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Naoki Abe
Naoki Abe
Principal Specialist
掲載: 2023年3月22日

モータはシンプルなDCモータ、インバータから複雑なACサーボまで種類や用途は様々で、世界中のエネルギーの40%を消費していると言われている人類の生活には必要不可欠な機器です。各国で省エネルギー関連制度が制定されて、消費電力の大きいモータ制御システムの低消費電力化はますます重要視されていくことでしょう。これらモータ制御アプリケーションの低消費電力化にはエネルギー損失を減らすためにモータ自体の高精度制御、高効率化が非常に有効であり、それを実現する要素技術としてモータの位置・速度や電流・電圧といった多くのパラメータの高速かつ高精度な検出が重要です。

特に低消費電力効果の高い大電力を必要とする大型のドライブやACサーボといったモータ制御においては、パラメータの中でもモータの速度、トルクや位置制御の基準となる電流・電圧の高精度なフィードバックが最重要です。電流・電圧の検出には一般的にAD変換器を使用しますが、AD変換器は用途に応じて種類が様々です。組み込みシステムで使用されるAD変換タイプを下記に示します。加えて実装方式としてマイコン内蔵型、絶縁機能付きなどがあります。

表1:主なADコンバータのタイプとその特長
タイプ 特長 応用
フラッシュ型 6~8bit、100M~1GHzと非常に高速 高速信号の測定
パイプライン型 8~12bit、サンプリング周波数が1M~1GHzと高速 画像信号処理用
逐次比較型 8~14bitで1us程度の変換時間 MCU内蔵の主流。モータ制御
ΔΣ型 16~24bit オーディオ、カメラレンズ、測定器、センサ
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分解能(bit)対サンプリングレート(sps)
図1:主な ADコンバータの標準的なサンプリング レートと分解能

主にモータ制御で多用されるのが逐次比較型で8~14bitの分解能、1Msps程度のサンプリングレートであり、変換時間はその逆数の1us程度です。他にはより高分解能な変換方式としてΔΣ型があり16~24bitの分解能を実現しますが、モータ制御としては変換時間が長くモータ電流の変動に追従できないスペックのものが大半です。

RA6T2は2021年12月にリリースし、先述の通り逐次比較型12bit ADCを内蔵しており6.25Mspsの高速変換が可能です。この度、このADCに新方式の16bit ADCの機能を追加仕様としてリリースすることとなりました。このADCは逐次比較型とΔΣ型を組み合わせたハイブリット型のA/D変換器であり、以下のような特長があります。

RA6T2の新方式AD変換器の特長。

  • 既存の逐次比較型12bit ADCの機能は従来通り使用可能
  • ノイズシェーピング逐次比較型A/D変換器(NS-SAR ADC) と呼ばれる新方式のAD変換器
  • 逐次比較型ADCの高速性、ΔΣ型ADCの高精度を両立する動作を行う回路方式

これによりRA6T2において6.25Mspsの高サンプリングレートと16bitの分解能を両立することができます。実際のモータ制御アプリケーションにおいては高速性によりPWM周波数が上がる場合の電流制御ブロックの演算時間の確保が可能となり、同時に電流検出精度が要求される軽負荷・低電流時の制御精度向上に大きく貢献します。

また、この度ハイブリッド型ADCのリリースに加えて差動入力の機能も新たに公開しました。エンジニアの方は良くご存知だと思いますが、差動入力によりコモンモードノイズと干渉を減らし、シングルエンド入力と比較してダイナミックレンジを広くとることができます。

RA6T2搭載のADCのスペックの詳細については下記表を参照してください。逐次比較型の高速性と16bit ADCの高分解能が両立できていることが分かります。

表2:ノイズ シェーピング SAR と一般的な SAR ADC の仕様比較
方式 ハイブリッド型
逐次比較型 NEW  ノイズシェーピング逐次比較型
分解能 12-bit 16-bit
入力信号 シングルエンド入力 シングルエンド入力、差動入力
ENOB (Typ) 11-bit Sinc フィルタ: 13-bit (シングルエンド入力), 14-bit (差動入力)
最小位相フィルタ: 11-bit (シングルエンド入力), 12-bit (差動入力)
サンプリングレート(Max) 6.25Msps オーバーサンプリングモード 6.25M/22 sps
ハイブリッドモード 5.55Msps
変換時間 (Min) 0.16us オーバーサンプリングモード 0.16us x 22 TAPs
ハイブリッドモード 0.18us
用途 モータ相電流検出
センサ入力
オーバーサンプリングモード: センサ入力
ハイブリッドモード、連続スキャンモード: センサ入力
ハイブリッドモード、バックグラウンド連続スキャンモード: モータ相電流検出

このハイブリッド型ADCの実機による評価環境の構築もすぐできます。RA6T2のモータ制御評価キットであるMCK-RA6T2のCPUボードに付属のインバータボードはシングルエンドのみの対応ですが、CPUボードの外部インバータボードとの接続I/Fは差動入力も可能なようにパターンを準備しており、ユーザの差動対応のシステムとの接続が容易です。是非、RA6T2のCPUボードでこの優れたハイブリッド型ADCの性能を実感してみてください。

最後に、今回新たにハイブリッド型ADCのリリースをしたため、製品型名に変更はありませんが型名末尾に付加するサフィックス(型名末尾の#以下の部分)を変更することとなりました。

  逐次比較型 12-bit ADC バージョン ハイブリッド型 16-bit ADC バージョン
製品型名 R7FA6T2xxxxxx#AA0
R7FA6T2xxxxxx#BA0 (Full carton)
R7FA6T2xxxxxx#AA1
R7FA6T2xxxxxx#BA1 (Full carton)

xxxxxx: 6桁の内蔵メモリ、機能、パッケージコード

新ハイブリッド型ADCの基本的な評価は旧サフィックス(#AA0/#BA0)でも可能ですが、動作と電気的特性の保証は新サフィックス(#AA1/#BA1)となる点にご注意ください。

ホワイトペーパーやアプリケーションノートなどの詳細については、renesas.com/RA6T2 をご覧ください。 モータ制御評価キットの詳細については、renesas.com/MCK-RA6T2 を参照してください。

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