USB PDの技術 〜安全と利便性を実現する技術〜

USB PD 徹底解説:2 of 5

PCやモニターも駆動できる電力(最大100W)を供給するUSB PD。安全性を確保しつつ高い利便性を実現しています。 どのような技術で安全と利便性を実現しているのでしょうか。

多彩な新機能

USBによる電力供給規格「USB PD3.0(以下、USB PD)」では、1つの端子から最大100Wもの電力を給電できます。多くの周辺機器を同時に動かせ、機器毎のACアダプタは不要になります。USB PDの特徴は、大電力だけではありません。給電側と受電側の役割を瞬時に切り替える「FRS(ファスト・ロール・スワップ)」や、無駄な発熱を生じさせることなく急速充電を可能とする「PPS(プログラマブル・パワー・サプライ)」といった機能があります。そして、最新バージョンで最も重要な機能追加が、機器間認証を行う「C-AUTH」です。今回は、USB PDの特徴と共に新機能を解説します。

もう5Vだけではない

従来のUSBでは、5Vの電圧のみが用いられてきました。しかし、多様なデジタル機器を動かそうとすると、5Vだけでは足りなくなります。急速充電やモータ駆動を考えると、より高い電圧が欲しくなります。種々の装置の駆動を考えて、5V以外に9V、15V、20Vが導入されました(表1)。電流は、通常のUSB Type-C™のケーブルでは3Aまで、USB PD用のケーブルでは5Aまで流すことのできる規格が定められました。こうして、最大100Wの電力供給が決まりました。

PDパワー 5V 9V 15V 20V
15W以下      
15W超 27W以下 3A    
27W超 45W以下 3A 3A  
45W超 60W以下 3A 3A 3A
60W超 100W以下 3A 3A 3A *

※5Aケーブル使用時、3Aケーブル時は3Aまで

表1:ソースが備えるべき電圧・電流の条件(はPDパワーにより電流値が決まるもの)

電圧が多様化したことで、使い勝手が悪くなっては困ります。もし、12V2A(24W)で動作するデバイスがあったとしましょう。手元には、27Wと記されたACアダプタがあります。このACアダプタが何Vの出力を行えるのか、利用者は知りません。果たして、この27WのACアダプタをつないでよいのでしょうか。

このような疑問、混乱を解消するため「パワールール」が決められました。パワールールを説明する前に、USB PDの世界で使われている機器の呼称を紹介します。今回のACアダプタのように給電する側を「ソース」、受電する側を「シンク」と呼びます。給電、受電という役割を示した用語と思って良いでしょう。

では、USB PD的に表現します。パワールールとは「ソースの電力値(Wの値)≧ シンクの電力値(同)」ならば、動作することを保証するための機器設計ルールです。先ほどの例の場合、シンクはソースであるACアダプタに向かって「12Vが欲しい」と伝えても、これは給電義務のある標準電圧ではありません。12V以下の標準電圧で、最高のものは9Vです。ソースは、自身が12Vに対応していない場合は、9Vを供給します。一方、シンクも要求電圧が標準電圧でない場合、要求電圧よりも低い標準電圧のうちで最も電圧が高いもので給電されても動作するように設計することが求められています。この例では、ACアダプタが標準電圧に対応するのみでしたので、9Vが供給され、電流は2.67Aとなるでしょう。デバイスは、2Aではなく2.67Aというより大きな電流にも対応するように作られていないとなりません。電力供給は3A以下ですから、標準のUSB Type-C™ケーブルで給電可能です。このようにパワールールによって利用者は動作可能かどうかを簡単に判定できます。

  USB PD2.0 USB PD3.0
対象コネクタ Type-A, Type-B, Type-C™* Type-C™のみ
最大電力 100W 100W
パワールール Type-C™利用時のみ適用
FRS(ファスト・ロール・スワップ) -
PPS(プログラマブル・パワー・サプライ) -
国際標準(IEC63002)対応 -
機器間認証(C-AUTH) -

※バージョンにより差異あり

表2:USB PD2.0とUSB PD3.0の比較

給電、受電の関係を一瞬で入れ替える

第1回で紹介したFRSは、USBを使った給電の姿を大きく変えると期待される技術です。ソース(給電)とシンク(受電)の関係を短時間で切り替えるものです。あるデバイスをソースとして、ここから充電していた電池(シンク)があるとします。ケーブルの接続はそのままで、今度は電池をソースにしてデバイスはシンクになり、電池からの給電が始まるのです。FRSは、デバイスに接続されていた電力源が突然切れても、短時間(150μsec以内)にソースとシンクの役割を交換し、システムは稼働し続けられるようにする仕組みです。

変換ロスを抑えるPPS

PPSは、極めて小さなステップで電圧、電流を変化させる機能です。PPSに対応したソースに接続すると、シンクからソースに細かなステップで電圧、電流の変化を要請できるようにします。この機能は、充電の際に変換ロスを抑えるのに有効です。

リチウムイオン電池の代表的な充電方法では、まず一定の電流で電圧を徐々に上げていく定電流充電を行い、その後電圧を維持して電流を徐々に下げていく定電圧充電を行います(図1)。これまでのUSBは5Vしか供給できませんでした。USB PDでも従来は、細かなステップで電圧、電流を変化させることができませんでした。リチウムイオン電池に充電を行う時は、受電側に高い電圧を供給し、受電側で電圧、電流を調整してもらう、といった方法が考えられます。しかしその場合、リチウムイオン電池の端子電圧と給電電圧との差分は熱になり変換ロスとなります。PPSを使って、給電側で電圧、電流を小刻みに変更することで、必要な電圧パターン通りに給電でき、発熱および変換ロスを抑えることができるのです。

図1:急速充電の電圧・電流パターン。

図1:急速充電の電圧・電流パターン。

電流を一定にして電圧を少しずつ上昇させたり、電圧を一定に保って電流を少しずつ減らしたり、といった制御が必要となるので、PPSの威力が発揮される

機器間認証で安全性を確保する

USB PDの極めて重要な拡張は、機器間認証(C-AUTH)を行えるようになったことです。USB規格の策定団体であるUSB-IFのコンプライアンステストに合格することで、認証された製品としてUSBロゴマークの使用許諾を得ることができます。しかし、製品を目で見ただけでは、それが本当に認証された製品であるのか、そうでないのかはわかりません。それらを区別する仕組みとしてUSB PD3.0で導入されたのがUSB Authenticationという仕組みです。

ちなみにこのAuthenticationというのは日本語にすると、これも「認証」となってしまいます。実は従来の意味の「認証」は、英語ではCertificationと別の単語なので、これは日本語に訳すときのみの問題です。本稿ではAuthenticationの方を従来の「認証」と誤解されないように意訳して機器間認証(C-AUTH)としました。機器間認証について、詳しくは次回で説明します。

今回紹介した技術は、Type-C™ケーブルのUSBが行うデータ通信とは別に、機器管理に関する通信専用の信号ライン(CC: Configuration Channel)を通じて情報を送ることで実現しています(図2)。電源ラインに情報を載せていた以前のバージョンに比べて通信の確実さが増したため、時間に厳しい動作にも対応しています。最新のUSB PDは、国際標準(IEC 63002)が定めた電源とデバイス間の通信も行えます。この結果、USB PDは国際標準準拠となります。国際協定で、政府や一部の公共企業が調達する製品は国際標準に準拠することが求められています。そのため、USB PDを採用した製品は調達の場合に有利な立場を得られます。

図2:USB Type-C™のピン配置2つある「CC」ピンが通信に使われる

図2:USB Type-C™のピン配置

2つある「CC」ピンが通信に使われる

USB PD3.0は、通信を活用して種々の新機能を実現しました。次回は、USB PDが安全性について、規格面でどのような配慮をしているかを説明いたしましょう。