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Imec とルネサスが次世代広帯域無線用受信機向けに画期的なA/D変換器を開発

~11ビット 250MS/sと高速の 逐次比較型A/D変換器をこのクラス世界最小となる1.7mWの低消費電力で実現~

2012年2月23日

 欧州の独立系ナノエレクトロニクス研究機関であるimec (所在地:ベルギー ルーベン市、CEO:Luc Van den hove)とルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:赤尾 泰、以下ルネサス)は、このたび、次世代広帯域無線規格であるLTE-Advancedや次世代Wi-Fi(IEEE802.11ac)の受信用途に向けて、電力効率と変換速度を劇的に改善した画期的な逐次比較型(SAR)アナログ/デジタル変換器(以下SAR-ADC)(注1)を共同開発しました。

 SAR-ADCは、高電力効率で省面積という特徴から無線用途の幅広い応用分野で魅力的なデバイスとなっており、特に、中速・中精度の応用に適した方式です。しかしながら、次世代広帯域無線規格であるLTE-advancedや新世代のWi-Fi向け受信機には、より高速なADCが必要とされています。今回imec とルネサスで共同開発した新しいSAR-ADCの方式は、より高速かつ低消費電力のADCを省面積で実現したいという要求に対応したものです。新方式に基づき開発したADCは、このクラス世界最小となる消費電力(1.7mW(注2))、高精度(11ビット)、フルダイナミック、2チャンネル・インターリーブ(注3)&2ステージ・パイプラインSARを特長とし、 250MSample/secという高速な変換速度のときに10fJ/conversion-stepという記録的な高電力効率を実現しました。これは従来のADCの記録を大きく塗り替えるものです。

 この高電力効率の結果は、imec が以前に開発した草分け的なA/D変換方式をベースとした新変換方式による設計と、先端CMOSテクノロジを用いた試作により得られました。ADCの設計では、完全にダイナミックな回路構成とすることで消費電力がサンプリング周波数に比例し無駄がないこと、最大限にデジタル化することで比較器だけを唯一のアナログ回路ブロックとしたこと、が特徴です。

 40nm(ナノメートル:10億分の1メートル)CMOSプロセスで試作したADCのチップサイズは、0.066mm²。測定結果は、微分直線性誤差(DNL)が0.8/-0.5LSB, 積分直線性誤差(INL)が1.1/-1.5LSBとなっております。動特性としては、10MSample/s時のSNDRが62dBで、有効ビット(ENOB)に直すと10.0ビットになります。変換速度を上げていっても、有効ビットは250MSample/sまで9.5ビット以上を維持しています。また、消費電力は、1変換あたり6.9pJoule(10MSample/s時70uW、250MSample/s時1.7mW)となっており、その結果、7~10fJ/conversion-step と、非常に優れた電力効率を達成しています。

 また、imec とルネサスは、RF部全体とADCを接続するための新しい手法も開発いたしました。電圧ドメインのADCシステムにおける大きな入力容量の充放電による消費電力増大を避けて受信システム全体の電力効率を改善するために、3.2 – 51.2 mSiemens の範囲で可変可能な電流ドメインの可変ゲイントランスコンダクタ(VGA)が電荷ドメインのSAR-ADCを駆動するように使われています。それによって、無駄な電力消費がなくなり、システム全体の消費電力を大幅に低減できます。40nmCMOSで試作した10ビット80MSample/s のVGA+ADCは、70dB のダイナミックレンジを有しながら、電源電圧1.1V で5.45mA以下 という低電力性を達成しています。

 本技術は、2012年2月19日から米国サンフランシスコで開催される「国際固体素子回路会議(ISSCC: International Solid-State Circuits Conference)にて、2月22日(現地時間)に発表しました。本原稿は、ISSCCの論文番号27.5および27.7にて発表する「A 1.7mW 11b 250MS/s 2x Interleaved Fully Dynamic Pipelined SAR ADC in 40nm Digital CMOS」および「A 70dB DR 10b 0-to-80MS/s Current-Integrating SAR ADC With Adaptive Dynamic Range」に基づいています。

以 上

(注1)逐次比較型A/D変換器(SAR-ADC): 1回の比較に1つのコンパレータを使用して、アナログ電圧と参照電圧の大小比較を分解能の回数だけ繰り返してA/D変換する方式。

(注2)変換速度250MSample/sec、有効ビット(ENOB)9.5ビット時の消費電力

(注3)インターリーブ: 複数チャンネルのADCを使用して位相をずらしたクロックで動作させることで、ADC全体としてみた変換速度をあげる方式。

imec について

 imec はナノエレクトロニクスの研究に関して世界をリードする独立した研究機関です。imec は、ICT(情報通信技術)、ヘルスケア、エネルギーの分野で世界的なパートナーシップを持ち、その革新的な能力で、科学的知見を高めています。imec は、産業界と結びついたテクノロジーソリューションを提供しています。独特なハイテク環境を備え、世界トップクラスの技術力で、持続可能な社会におけるより良い生活のための基礎技術開発を行っています。

 imec の本部はベルギーのルーベン市にあり、オランダ、台湾、米国、中国、インド、日本に支所があります。imec のスタッフは約1900名(参加企業からの駐在研究員、客員研究員約500名を含む)です。imec の2010年の売上高は約285億円(100円換算)です。imec に関するさらに詳細な情報は、 http://www.imec.be でご覧いただけます。

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