~自己故障診断機能を強化し、ギガビットイーサネットを搭載したテストチップを開発~
2019年2月19日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長兼CEO:呉 文精、以下ルネサス)は、このたび、フラッシュメモリ混載28nm低電力プロセス採用の次世代車載制御マイコンに向けた技術として、600MHzで動作するCPUを4コアと16MBの大容量フラッシュメモリを搭載したテストチップを開発し、動作を確認しました。本テストチップには、(1)マイコンの仮想化を実現するための仮想化支援機構を実装しました。この技術は、1つのマイコンで複数のソフトウェアを相互干渉なく動作させることができる上、自動車向け機能安全規格ISO26262において最も高い機能安全レベルとなるASIL Dの要求を満たすことが可能です。また、(2)ASIL Dの実現に必要となるマイコンの自己故障診断を行うBIST(Built-in Self-Test)機能を強化し、スタンバイ状態からの復帰期間に実行できるSR-BIST(Standby-Resume BIST)を開発、搭載しました。さらに、(3)増加するセンサ情報を高速で通信するため、ギガビットのイーサネットインタフェースを搭載するなどネットワーク機能の強化も図りました。

 ルネサスは今回の成果を、2019年2月17日から21日まで米国サンフランシスコで開催される「国際固体素子回路会議 ISSCC 2019(International Solid-State Circuits Conference 2019)」にて、現地時間の2月18日に発表します。

 近年、車載分野では、電気/電子(E/E)アーキテクチャの変化に伴い複数ECUの統合が求められています。そのため、1つのマイコンにより多くの機能を搭載できるよう、高性能化や低消費電力化および大容量フラッシュメモリの搭載が必要となります。加えて、車載マイコンならではのニーズとして、異なる安全レベルを持つソフトウェアが相互に干渉しないように独立性を保つことと、車両制御としてのリアルタイム性を確保することの両立が課題となります。ルネサスは、こうした次世代のニーズに応えるため、車載制御マイコンの仮想化支援機能をはじめとする新技術を開発しました。

ルネサスが開発し、テストチップに搭載した新技術は以下の通りです。

(1)ハードウェアによる仮想化支援機構を開発

一般的に、仮想化するためのソフトウェア(ハイパーバイザ)を搭載すると、ハードウェアを仮想的にエミュレートするために処理時間が増加します。このハイパーバイザによるCPUの状態の切り替え(コンテキストスイッチ)や割り込み配信の処理時間は、リアルタイム性が必要な車載制御用マイコンでは課題となります。ルネサスは今回、仮想化時のオーバーヘッドを大幅に低減(注1)し応答性能を高めることが可能なハードウェアによる仮想化支援機構を開発しました。これにより、異なる機能安全レベルのソフトウェアを独立して複数搭載することが可能になり、仮想化とリアルタイム性を両立するASIL Dに対応可能なマイコンを実現しました。

(2)スタンバイ-レジューム自己故障診断(BIST)機能を開発

ASIL Dを満たす機能安全を実現するには、BIST(Built-in Self-Test)機能などによって動作中のマイコンに対する自己故障診断が必要になります。CPUの処理期間に影響を与えないようスタンバイ状態から復帰(レジューム)する期間に故障診断を実行する方法が考えられますが、電流変動に制限があり、故障診断動作によるレジュームする期間の電流変動率増大が懸念されます。ルネサスは今回、電流変動率を抑制したSR-BIST(Standby-Resume BIST)を開発しました。SR-BISTは、チップがスタンバイから復帰するたび、CPU動作前に実行されます。その際、迅速に動作を開始するため、オンチップオシレータからのクロックを故障診断用に使用します。このクロック周波数をN/M分周器で緩やかに増加させることでSR-BIST実行時の電流変動率を低減し(注2)、ASIL Dを満たす機能安全性を実現しました。

(3)SGMII規格に準拠する5V対応ギガビットイーサネットインタフェースを開発

次世代の自動運転車やコネクティッドカーでは多数のセンサやカメラが使用され、増大する情報量に対応した高速な通信インタフェースとしてイーサネットが必須です。一方、サージ電圧に対する信頼性を確保するため、車載用マイコンのインタフェース回路では5Vトランジスタが引き続き使用されています。今回、電気的ノイズ耐性に優れたSGMII(Serial Gigabit Media Independent Interface)規格に対応した1Gbpsの高速ギガビットイーサネットを、5Vトランジスタを使って開発しました。5Vトランジスタ使用による信号帯域の悪化に対しては、送信/受信にそれぞれ専用回路を追加することでSGMII規格に準拠する信号品質を実現しました(注3)

 ルネサスは本テストチップで実証した技術をベースに、今後も積極的に28nmフラッシュメモリ内蔵マイコンを展開してまいります。これにより、次世代エコカーおよび自動運転の普及と安心・安全な車社会の実現に貢献します。

(注1)実行中のVM(Virtual Machine)に対する割り込みはハイパーバイザを経由することなく直接実行されます。実行中でないVMに対する割り込みで低優先の割り込みは、そのVMが実行中になるまで保留されます。これらにより割り込みオーバーヘッドをゼロにし、従来比100%削減しました。

(注2)テストチップの実験結果から、電流変動率はSR-BISTの適用により従来比1/6に低減しました。

(注3)受信回路の入力インピーダンス低減と送信回路の出力減衰補償により、シミュレーション波形では送信波形の立上り/立下り時間を50%改善、受信波形の振幅を22%改善しました。また、実験の結果、送信波形はSGMII規格を満たすことを確認しました。

以 上

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