これまで2回にわたり、BLDCモータの特徴と利点を見てきました。小型で高効率なBLDCモータは、省スペース、省エネルギーが求められるシステム開発に最適です。新規参入のハードルが高いと思われてきたBLDCモータの制御も、ルネサスのソリューションを用いれば大幅にハードルが下がります。インバータボードと様々な制御ソフト、開発支援ツールがセットとなった、ルネサスのモータ制御評価キット「24V Motor Control Evaluation System for RX23T (以下、『モータRSSK』)」を使って実際にモータ制御を行ってみましょう。

モータRSSKとはどんなキットなのか

第2回で説明したように、BLDCモータの制御にはインバータ回路やPWMを出力するモータ制御用のマイコンなどが必要です。モータRSSKはモータ制御に必要な機材が一式揃っており、開封後すぐにモータ制御を行えるキットとなっています。さらに、モータRSSKに対応する制御ソフトや開発支援ツールはルネサスのWebサイトからダウンロードできるため、誰でも簡単に様々なモータ制御方式を試すことができるようになっています。同梱されているモータ制御のマイコンはRX23Tですが、RX23Tを搭載した基板”CPUカード”がインバータボードから付け外しできるようになっているため、別なモータ制御マイコンを搭載したCPUカード(別売)を利用すれば、様々なマイコンでモータ制御を行うことができます。モータ制御用マイコンの選定にも使えるかもしれませんね。

モータRSSKに対応する制御ソフトはベクトル制御や120度通電制御など様々ですが、今回は試しに、ホールセンサを使用した120度通電制御と、センサレスベクトル制御でモータ制御を行います。まず、120度通電制御を試します。

図1:モータRSSK (Renesas Solution Starter Kit)

図1:モータRSSK (Renesas Solution Starter Kit)

モータ制御の準備 Analyzer機能とは

ホールセンサを利用した120度通電制御を行うには、モータ制御用マイコンに、ルネサスのWebサイトからダウンロードした「ホール120度通電制御ソフトウェア」を書き込みます。また、合わせてモータ制御の開発支援ツール Renesas Motor Workbench も利用します。それぞれ以下のリンクからダウンロードできます。

ホールセンサを利用した120度通電制御ソフトウェア

Renesas Motor Workbench

図2:Renesas Motor Workbenchの初期画面

図2:Renesas Motor Workbenchの初期画面

Renesas Motor WorkbenchはAnalyzer機能とTuner機能があります。まずはAnalyzer機能を試してみましょう。

Analyzer機能はモータを回転させながらCPUを停止させずに、マイコン内部の変数を読み書き、波形表示できることが最大の特徴です。CPUを停止させると、PWM出力の状態によっては大電流が流れてインバータボードが壊れてしまう可能性があります。そのため、モータ制御の分野では、他のアプリケーションのようにプログラムにブレークを張ってマイコン内部の変数を確認することはできないため、非常に有効な機能です。また、モータ制御、特にベクトル制御では”d軸”や”q軸”と呼ばれる電流値など、マイコン内部で演算した電流値を制御に使用しているため、通常のオシロスコープでは値を確認できません。その電流値を直接確認できることも大きな特徴といえるでしょう。他にも、トリガをかけたりズームしたりできるので、モータ制御用の開発支援ツールとして非常に有効です。DAコンバータや外部バスを使用してデータを出力したり、メモリに保存して後から解析したりするよりも、はるかに効率的です。

また、変数を利用してモータの回転/停止などをコントロールするユーザインターフェイスにもなります。ルネサスがWebにて公開しているモータ制御プログラムは、このRenesas Motor Workbenchがユーザインターフェイスとなっているので、こちらを利用して実際に120度通電制御によるモータ制御を行います。

120度通電制御を体験

では120度通電制御でAnalyzerから操作してモータを回転させてみます。操作方法は取扱説明書やソフトのアプリケーションノートを参照してください。

図3:120度通電制御の電流波形(ピンク/赤/水色:U相/V相/W相の電流波形)と通電パターンを切り替える信号(青)

図3:120度通電制御の電流波形

(ピンク/赤/水色:U相/V相/W相の電流波形)と通電パターンを切り替える信号(青)

各相の電流波形を観察します。Analyzerで確認すると、図3のような波形が確認できました。中央に色分けされて表示されている波形の詳細データが下段に表示されています。インバータ回路のスイッチングの関係上、電流値を取得できないタイミングがありますが、特徴的な電流波形になっています。120度通電制御を行った場合、矩形波のような電流波形になります。また、青色の信号の変化に合わせて通電するパターンが切り替わっていることが分かります。モータRSSKに付属するモータが回転する様子を見ると、第2回で説明した「カクカク感」はそれほど感じませんでした。実際のアプリに使用されているのも納得できます。

ベクトル制御の準備 Tuner機能とは

続いて、センサレスでベクトル制御を行います。先程の120度通電制御と同様に、RX23Tを搭載したCPUカードにプログラムを書き込む必要があります。センサレスベクトル制御のプログラムは2種類公開されており、ひとつは、書き込めばすぐにモータ制御できるWeb公開のプログラム。もう一つはRenesas Motor Workbenchをダウンロードしたフォルダに入っている、Tuner機能付きのセンサレスベクトル制御プログラムです。Tuner機能とは、ベクトル制御に必要なモータのパラメータや制御のパラメータを自動で調整できる機能です。本来ベクトル制御を行うには非常に多くのパラメータを正しく設定しなければなりませんが、このTuner機能を利用することで、面倒なパラメータ調整を簡単に行うことができます。Web公開のプログラムは既に付属のモータに合わせたパラメータが調整されたプログラムとなっているので、自動調整は不要です。

ここで、Webに公開されているセンサレスベクトル制御のプログラムを利用しても良いのですが、せっかくですからRenesas Motor WorkbenchのTuner機能を使ってベクトル制御を行いましょう。プログラムは、先ほどダウンロードしたRenesas Motor Workbenchの”mot_rmt”フォルダの中にあります。

図4:Tuner機能付きベクトル制御のプログラムでRenesas Motor Workbenchを接続した画面

図4:Tuner機能付きベクトル制御のプログラムでRenesas Motor Workbenchを接続した画面

Renesas Motor Workbenchのダウンロードフォルダ内にあるプログラムを利用してツールの接続を行うと、Analyzer機能とTuner機能の2つの機能が使用できる。

モータのパラメータを自動調整

ベクトル制御には、モータのパラメータや制御パラメータを設定する必要があります。プログラムによりますが、このパラメータは20個程度あり、それぞれ調整するのは非常に工数がかかります。この工数を大きく短縮するのがTuner機能です。

Tuner機能は自動調整したいモータを接続して、モータの「定格電流」「定格電力」「極対数」を入力するだけで、パラメータを自動で測定・計算して出力します。出力されたパラメータを制御ソフトウェアに組み込む事により、簡単に安定したBLDCモータの駆動を実現することができます。

取扱説明書に従って、Tuner機能を使用してみます。自動調整を行うと、30秒程度でパラメータの調整が完了します。Tuner機能により、調整した結果をルネサスのベクトル制御プログラムで使用できる定義ファイルとして出力したり、図5に示すようなPDFファイルのレポートとして出力したりすることができます。何度も同じモータを調整したりしないで済むのと調整結果を簡単に蓄積できて便利です。

図5:Tunerが出力するパラメータの表示例

図5:Tunerが出力するパラメータの表示例

Tunerへデータを入力すると自動調整を行い上記のような制御パラメータを算出します。

ベクトル制御を体験

自動調整したパラメータを利用してセンサレスベクトル制御でBLDCモータを駆動します。ベクトル制御の特徴として挙げられる、トルクに直結する電流値を確認します。第2回の最後に説明した通り、ベクトル制御では座標変換を行い3相の交流値を2相の直流値として扱います。その2相はトルクの電流(q軸電流)と磁束を作る電流(d軸電流)です。これらの挙動を確認します(図6)。

図6:ベクトル制御の電流波形(赤:q軸電流、青:d軸電流、黄/橙/緑:U相/V相/W相電流)

図6:ベクトル制御の電流波形(赤:q軸電流、青:d軸電流、黄/橙/緑:U相/V相/W相電流)

まずモータを1000rpmで回転させてみます。その時の波形は図6のようになりました。

トルクに関するq軸電流(赤色の線)は50mA程度流れていました。

次にモータの軸に少し負荷をかけてみます。すると、図7のように、d軸の電流値はそのままに、トルクに関係するq軸電流だけ100mA程度増加したことが分かります。負荷に応じて無駄なくトルクを増やしているのです。結果として、3相で見た場合は各相電流が増加して見えます。ベクトル制御では、q軸の電流値を変更して負荷に対応するトルクを出しましたが、これを3相の電流値を調整して行おうとした場合、非常に困難です。また、120度通電制御の電流波形と比較して、3相の電流値はきれいな正弦波となっています。大きくな変化は目で見てわかりませんが、少し滑らかな回転になったと感じられます。

図7:負荷をかけた際の電流波形

図7:負荷をかけた際の電流波形

BLDCモータの制御を体験して

今回、ルネサスのモータソリューションキット「モータRSSK」を利用して、BLDCモータの120度通電制御やベクトル制御を体験してみました。取扱説明書やアプリケーションノートに細かく記載があるので、スムーズに各制御方式を試すことができます。各制御方式のプログラムが用意されているので、比較することで制御方式の理解を深めることにも役立ちます。これからBLDCモータに取り組む方にお勧めできるソリューションキットです。

Renesas Motor Workbenchを導入する手順やモータRSSKについて、『モータ制御評価キット 導入検討&スタートアップサイト』にて動画などで詳しく解説しています。ご活用下さい。※モータRSSKのご購入はこちらから

これまで、3回にわたってBLDCモータに関する解説をしてきました。BLDCモータはDCモータと違って、電源を接続するだけでは回りませんが、小型で高効率のため幅広い分野での採用が期待されており、今後も普及が進んでいくでしょう。その中でも、センサを利用せず、特に高効率な制御ができるセンサレスのベクトル制御は、特に注目が集まっています。非常に複雑なセンサレスベクトル制御ですが、モータRSSKを利用すれば、短時間に実機確認を行うことができます。ルネサスのモータソリューションを使って、小型で高効率、そして制御性のよいBLDCモータのご利用を是非ご検討ください。

BLDCモータ入門

  1. BLDCモータとは
  2. BLDCモータの制御
  3. ルネサスが回す、BLDC モータ