイコンに組み込み、電力を抑えながら低レイテンシで、吹きこぼれを判断するエッジAI処理を実行しています。」

さまざまな環境や使用条件で多数の試験と評価を行った結果、主要モジュールに補完的なAIモジュールを組み合わせることで、より高い性能が得られました。RA6E1に加えて、ルネサスのRX130マイコンが誘導加熱の中核制御ループを担い、AI情報に基づいて安全動作のための電力を微調整します。さらに、iW1825 AC/DCコントローラが電子回路に、効率的で信頼性の高い電力を供給します。

Lee氏はこう付け加えます。「このシステムは、反復的なデータ収集やソフトウェアの最適化、チューニングを重ね、CUCKOO独自のIH制御の専門性と組み合わせることで、吹きこぼれ検知精度90%以上を達成しました。これにより、家庭で料理する際、子どもの様子を見たり材料の下ごしらえをしたりするためにレンジから離れても、IH調理器での急な吹きこぼれを心配せずに済みます。」

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AI対応キッチンのこれから

CUCKOO初のAI対応IHクッキングヒーターは、2025年後半に量産を開始し、その後も後続モデルがほどなく追加投入される予定です。初期投入は韓国市場に注力しますが、その後はこの技術をIH調理器の製品ラインアップ全体へ広げ、最終的には海外向けモデルにも展開する計画です。

今後について、CUCKOOとルネサスは、今回の吹きこぼれ検知を“技術開発を重ねていくための最初の一歩”と捉えています。Reality AIの仕組みは、音や振動、電力の変化といったデータから、どんな料理をしているかや分量まで判別できるよう発展させることができます。さらに、麺類・煮込み・揚げ物などをもっとおいしく仕上げられるよう、加熱の調整を自動で最適化でき、将来的にはほかの家電への応用も可能です。

Lee氏は最後に次のように述べています。「CUCKOOは、調理中の料理を把握し、最適なレシピや加熱プロファイルを自動で選択するIH調理器を、今後5年以内に実現したいと考えています。スマートIHを、まるで料理を手伝ってくれるアシスタントのような存在へ進化させるということです。」

韓国を代表する炊飯器ブランドとして始まったCUCKOOは、いまや最新のAI搭載IH調理器へと進化し、日々の調理をより快適で安心なものへ磨き続けています。技術パートナーであるルネサスとともに、CUCKOOはその名の由来にも重なる“カッコウ時計のような精密さ”と、現代AIのインテリジェンスを融合させながら、その価値を世界中のキッチンへ届けています。