産業用モータ駆動システムにおいて、ベルトは回転体間で機械動力を伝達するために極めて重要な役割を果たしています。 これらの部品は、モータで駆動されるシャフトと、ベルトを介して動力を受けるシャフトを接続し、さまざまな産業機器で信頼性の高いベルト駆動システムを構成します。
ベルトは、動力伝達効率が高く、コスト面でも優れ、取り付けや交換が容易であることから、多くの設計者に採用されています。 形状、材料、性能特性の選択肢も広く、機械構造や動作条件に合わせて柔軟に適用できます。
一方で、ベルトは機械部品である以上、長時間の連続運転により劣化します。 疲労、裂け、摩耗に加え、振動、過負荷、過酷な環境条件が連続運転に伴う劣化を加速させる場合があります。 小さな損傷であっても、装置性能の低下、振動増加、周辺部品の摩耗促進につながります。さらに、突発的なベルト故障が発生すると、生産ライン全体の停止につながるおそれがあります。
稼働中のベルトの損傷を早期に見つけることは容易ではありません。そのため、従来は突発停止や高額な保全対応につながるケースがありました。 AIを活用した本アプローチでは、外付けセンサを追加せず、ベルト損傷を高精度に検出します。 これにより、産業システムを高い稼働率で維持するための、低コストでスマートな監視システムを構築できます。


上の図に示すように、本検証では、次の2種類のベルトを比較しました。
- 小さな損傷を持つ、軽微な構造欠陥のあるベルト
- 目視できる損傷のない正常なベルト
次のセクションでは、このわずかな損傷をAIモデルがどのように検出したか、また検出精度と有効性を示す評価結果を紹介します。
ベルトの損傷をどのように検出するのか
検出方式を評価するため、正常なベルトと目視可能な損傷を持つベルトを用いたテストベンチを構築しました。 各ベルトは2軸構成のシステムに取り付けています。
- 駆動側シャフトは、ルネサスの「RA6T2 モータ制御キット」で駆動される低電圧BLDCモータにより回転させました。 このキットは、RA6T2モータ制御CPUボードと低電圧モータ制御インバータボードで構成されています。
- 従動側シャフトは、モータで直接駆動せず、ベルトを介してのみ駆動します。
この構成により、ベルト状態の違いがモータ駆動信号にどのように現れるかを評価できる、再現性の高いデータ取得環境を構築できます。

まず正常なベルトで基準データを取得し、次に損傷のあるベルトで同じ測定を実施しました。 外付けセンサを使わない完全なセンサレス構成を採用し、インバータの電圧/電流フィードバックを取得して、ベルト損傷検出用のAIモデル学習に使用しました。
データ収集とAIモデルのトレーニング
本ワークフローでは、e² studio内のReality AI™ Utilitiesを介して、Renesas Reality AI Tools®クラウドプラットフォームとData Storage Toolを連携させます。これにより、堅牢で高性能な検出モデルを効率的に構築できます。 このワークフローの主な利点は次の2点です。
- 信号波形の可視化、ノイズ成分の確認、データセット分割の自動化によるデータ準備の効率化
- 精度と小さなメモリフットプリントの両立を目的とする、AIモデルの学習、最適化、チューニングを一貫して行うための効率的な環境
データセットは、次の2つのクラスに分類しました。
- 正常ベルトクラス:損傷のないベルトから取得したデータ
- 損傷ベルトクラス:裂け目のあるベルトから取得したデータ
モデル学習後、独立したデータセットを用いて交差検証を実施しました。これにより、未知データに対するモデルの堅牢性と汎化性能を確認します。 最終的なモデルは、精度を維持しながら、組み込み実装に適したサイズと演算負荷に抑えられています。
- RAM:9KB
- ROM:4.8KB
- 交差検証精度:98%
実環境での検証
モデルの性能を確認するため、実機テストベンチを使用し、2種類の動作条件で評価しました。
- コールドスタート試験:モータが周囲温度の状態からの短時間運転
- 熱安定性試験:モータ温度が上昇した状態で長時間運転
どちらの条件でも検出性能は安定しており、実際の運用環境を想定した条件下でも一貫した結果が得られました。
以下の図は、各条件におけるモデルの性能です。
- 左:コールドスタート時の性能
- 右:高温時における定常状態性能


まとめ
産業用ベルトの損傷は、突発停止、設備信頼性の低下、保全コストの増加を引き起こす要因になります。 本稿で紹介したAIを活用したセンサレス検出方式では、外付けセンサを追加することなく、ベルトの損傷を早期に検出できます。 これにより、エンジニアは定期点検中心の保全から、連続的な状態監視に基づく予知保全へ移行できます。異常が生産ラインに影響を与える前に対応できるため、設備運用の安定化に貢献します。 より早期に適切な保全判断が可能となるため、以下の効果が期待できます。
- 計画外ダウンタイムの削減
- 設備信頼性の向上
- 保全サイクルの最適化
- 総運用コストの低減
お使いのモータドライブで、センサレスベルト監視を検証してみませんか?
デモをご依頼の上、ルネサスのカスタマーサクセスチームまでお問い合わせください。。インバータ電流/電圧信号を活用した、迅速かつ効率的な概念実証(PoC)の進め方をご紹介します。
ビデオ&トレーニング
Detect belt damage using AI-based motor analysis on the RA6T2 without the need for external sensors or cloud connectivity. Real-time monitoring of motor electrical signals enables identification of damaged and healthy belt conditions. System operation is demonstrated to show accurate fault detection, reduced false alarms, and fast response. The solution provides a scalable and cost-effective approach for predictive maintenance in industrial applications.



