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Sam Gold
Sam Gold
Senior Manager

1. 概略

“人工知能(A.I.)”の明確な科学的定義はありませんが、一般的な解釈の一つとして、人間が“インテリジェンス”と認める学習システムと解釈することができます。このようにインテリジェンスという言葉自体に論理的な説明性が欠けているため、より明確にA.Iを解説することは簡単ではありません。

昨今の自動車分野で代表的で最も知られているA.I.に、物体検知や物体認識 および それらの情報から判断し制御する自動運転(AD)があります。このようなアプリケーションは、一般的に100 kDMIPSクラスの非常に高い処理能力が不可欠になっています。 

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Figure 1 illustrates how a higher level of sensing will migrate over time from human driver towards Autonomous Driving technology using AI and ML (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図1: illustrates how a higher level of sensing will migrate over time from human driver towards Autonomous Driving technology using A.I. and M.L. (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

一方で走る、曲がる、止まるといった車両制御に分類される従来のリアルタイムアクチュエータ制御分野でのアプリケーションでは、一見したところA.I.やM.L.テクノロジー導入対象のものはないかもしれません。本車両制御分野は、おそらく将来的にも継続して、永続的なコスト競争力を追求されるため、パフォーマンスも制限された通常のMCU領域(最大10k DMIP)で引き続き実現されるように思われるかもしれません。

しかしながら、現実はそうなっていません。

車両制御に分類されるアプリケーションは、現在、様々な新しい要求 (例えば、EURO7のような排気ガス規制)に対応する必要が出てきています。この要求を解決するために制御アルゴリズムの高度化/複雑化、それを処理するための性能向上、そして、他システムとの連携のための通信帯域幅の向上が求められています。

では、従来のコストバランスも問われるMCUシステムで、どのようにA.I.およびM.L.のようなはるかに高いパフォーマンス要求を実現できるでしょうか? その答えは、MCUシリコン内に埋め込まれた新規IPとなるHWアクセラレータにあります。

2. HWアクセラレータ搭載 RH850/U2B マイクロコントローラ

RH850/U2Bは、HWアクセラレータとして、NSITEXE, Inc. (以下、NSITEXE)の「DR1000C」として知られる「DFP」(Data Flow Processor) を搭載しています。NSITEXEは、デンソーからのスピンオフとして2017年に設立されたIPベンダーであり、高度なプロセッサの開発を専門としています。

RH850/U2Bは、ゾーン/ドメインに進化したE/Eアーキテクチャに最適な車両制御用のクロスドメインMCUです。400MHzのCPUを最大8コア (ロックステップデュアルコア 4コア含む) を搭載し、各CPUには、ハードウェア仮想化支援機構を搭載しています。また、QoS (Quality of Service) 機能を搭載し、複数の異なるASILソフトウェア間の干渉を抑止できるFFI (Freedom-From-Interference)の実現をサポートすることで、複数のアプリケーションを1つのデバイスに統合する場合に直面する課題を解決します。

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DFP - conceptual view (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図2: DFP - conceptual view (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

DR1000Cは、RISC-Vベースでのプロセッサーを複数搭載していることに加え、マルチスレッディング 機能やベクター命令を実行することができ、高度な制御アルゴリズムをメインCPUから処理をオフロードすることができます。

また、DR1000Cは、Multiple Instruction Multiple Data(MIMD)方式 かつ 高精度なベクトル演算命令により、より効率的な並列処理を実現しています。ベクトル実行ユニットとマルチスレッドアーキテクチャの組み合わせにより、A.I.およびM.L.に通常使用される幅広いアルゴリズムタイプを高速化するための高い適応性が実現されます。

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DR1000C architecture (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図3: DR1000C アーキテクチャ (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

3. DR1000Cのパフォーマンス

DR1000Cは、従来の車載制御用CPUと比較してパフォーマンスが向上します。ガウス過程(放射基底関数)、カルマンフィルター、BLASなどの特定の数学関数に対して、DR1000Cは非常に効果的です。

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DR1000C performance level (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図4: DR1000C performance level (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

4. ユースケース

DR1000Cによる処理性能向上により、A.I. または M.L. を含め、車両制御分野で採用可能なアプリケーションをいくつか紹介します。

仮想センサー: これは、実際のリアルタイムな制御データから仮想的なモデルを生成し、このモデルを使用してリアルタイムに処理することで、物理的なハードウェアセンサーを仮想的なセンサーへ置き換えることが可能であり、システムコスト削減が可能となります。このようなモデリングアプローチでは、人工ニューラルネットワーク(ANN: Artificial Neural Network)として解釈できる放射基底関数 (RBF: radial basis function)ネットワークを使用します。放射基底関数には、関数の近似、時系列の予測、システム制御など、多くの用途があります。

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Virtual modelling (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図5: バーチャルモデリング (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

モデル予測制御(MPC: Model Predict Control)は、DCDCコンバータ や 電動モーター駆動を制御する方法の1つで使用されることがあります。 システムモデルを使用して、各時刻で未来の応答を予測しながら最適な制御をリアルタイムに演算制御手法の一つであり、多様な制御タスクを処理することができます。非線形MPCモデルは、特に (人口ニューラルネットワーク(ANN)に基づく) トレーニング済データセットの形式で反映される場合があります。

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Model predictive control (Source: NSITEXE, Inc., 2021)
図6: モデル予測制御 (引用元: NSITEXE, Inc., 2021)

ゲートウェイ侵入検知システム (IDS)
IDSは、通常のアクションと侵入者のアクションを比較することにより、ネットワーク攻撃を識別します。今日、主にルールベース型システムが、既知の攻撃タイプを識別するために使用されます。その反面、今までと異なる攻撃方法 または これまでに知られていない攻撃方法を使用される場合、識別成功率は低くなります。

そこで A.I. を採用することで、通信帯域幅、デバイス、ポート、プロトコルなどのトラフィックパターンに基づいてネットワークアクティビティを分類することができます。それにより、トレーニング(学習)された「正常な」トラフィックパターンを実際のネットワーク通信と比較することで、新たに進化した脅威タイプの検出を実現できます。これは、静的なルールベース型システムでは実行できないことです。

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Intrusion detection system concept (Source: NSITEXE, Inc. 2021)
図7 : Intrusion detection system concept (引用元: NSITEXE, Inc. 2021)

5. DR1000C ツール環境

ユーザーでのアプリケーション開発は、DR1000Cサービスを呼び出すための組込み関数とDR1000Cで動作させるユーザーアプリケーションを C言語にてコーディングできます。また、MATLAB/Simulinkで「DFPツールボックス」をサポートすることでモデルベース開発も可能です。「SDK(Software Development Kit)」は、ランタイムスレッドスケジューラ(RTS)、GNUベースのツールチェーン、シミュレータ、およびデバッガで構成されます。さらに、ASIL-D対応の診断ライブラリ および ISO26262に関する機能安全サポートを現在開発中です。

6. まとめ

近い将来、車載制御用MCUは幅広いアルゴリズム、特に機械学習(M.L.)と組み込み人工知能(A.I.)、制御理論、信号処理、物理モデリングをカバーしていなければなりません。

Renesasは、自動車制御分野のユースケースに最適化されたHWアクセラレータ「DR1000C」によって次世代の自動車制御用MCUを強化し、コストと消費電力負荷を手頃なレベルに保ちながら、従来のリアルタイムパフォーマンスを10倍に向上させることができます 。

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