過去10年間で、コネクテッド・オブ・シングス(IoT)デバイスの数は、医療機器、スマートホーム、産業オートメーションに至るまで、さまざまな市場 で増え続けています。 これらのIoTデバイスは、計算負荷の高いデータ分析に加え、高度なグラフィックスとユーザー・インタフェースの統合、クラウド通信を可能にする多様なプロトコルの実装など、複雑な機能を求められています。 機械学習の進化により、エッジ上での音声・ビジョン AI 処理が可能になり、IoTデバイス自身がクラウドに依存せず賢く状況を分析して、処理を実行できるようになりました。 これにより、遅延や消費電力が削減され、帯域幅の節約やプライバシーの保護の強化にもつながります。さらに、オンチップの高度な暗号化アクセラレータ、堅牢なシステム分離、保存中および通信中のデータ保護など、高度なセキュリティも不可欠です。 バッテリ寿命を延ばし、システム全体の消費電力を削減するために、低消費電力と高速なウェイクアップ時間も求められています。
これらの新しい要件により、組み込みシステムには、これまで以上の高い処理性能が求められています。 同時に、これらの高度なアプリケーションの実装には、信頼性が高く、低消費電力の不揮発性メモリも欠かせません。 従来は、こうしたニーズに対応するため、強力なMPUまたは複数のMCUを使用していました。 最近では、MPUに匹敵する高性能を備え、中にはハードウェアAIアクセラレータ を搭載したマルチコアMCUが登場し、これらを1チップで実現できるようになっています。高性能MCUは、消費電力やコストを重視するアプリケーションにおいて、MPUの強力な代替手段となります。MCUにはMPUに比べていくつかの利点があります。リアルタイム性の高さ、電源管理と不揮発性メモリの統合、単一電圧レールによる設計の簡素化、低消費電力、そして一般的に低コストで使いやすい点などです。電力消費を抑えたいIoTアプリケーションに特に適しています。
より高い性能と機能を低消費電力・低コストで実現するため、プロセス技術は28nm、22nm、と微細化が進んでいます。 しかし組み込みフラッシュメモリは 40nm 以下では限界があるため、この動きが組み込みメモリ技術の革新を促しています。 その代表が磁気抵抗メモリ(MRAM)であり、従来の組み込みフラッシュに代わる技術として注目されています。 現在、TSMCをはじめとする多くのシリコンメーカーが、MCUに統合できる組み込みMRAMを提供しています。
ルネサスの高性能マイコンが市場のニーズに応える
高性能アプリケーションに必要な処理能力を提供するため、ルネサスはRA8M2およびRA8D2のシングルコア/デュアルコアMCUを開発しました。 Arm® Cortex-M85®およびCortex-M33コアを搭載し、7300 CoreMarkを超える画期的な性能を発揮します。これらの超高性能MCUは、複雑で計算負荷の高いアプリケーションを容易に駆動できます。 これらのMCUは22nmULLプロセスで製造されており、最大1GHzの動作周波数を実現。Cortex-M85コアの高性能と低消費電力を両立しています。大容量のオンチップメモリ、高速な通信ペリフェラル、外部メモリインターフェース、および最適化された機能構成により、計算負荷の高いIoTデバイスやグラフィックスアプリケーションに最適です。
RA8M2およびRA8D2デバイスには、不揮発性メモリとして組み込みMRAMが搭載されています。 高い耐久性 と データ保持性能を持ち、消去不要で高速書き込みが可能で、リーク電流と製造コストを抑えることができます。 IoTアプリケーションを真に保護するために、これらのMCUは、高度なセキュリティ、不変メモリ、およびArm® TrustZone®を提供します。
デュアルコアMCUで実現する高性能と高効率
RA8M2およびRA8D2 MCUのシングルコアモデルは、最大1GHzで動作するCM85コアを搭載し、Heliumベクトル拡張機能により、計算負荷の高いアプリケーションを効率的に処理します。 デュアルコア構成では、 CM33コア が加わり、 効率的なシステム分割、低消費電力のウェイクアップ動作が可能になります。 どちらのコアもマスターCPUまたはスレーブCPUの構成に対応し、それぞれ独立した電源制御が可能です。 プロセッサ間通信は、フラグ、割り込み、メッセージFIFOを介して行われます。

デュアルコアMCUは、処理能力の向上だけでなく、タスクの効率的な分割やリアルタイム性能の向上を実現し、IoTアプリケーションのパフォーマンスを大幅に高めます。1つのコアはリアルタイム制御やセンサーI/O、通信処理に、もう1つのコアをAI推論、画像・音声前処理、グラフィックス処理、モータ制御などに割り当てることで、システムの同時動作がより効率的になります。

たとえばCM33コアを低消費電力モードでバックグラウンド処理を行い、CM85コアは必スリープ状態に保ち、必要時のみ起動させることで、システム全体の電力効率が大幅に改善します。 さらに、デュアルコア構成はシステムの堅牢性を高めます。 計算負荷の高いタスクを、安全性が求められるリアルタイム制御から分離することで、信頼性の高い設計が可能になります。一方のコアが停止してももう一方に影響を与えず、冗長性と安全性を両立できます。こうした設計は、機能安全やフェイルセーフ設計にも有効です。
組み込みMRAMによる性能と電力効率の向上
製造プロセスの微細化が進む中で、フラッシュメモリに代わる新しい選択肢として、組み込みMRAM(eMRAM)が登場しました。RA8M2およびRA8D2にも、この次世代メモリ技術が採用されています。MRAMの利点のひとつは、リフローはんだ工程でもデータを保持できるため、出荷前にデバイスをプログラムしておける点です。また、MRAMはバイト単位でアクセス可能であるため、コードストレージ用のフラッシュだけでなく、データ用のSRAMの代替にも利用できます(電源遮断時にデータ保持が問題となるケースを除く)。 組み込みMRAMは現在、主要なシリコンファウンドリによってサポートされており、MCUメーカーはコスト負担を抑えながらMRAMを新しいチップ設計に組み込むことができます。
ただし、MRAMは近くの強い磁場によって影響を受ける可能性があるため、設計時には注意が必要です。 MCUメーカーは、アイドルモード、電源オフモード、および動作モードでの磁気耐性を仕様として定義しています。 設計者はこの耐性を超えないように磁界源との距離を確保し、必要に応じて磁気シールドを施すことが推奨されます。
MRAM の主な特長:
- フラッシュと比較して耐久性と保持力に優れた真のランダムアクセス不揮発性メモリ
- フラッシュと比較して書き込み速度が速く、消去は不要
- SRAMと同様、バイトアドレス指定および柔軟なアクセスが可能
- スタンバイ時のリーク電流がほぼ無い
- 読み出しが非破壊的で、DRAMのような更新が不要
- 放射線の影響を受けにくく、高信頼性
- フラッシュに比べて必要なマスク層が少ないため、製造コストを削減
- 微細プロセスノードにも適応でき、フラッシュメモリに代わってプログラムを実行できる技術
MRAMのターゲットアプリケーション
MRAMは低消費電力と不揮発性の特性を活かし、組み込みフラッシュ、SRAM、またはバッテリバックアップSRAMの代替として、さまざまなIoTアプリケーションに最適です。 また、高密度、低電力、不揮発性データストレージを必要とするデータロギング用途では、DRAMの代替としても有効です。 放射線に対する耐性があるため、医療用途や宇宙用途にも最適です。 さらに、産業用制御およびロボット工学、データセンターおよびスマートグリッドなどの分野でも、リアルタイムデータ保存、高速データアクセス、およびバッテリーバックアップSRAMの代替として活用が期待されています。
AIエッジ分野でもMRAMは大きな役割を果たします。AIニューラルネットワークのモデルや重みをMRAMに格納すれば、電源再投入後も保持され、毎回のロードが不要になります。 高速な読み書き、低消費電力、高耐久性を備えたMRAMは、こうした高処理性能を要するエッジAIアプリケーションに適しています。
まとめ
新しい用途が次々と生まれる中、MCUには従来以上の性能と特化した機能が求められています。強力なCPUコア、マルチコアアーキテクチャ、MRAMなどの新しいメモリ技術、豊富な周辺機能を備えたRA8M2およびRA8D2 MCUは、次世代アプリケーションに最適なプラットフォームです。
詳しくは、 renesas.com/ra8d2 と renesas.com/ra8m2 を参照してください。