2025年8月29日
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多くのドライバにとって、駐車は神経を使う作業です。スーパーマーケットでやっと見つけた狭いスペースに駐車するときや、街中の窮屈な駐車場に車庫入れするときなど、神経をすり減らす場面は少なくありません。最近イギリスとアメリカで行われた調査(注1)で、ドライバのほぼ半数が縦列駐車を極端に嫌がっていることがわかりました。この状態には「パラレルフォビア(平行恐怖症)」という名前まで付けられています。
高いADAS(高度運転支援システム)技術を有するiMotionは、この駐車のストレスを軽減することを目指し、30秒以内に車両の自動駐車を可能とする技術を開発しました。この技術を使えば、混雑した場所や区画線が不明瞭な駐車場でも容易に駐車できる駐車支援システムを開発可能です。iMotion Automotive Technology(知行汽車科技)は、ウォルト・ソン氏が2016年に設立しました。ソン氏は、ドライバと自動車メーカの双方にとって「あらゆるものをシンプルにする」という理念のもと、インテリジェントモビリティを大衆化することが使命であると語っています。高級車向けの高度な機能を、より手の届きやすいミドルレンジモデルやエントリモデルにも搭載することを目標にしています。
iMotionは2023年に香港証券取引所に上場し、アジアにおける重要な株価指数の一つでハンセン指数の構成銘柄となりました。本社を中国の蘇州に置き、ドイツにR&Dセンタ、マレーシアに製造工場、アジアと欧州に複数の販売拠点を構えており、今やADAS技術の世界的リーダとしての地位を確立しています。
自動駐車の実現に向けたiMotionの取り組み
自動駐車支援(APA)システムがあれば、ドライバの不安が軽減されるだけでなく、ちょっとぶつけたりこすったりするような軽微な衝突事故を減らし、限られたスペースにより多くの車両を収容することができます。一方で、低価格帯の車両を主力製品とする自動車メーカにとって、APAは多くのADAS機能と同様に、技術的に複雑でコストがかかるため手が出せません。しかしiMotionの技術なら、その障壁を克服できます。
iMotionのAPAシステムは、過去に学習したルートに沿って最大3km先の目的地までドライバを案内できます。そして、カメラと超音波センサを使ったリアルタイムの周辺環境認識により、車両を駐車スペースまで誘導します。この技術は電気自動車とガソリン車の両方に対応しており、乗用車や商用トラック、オフロード車両など幅広い車種で利用可能です。
iMotionが他社と一線を画しているのは、ハードウェアからソフトウェアまで完全に統合していることです。多くのADAS企業はソフトウェアまたはハードウェアのみに注力していますが、iMotionはアルゴリズム開発からミドルウェア、組み込みハードウェアまでを網羅する垂直統合型スタックを提供しています。ソン氏によれば、これにより設計リソースや性能、コストを最適化できるといいます。
その中核となる製品は、ドライビング・ドメインコントローラIDC500です。このコントローラには、サラウンドビューによるAPAシステムと、自ら走行ルートを「記憶」し、自己位置測定データに基づいてナビゲーションを行う自己マッピング構築技術を活用した都市向けオートパイロット機能TCP(Trained Commuting Pilot)が組み込まれています。
サラウンドビューは、車載カメラとiMotionのBEV(Bird's Eye View:鳥瞰図)技術によって実現します。これにより、運転中の車両周囲の環境を俯瞰的に表示し、3Dマップを構築します。マッピングは、カメラ画像を組み合わせて周囲環境の3D映像を生成するAIニューラルネットワークアーキテクチャ「Transformerモデル」により実現しています。
ソン氏は、このカテゴリの他社モデルはパラメータ規模が大きく、少なくとも100 TOPSのAI演算性能を持つ高価なAIプロセッサが必要であると述べています。iMotionは、アルゴリズムを最適化し、よりコスト効率に優れたルネサスの34 TOPSの車載用SoC「R-Car V4H」上で性能を損なうことなく動作させることに成功しました。この効率的な設計により、自動車メーカは自動駐車や高精度マップを用いた高速道路走行支援といった機能の提供が可能となり、アジアおよび欧州における消費者のニーズと各種安全規制の双方を満たす車両を実現できます。

コスト重視の駐車プラットフォームの構築
高性能ADAS機能をコスト効率の高いハードウェアに組み込むため、iMotionチームは、「周囲の認識→走行計画→車両制御」といった性能と安全に関して厳しい要件が課せられた高度な機能を、コンパクトな計算プラットフォームに統合するという課題を克服しました。
課題のひとつは、モバイルロボティクスで頻繁に使われる空間表現手法であるBEV Transformerと占有グリッド(OCC)モデルを、ルネサスのR-Car V4Hアーキテクチャに実装することでした。iMotionは、以下の複数の技術を組み合わせることでこれを実現しています。
- 軽量なAIモデル分解フレームワークにより、複雑なTransformerモデルを、処理が簡単な小さく扱いやすいコンポーネントに分割
- ゼロコピーのメモリスケジューリングにより、異なるメモリ間でデータを受け渡す際の重複したコピー処理を削減し、CPU負荷を軽減
- ハードウェアに最適化したオペレータ書き換えにより、GPUやCPU、専用AIアクセラレータに適した効率的な計算処理に変換し、センチメートル単位の高精度グリッド解像度を実現
iMotionにとってもうひとつの課題は、車両により利用環境の異なる中、乗用車やレジャー車、商用トラックなど、複数の車両プラットフォームにおいて、システムの安定性と安全性を確保することでした。iMotionのプラットフォームはモジュール型でスケーラブルな設計となっており、広範なシミュレーションとテストを通じて、世界中どこでも通用する互換性と堅牢性を実現しています。
ルネサスとの協業:実用設計による高性能の実現
iMotionとルネサスとの協業は2020年に始まりました。ソン氏は、ルネサスの車載用SoCであるR-Car V4Hが演算性能、電力効率、スケーラビリティのバランスという点で際立っていると述べています。7nmプロセスで製造されているR-Car V4Hは、リアルタイムCPUとしてArm Cortex-R52コア(ロックステップ)を搭載しており、外付けのマイコンが不要です。これにより、チップ内での効率が向上し、消費電力や基板サイズ、BOM(部品表)が低減されます。また、iMotionのソフトウェアスタックに最適なAIアクセラレータ、複数のDSP、コンピュータビジョン(CV)エンジンも搭載されています。
R-Car V4H SoCはADASおよび自動運転向けに設計されており、最大34 TOPSのディープラーニング性能を実現します。カメラ、レーダ、LiDARからの高速画像認識を可能にし、自動駐車に必要なサラウンドビューやリアルな3Dによる可視化をサポートします。R-Car V4Hは、高度な集積化により、コスト効率に優れたECUの実現に貢献します。NCAP 2025の評価基準を満たすことが可能で、自動運転レベル2+にも対応します。さらに、R-Car V4Hを2チップ構成にすることにより、レベル3システムに不可欠なシームレスな性能向上とフェイルセーフ動作を実現できます。
ソン氏によれば、ルネサスの高度なハードウェア設計に加えて、エンジニアリングチームの協力的なサポート体制も非常に重要だったといいます。同氏は次のように述べています。「私たちはルネサスと2年間、緊密に連携して取り組んできました。中国だけでなくルネサスのアプリケーションチームで、帯域幅や統合に関する重要な課題の解決を支援してくれました。このような高水準のパートナーシップこそが、IDC500を立ち上げ、お客様の期待に応えるための鍵となったのです。」
iMotionの次なる展開は?
設立から10年足らずで、iMotionは世界のADAS市場において大きな影響力のある企業のひとつへと成長しました。「すべての人にスマートモビリティを」というビジョンは、ソフトウェアとハードウェアの高度な統合技術、エンジニアリングの革新への取り組み、そしてルネサスのようなパートナとの協働によるエコシステムによって、現実のソリューションとして提供できるようになりました。
iMotionは、アダプティブクルーズコントロール、車線逸脱・衝突警報、ドライバ疲労検知などの補完的な技術も製品化することで、技術スタックの進化を続けています。高速道路の利用から市内のドアツードア案内まで、完全な経路ナビゲーション(フルサイクルナビゲーション)の実現への布石として、2025年内に新しい運転支援アルゴリズムを量産車に搭載する予定です。
iMotionは欧州の拠点を拡大するとともに、日本およびASEAN地域への参入も進めており、ルネサスのグローバルな展開力と地域に根ざしたサービスネットワークを活用して、自動車をより安全・スマート・直感的なものへと進化させています。ソン氏は、これにより自動運転車が家庭や職場の「離れ」となる世界を実現すると語ります。「将来的には、自動運転モビリティが車内空間を第二の生活空間に変えるでしょう。運転するだけでなく、読書をしたり、くつろいだり、ネットワークに接続したりもします。私たちの使命は、その未来を安全に、現実的な価格で、そして早急に実現することなのです。」

参考文献
(注1)T. Covington, The Zebra, “[POLL] Nearly half of Americans have ‘parallelophobia,” (2024年3月)
(注1)J. Sanchez, Driven Car Guide, “Study: parallel parking is the greatest driving fear among drivers,” (2023年10月)