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Takeshi Fuse
布施 武司
ビジネスデベロップメントユニット長兼車載デジタルマーケティング統括部長
掲載: 2023年1月23日

今日の自動車業界はCASE(C:コネクテッド、A:自動運転、S:シェア/サービス、E:電動化)のメガトレンドが市場の成長をけん引しており、車載技術のリーディングセグメントになっています。先般投稿したルネサスの車載事業戦略の概略では、自動車の価値がハードウェアからソフトウェアにシフトし、次世代のクルマはソフトウェアによって定義されるようになることを述べました。

このブログでは、ルネサスの考えるE/Eアーキテクチャの進化と、新たな市場要求、そしてこれらの変化に対応するためのアプローチについてご紹介いたします。

E/Eアーキテクチャの進化トレンド

E/Eアーキテクチャは大きく「分散型」、「ドメイン型」、「ゾーン型」に大別され、時代のニーズに合わせて進化しています。現在、多くの自動車メーカはアプリケーションごとに個別最適化できるドメイン型を採用しています。今後は市場のニーズがハードウェアからソフトウェアにシフトしていくことで、それを実現するE/Eアーキテクチャの1つの解として情報やリソースの集約やドメイン間での車両制御の統合を可能とするゾーン型が採用されていくと考えられています。

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ドメイン型は機能配置が最適化されているのに対し、ゾーン型は物理配置を最適化されていることが特徴となっています。このため、現在ドメイン型を採用している自動車メーカは機能を分解し、物理配置の最適化されたECUに機能を再配置する必要があります。これにより、1つの車両プラットフォームを変更するだけでも多大な開発費・期間がかかることが容易に想定されます。車両プラットフォーム数は自動車メーカによって異なり、各自動車メーカは開発費や技術課題と移行メリットのバランスを考慮して採用するアーキテクチャを決定しています。一方で、新興EVメーカに代表されるような、過去資産がなくゾーン型から開発している自動車メーカもあり、採用されるE/Eアーキテクチャがまさに「各社各様」になっています。

E/Eアーキテクチャの変革がもたらした大きな変化

このように、採用されるE/Eアーキテクチャは多岐にわたり、自動車メーカはそれぞれの持つ課題に応じた形を取っていますが、共通して「ある変化」が起きています。

その1:ハードウェアとソフトウェアの分離

はじめに自動車システムの観点で見てみましょう。自動車システム開発の現場ではこれまでアプリケーションに特化したハードウェアと、そのハードウェア上で最適に動作するソフトウェアが開発されてきたため、ハードウェアとソフトウェアは切っても切り離せない関係でした。近年ではそれに加えてADASやコックピットといった安全・快適機能が次々と追加されてきており、ソフトウェア開発規模の加速度的増加、および複雑化の一因となっています。さらにE/Eアーキテクチャの進化に伴う、ドメイン型からゾーン型への変更には機能(ソフトウェア)の再配置が必要となることから、ハードウェアとソフトウェアの依存度を低くし、他のシステムへソフトウェアを容易に移植できること(ポータビリティ)が求められるようになりました。また、機能再配置や集約が進む一環で、これまで最適化されてきたデバイスの性能に過不足が生じるため、それを補うための性能のスケーリングも求められています。

その2:自動車開発期間の短縮

 それでは次に開発者観点で見てみましょう。従来の自動車開発では、ソフトウェアの開発は実ハードウェアを使って行われてきました。つまり、実物のハードウェアがないとソフトウェアの開発がスタートできないため、自動車開発期間が全体的に長くなる傾向にありました(一部古いデバイスを用いての先行開発はあるが基本機能に限定されるケースが多い)。近年では上述の通りソフトウェア開発規模の増大・複雑化が予想され、それに伴う自動車開発期間の長期化・開発費用の増大が懸念されています。したがって、ハードウェアがなくても事前にソフトウェアを開発・検証することで自動車開発全体の期間を短縮できる方法が求められています。

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ルネサスの取り組み

こうしたE/Eアーキテクチャの変化やそれに伴う市場ニーズを受け、ルネサスでは次のような取り組みを行っています。

1つ目はスケーラビリティです。ルネサスはE/Eアーキテクチャ全体をカバーする、組込みプロセッサ群を提供します。これにより、お客様はそれぞれの車種グレード・アプリケーションに最適なプロセッサを選ぶことができます。また、このプロセッサ群はソフトウェアや各種IPの再利用性が高く、車種・アプリケーション・(同車種での)世代を跨いで再利用が可能です。これにより、お客様は開発コストの削減と市場投入までの時間短縮が可能になります。

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2つ目はデジタルツインによるシフトレフトです。デジタルツインとは、物理空間にある情報を使い、仮想空間に全く同じ環境をあたかも双子のように再現する技術のことです。このようなデジタルツインを利用することで、より速く、より敏捷で、より革新的な開発を、物理世界に移植する前に、仮想空間で行うことができます。ルネサスではこの技術を半導体デバイスに適用し、コンピュータ上で実デバイスと同じ動作をする環境を構築しました。これにより、お客様は物理的なデバイスが利用可能になる前にソフトウェア開発を開始することができ、また地理的な制約や台数などのハードウェアの制約を受けずに開発者の数を増やすことができ、車両全体の開発期間の短縮に貢献することができます。

E/Eアーキテクチャの進化に応えて、車載用アプリケーションソフトウェアの先行開発と動作評価を実現するバーチャル開発環境を提供開始 | Renesas

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さらに、ルネサスではパートナーを含め今後お客様が直面するであろう課題に対して、統合開発環境・各種ツールを提供することで、お客様ご自身の競争領域にリソースを集中することが可能となります。

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このようにルネサスは、様々な視点からのニーズに応じたデジタルソリューションを提供することで次世代技術を支え、お客様により安全で環境に優しく、より便利なモビリティー社会の実現に貢献します。

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