約1年前、ルネサスは、分断された現代の組み込みシステム開発プロセスを統合するために、「Renesas 365, Powered by Altium」という新たなコンセプトを発表しました。クラウド接続型のこの開発プラットフォームは、当時まだ具体化の途上にありましたが、そのビジョンはすでに明確でした。エンジニアがコンセプトから製品実装へと進むにつれ、多様なハードウェア、ソフトウェア、開発支援ツール、設計チームにまたがるワークフローを整理・効率化し、設計意図に沿って統合するための、より良い手段が求められていました。 私たちは、ドイツ・ニュルンベルクで開催された「embedded world」における記者会見で、そのビジョンにおける重要なマイルストーンを発表しました。Renesas 365の第1フェーズが、いよいよ一般提供開始となったのです。

組み込み設計を加速するプラットフォーム

この成果が重要なのは、私たちが解決しようとしてきた課題が、ますます差し迫ったものとなっているからです。製品がソフトウェアに依存する度合いが高まり、外部とのネットワーク接続が進展するにつれ、設計サイクルの早い段階から迅速かつ的確な意思決定が求められるようになり、組み込み設計の複雑さはますます増しています。しかし依然として多くのエンジニアは分断されたツールやファイル、手作業の部品選定に頼っています。その結果、付加価値をほとんど生まないままエンジニアの貴重な時間を浪費する「設計の孤島」化(設計ワークフローの分断)を生み出しています。
Renesas 365は、こうした現状に一石を投じるために設計されました。デバイス探索、モデルベースのシステム開発、初期コンセプトの検証を、単一のインテリジェントなクラウド環境に集約したのです。
Renesas 365のコンセプトを発表した際、「シリコンとシステム開発をつなぐ」ものとして説明しました。この考え方は、現在も変わっていません。一般提供開始となる第1フェーズでは、550を超えるルネサスのRAマイコンが、ルネサスの統合開発環境(IDE)e² studioやRA用のFlexible Software Package(FSP)、ソフトウェア開発キット(SDK)、各種ツールチェーンと連携して利用可能です。これにより、エンジニアは構想段階からデバイス選定、そして初期実装まで、使い慣れたツールやワークフローを使い続けながら、迅速に進めることができます。

連続性とシステムレベルの認識がもたらす信頼
Renesas 365は、単一のインターフェースを通じてデータ収集と意思決定を支援するだけでなく、モデルベースかつコンテキスト(システム要件や制約条件)認識型のプラットフォームです。それはどのように実現されているのでしょうか?
従来のワークフローでは、エンジニアはデータシートの確認、ピン多重化のチェック、周辺機能の比較、タイミングや消費電力の制約確認に、多くの時間を費やしてきました。手探りで見極めるために時間がかかり、繰り返しの多い作業です。選択したマイコンが自分たちのシステムに合うのかを探るために必要不可欠な作業である一方、選択したマイコンが実際のシステムで期待通りに動作するという保証は多くの場合ありません。
Renesas 365は、この体験を変えようとしています。部品を個別に評価するのではなく、システム全体の要件(設計意図) に基づいて適切なマイコンを推奨します。デバイス単体でみるのではなく、インターフェース、周辺機能、タイミング、リソース使用量など、システムを構成する要件との整合性を考慮します。これまで手作業で数時間かかっていた検討作業が、数分で、より妥当な出発点を得られるようになります。
重要なのは、Renesas 365は既存のデスクトップ設計ツールを置き換えるものではなく、それを補完することを目的としていることです。たとえば、既存のRAユーザーは、現在の e² studioプロジェクトをRenesas 365に連携させて、すぐに利用を開始できます。Altium Designerを用いたPCB設計もそのまま継続可能です。Renesas 365が提供するのは、システム全体にわたる連続性です。構想段階や部品選定で下した判断を、重要なデータを作り直したり、探し直したり、失ったりすることなく、設計実装へと確信をもって引き継ぐことができます。
連続性は、Renesas 365の核となる考え方の一つです。今日の多くのハードウェア、ソフトウェア、システム開発の現場では、複数のチームが並行して作業する一方で、それぞれが独立して動いているのが実情です。そのため、あるチームによる変更やその影響が、レビューの終盤になるまで見えないことがあります。こうした変更点の発見の遅れが、時間とコストの増加につながり、顧客の信頼や市場投入までの時間的優位性を損なう恐れがあります。
Renesas 365は、すべての設計領域にわたって、デジタルスレッド(設計情報の一貫したつながり)を維持します。異なる設計上の判断が、互いにどのように関連しているかというコンテキストとして認識することで、変更の影響を早期に把握し、下流工程へ影響が及ぶ前に競合や不整合をプラットフォーム上で特定できます。

出荷後のアップデートとライフサイクル管理への拡張
一般提供開始に伴い、本プラットフォームは初期の設計オプションの探索を超え、より広い領域へ適用範囲を拡張し始めました。今回新たに導入された注目機能の一つが、RAベースシステム向けのOTA(Over-the-Air)デバイス管理です。ネットワーク接続された製品では、出荷後もアップデートやセキュリティ管理、ライフサイクル対応が不可欠となっています。OTAやフリート(デバイス群)管理をプラットフォームに組み込むことで、Renesas 365は設計時の意思決定と、製品導入後の実際の運用状況を結び付け始めています。
ルネサスのデジタライゼーションビジョン実現に向けた重要なマイルストーン
Renesas 365の一般提供開始は、Altium の戦略的買収の意義を改めて示すものでもあります。クラウドベースのハードウェア設計、コラボレーションにおけるAltium の強みと、シリコン、組み込みソフトウェア、アプリケーションの知見などルネサスの強みを融合させた結果が、Renesas 365です。これは単なる新しいツールではありません。初期のアイデア創出、ハードウェアとソフトウェア協調設計、デバイス選定、ライフサイクル管理までを、システム視点でつなぐプラットフォームです。今回のマイルストーン達成により、ルネサスはAltiumと共に「電子システム設計・ライフサイクル管理プラットフォーム」を構築し、より多くの人にエレクトロニクス設計を開放し、イノベーションを促進する、というデジタライゼーションビジョンに一歩近づきました。
これが、Renesas 365が設計エコシステムにおける他のソリューションとは一線を画す点です。PCB設計、シミュレーション、部品探索など、特定の領域に特化したツールは数多く存在します。Renesas 365はこれらの領域にまたがる意思決定をつなぐことを目的としています。そのため、Renesas 365は、サードパーティ製のコンポーネントや複数のベンダーによるアーキテクチャをサポートするオープンプラットフォームとして設計されています。実際のシステム開発が単一の閉鎖的な環境で行われることはほとんどないからです。
初期段階から開発を導くAI支援
Renesas 365では、AIが重要な役割を果たしています。設計作業を行う時点では、AIはバックグラウンドで動作しています。システム設計の意図を解釈し、モデル要件に基づいて、適切なデバイスや構成、接続の候補を提案します。また、必要に応じて関連ドキュメントやサンプルソフトウェアを提示してくれるため、手作業による手間が軽減されます。こうした設計支援に加え、将来的にはアプリケーション側のAIもサポートし、予知保全や適応制御など、製品が実現場でのどのように振る舞うかを定義するAIモデルをお客様が構築できるようにすることを目指しています。これにより、システムの信頼性を損なうことなく、開発を加速します。
継続的な進化に向けた第一歩
今回の Renesas 365 の一般提供開始は、あくまで始まりに過ぎません。現在はRAマイコンから始まっていますが、今後はルネサスのマイコン/MPU ポートフォリオ全体、さらに豊富なサブシステムやデバイスファミリ、エコシステム連携へと拡張していく計画です。エンジニアがストレスの少ない環境で、より多くの時間をイノベーションに充てられる――それがRenesas 365の長期的な目標です。
ニュース&各種リソース
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