ルネサスは、2025年1月に当社の執行役員 兼 CHRO(Chief Human Resources Officer)に就任した中西 詩絵さんにインタビューを行いました。インタビューでは、リーダーシップや協働の価値、人事部門がルネサスの「組み込み半導体のソリューションプロバイダーとしてトップ3を目指す」というアスピレーションをどのように支えるのかについて、幅広く考えを語ってもらいました。
中西さんは、半導体業界において25年以上の人事経験があります。マイクロンでは、グローバル人材が力を発揮できる環境を築き、変革や統合、リーダー育成を主導することで、成長とイノベーションの推進に貢献してきました。中西さんは、オレゴン大学で政治学と経済学を学ぶために渡米し、その後、米国のハイテク業界でキャリアと生活の基盤を築いてきました。
聞き手: まず、ルネサスに入社した経緯を教えてください。
中西: 最初のきっかけは、柴田CEOが掲げる「組み込み半導体のソリューションプロバイダーとしてトップ3を目指す」というビジョンに出会ったことでした。この考えに強く共感し、自分の豊富な人事経験をその実現に役立てられると感じました。
さまざまなリーダー職の経験を通じて、私は社員こそが企業にとって最も重要な資産であることを実感しました。人事は社員が力を最大限に発揮できる環境をつくるうえで欠かせない役割を担っています。ルネサスでは、意欲的な目標に向かって挑戦する社員が成長し、力を発揮できる企業文化の醸成に取り組んでいきたいと考えています。
ルネサスのカルチャーに共感
聞き手:これまでに感じたルネサスのカルチャーについて、どのような印象をお持ちですか。
中西:非常にポジティブな印象を持っています。社員同士の協力や思いやりのある姿勢が、大きな活力につながっています。社員は皆さん気さくで話しかけやすく、ルネサスの発展に強い責任感を持って取り組んでいます。社員が同じ方向を目指して協力することで、強い一体感と目的意識が生まれています。
また、経営陣が社員に対してオープンで、社員を大切にしている姿勢も大変印象的です。社員の声に耳を傾け、フィードバックを行動に移す姿勢があります。継続的な改善と成長、そして機敏な対応力を大切にする企業文化が表れています。この点は、世界中の拠点で、新入社員から長く勤めている社員まで幅広く共通して聞かれることです。
そして、TAGIEと呼んでいるルネサスのコアカルチャーは、私自身に強く響いています。TAGIEは、「Transparent(透明性)」「Agile(機敏性)」「Global(グローバル志向)」「Innovative(革新性)」「Entrepreneurial(起業家精神)」を表しています。これらの価値観は、明確さや柔軟性を持ち、将来を見据えながらリーダーシップを発揮し、協働していくという私の姿勢と重なっています。
企業の統合を成功に導く人事施策
聞き手: 買収はルネサスの成長戦略の一部ですが、人事部門では新たに加わる企業の統合をどのように推進しているのでしょうか。
中西: 統合を成功させるには、共通のアイデンティティを築くことが不可欠です。先ほど述べたコアバリューに根ざした一貫した企業文化を育むことで、信頼や協働、そして長期的な成功の基盤となります。 その上で、統合を成功に導くために、優先的に取り組むべきことがいくつかあります。その一つが、組織横断的に能力を高め、つながりを深めることができる効果的なリーダーシップ開発プログラムと従業員育成プログラムの構築です。公平性と卓越性へのコミットメントを反映し、エンゲージメントや帰属意識、およびウェルビーイングを促進する従業員体験を提供することも欠かせません。
さらに、共感を持って傾聴する姿勢の重要性を強調したいと思います。特に過渡期においては、一人ひとりの声を受け止める場を設けることが、統合を成功させる大きな原動力となります。自分の意見が尊重されていると感じられることで、社員はより積極的に関わろうとし、変化に適応しやすくなります。
デジタライゼーションに必要な人材とは
聞き手: ルネサスは「電子機器設計プラットフォームを構築し、エレクトロニクス設計をより多くの人に開放することで、イノベーションを加速させる」というデジタライゼーションビジョンを掲げています。この実現にはエンジニアリング人材が不可欠です。どのような資質を持つエンジニアを求め、どのような人材を採用していくのでしょうか。
中西: 私たちは単にスキルを持つ人材を採用するのではなく、好奇心が旺盛で柔軟性があり、当社のミッションに強く共感して取り組むエンジニアのコミュニティを築こうとしています。技術的な専門性と同様に、価値観の一致やマインドセットも重要です。それによって、明確な目的を持ち、かつ大規模にイノベーションを実現することが可能になります。
そのため、エンジニア人材への投資は戦略的かつ計画性を持って進めています。私たちは、卓越した技術力に加えて、グローバルな視点と成長志向を兼ね備えた人材を求めています。ルネサスで働く人材には、変化の激しい環境で力を発揮し、会社と半導体業界双方の未来を自ら切り拓いていく意欲が求められます。
技術面では、AIやソフトウェアに関する専門知識が、デジタルトランスフォーメーションの次の取り組みを推進するうえで重要になります。同時に、企業文化として当社のTAGIEの価値観に共感し、一致することも欠かせません。この点については、グローバル市場から人材を採用することで、多様な視点や高度な専門性を取り入れることができると考えています。
人材の獲得に向けた取り組み
聞き手: ルネサスはインドへの投資を拡大していますが、同国での人材戦略について教えてください。
中西: インドは当社のグローバル人材戦略における要となる地域です。直近の18か月で750名以上の優秀な人材を採用しており、本年末までには社員数1,000名に達する見込みです。
重要な戦略的パートナーシップも、インドにおける当社の存在感をさらに高めています。今年5月には、インド政府の電子情報技術省(MeitY:Ministry of Electronics & Information Technology)と提携し、覚書(MOU)を締結しました。今後は250を超える現地の教育機関との連携を進めていきます。また、インドのCG Power社、タイのStars Microelectronics社と合弁事業を設立し、インド国内にOSAT(半導体後工程受託製造)拠点を新設します。これにより、同国が掲げるビジョン「Make in India for the World(メイク・イン・インディア・フォー・ザ・ワールド)」を支援します。2つの施設のうち、最初の施設が稼働を開始し、もうひとつの施設は2026年に稼働を開始する予定です。これらの取り組みは、インドを単なる人材拠点としてではなく、半導体イノベーションの未来をともに形づくる戦略的パートナーと位置づける、当社の長期的なコミットメントを示しています。
聞き手: ルネサスはハードウェアとソフトウェアの融合を進めていますが、今後の働き方を形づくる主要なトレンドと、それに伴う人事の役割についてどのようにお考えですか。
中西: 急速なイノベーションと激しいグローバル競争により、半導体業界はかつてないスピードで進化を迫られています。この変革の中心にあるのはAIとソフトウェア定義型技術の隆盛であり、製品の設計、開発、提供の在り方を大きく変えつつあります。
チップ設計、組込みソフトウェア、AI最適化を統合するには、幅広い分野にわたる専門性を持つエンジニアが求められます。ハードウェアとソフトウェアを一体的に設計するためには、システム全体を見渡す思考が必要です。デジタライゼーションをさらに加速させるには、機敏さ、連携、そして継続的な学習が、あらゆる部門で不可欠です。これらの取り組みを成功させることで、ルネサスの「人々の暮らしを楽(ラク)にする」というパーパスを実現する機会が一層拡大します。
最適な人材を確保するために、能力開発やメンタープログラムを整備し、キャリアの流動性を高めるとともに、デジタルツールやプラットフォームの活用を推進しています。また、ルネサス全体で創造性と成長を促進するため、刺激的で革新的かつ、多様性を尊重するインクルーシブなグローバル文化を育んでいます。
ルネサス創立15周年にあたり壁画を展示
聞き手: ルネサスは、企業文化を強化し、社員同士の結びつきを深めて創造性あふれる職場環境を実現するために、どのような取り組みを進めていますか。
中西: ルネサスは、社員同士のつながりを深めるとともに、未来志向の文化を育むことに強くコミットしています。例えば、新たに導入した「Back-to-Office(BTO)」では、週3日の出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方を採用しています。これにより、多くの社員が重視する柔軟性を維持しながら、対面での交流や協働の機会をさらに拡大する、適切なバランスを実現できると考えています。オフィスでは、自発的なやり取りやリアルタイムでの会話が、チームの結束を強めます。それにより、意思決定や課題解決が迅速化され、部門間の連携もスムーズになります。
ルネサスは、オフィス体験の向上と従業員の出社を促進するため、様々な施策を進めています。その一つが、ルネサスエレクトロニクス株式会社の発足15周年を記念して、豊洲本社と武蔵事業所に、全国から選抜された学生アーティストが製作した壁画を展示しました。学生アーティストの皆さんに参加いただくことで、彼らの成長を支援すると同時に、職場に新たな活力をもたらしています。ルネサスのグローバルな課題に取り組む姿勢と、未来に向けて努力する若い学生アーティストの決意との間に、強い共通点を見出しました。これらの壁画はオフィスに活気をもたらし、従業員の創造的思考やインスピレーションを喚起する一助となっています。
聞き手: ルネサスの人事・総務部門の目標について教えてください。
中西: 人事・総務(HR/GA)の最大の目標は、会社の成功を支える戦略的な推進力となることです。そのためには、事業戦略を深く理解し、人材、企業文化、業務運営をそれに沿って整えていく必要があります。また、全員がルネサスのパーパスとつながり、自ら貢献し成長できると感じられる、革新的でインクルーシブな文化を築くことも重要です。
その実現には、透明性の高いコミュニケーションを行い、社員の高いエンゲージメントと強い目的意識を確保できる具体的な育成・支援プログラムを整備することが求められます。人事・総務(HR/GA)は、組織の機敏性を高め、従業員体験を向上させるうえでも重要な役割を担います。HR/GAを単なるサポート機能にとどめるのではなく、変革を主体的に推進する存在とするために、社員や事業部門のリーダーとの間に信頼できるパートナーシップを築いていく必要があります。
聞き手: お仕事以外のことについても少し教えていただけますか。ご出身はどちらですか。また、プライベートの時間はどのようにお過ごしですか。
中西: 生まれ育ったのは日本です。18歳のとき、オレゴン大学への進学を機に渡米しました。その後、米国でキャリアと生活の基盤を築き、グローバルな環境で働く中で、日本で暮らし勤務したことも数年間あります。オフの日は、米国でも日本でも、読書や映画鑑賞を楽しんだり、家族や友人と屋外で過ごしたりします。
聞き手: 最後に、同僚や将来の仲間、そして社外の方々に伝えておきたいことがあれば教えてください。
中西: 何よりも、CHROとしてルネサスの一員になれたことを、心から光栄に思っています。この9か月間、チームの献身的な姿勢や、リーダー陣の温かいサポートに大いに励まされました。これからの歩みで最も刺激的に感じるのは、企業文化を一層強化し、ルネサスの成功に確かな貢献を果たせる機会があることです。皆さんと共に築く未来を心待ちにしています。このような機会をいただき、ありがとうございました。
聞き手:ありがとうございました。
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2024年11月6日
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