
“ルネサスは、「2030 Aspiration」、さらに当社のパーパスである「To Make Our Lives Easier」を実現すべく、これからも人々の暮らしを楽(ラク)にする製品やソリューションを提供してまいります。そして、同時に、地球社会の一員として環境に配慮し、企業活動を通じて持続可能な社会へ貢献することにより、一層の企業価値向上に努めていきます。”
当期を振り返って
当期(2024年1月1日から2024年12月31日まで)は、世界的なインフレや地政学リスクの高まりに加え、孤立主義の強化や極右勢力の台頭による保護主義政策の拡大懸念が重なり、世界経済の先行きは依然として不透明感を増しました。半導体市場においては、AI用データセンタ向けの製品を除き、在庫調 整や消費低迷の影響が続きました。特に産業向け製品の在庫調整が長引き、車載向け製品も、自動車の自動化・電動化による需要増が、半導体在庫の調整により相殺される結果となりました。
こうした厳しい事業環境の中、当社は柔軟に対応し一定の成果を着実に確保しました。「2030 Aspiration」(2030年までに、組み込み半導体ソリューションサプライヤートップ3、売上収益200億米ドル以上、2022年1月比時価総額6倍)を達成するため、コスト削減と合理化を推進しつつ、将来の成長に向けた投資を慎重かつ大胆に実行しました。その結果、当期の売上収益、売上総利益および営業利益は前期を下回る結果となったものの、半導体市場の低迷が長期化する中で、最低限の利益水準を維持することができました。
当期の施策および進捗について
当期は、年初に組織再編を実施し、より幅広い顧客ニーズに即したソリューション提供を強化するため、従来のアプリケーション軸の体制から技術を主軸とした事業構造へと転換しました 。同時に、ソフトウェアおよびデジタライゼーションに特化した組織を新設するとともに、オペレーション、エンジニアリングなどの全社横断的な組織を構築しました。さらに、昨年9月には、顧客との関係をより強化し、共通のインタフェースの提供を通じて顧客体験(UX:User Experience)を向上させることを企図し、UXグループを新設。本年1月にはリーダーシップチームの変更を行い、一層の体制強化を実施しました。
デジタライゼーション戦略の加速に向けては、昨年8月にプリント基板設計ソフトウェア等のリーディング企業であるAltium社を買収しました。買収後の統合も順調に進み、本年1月にはAltium社のチームを、当社ソフトウェア&デジタライゼーショングループへ統合しました。
さらに、当社は近年成長が著しいインド市場を注力市場と位置づけ、事業拡大を推進しています。2025年中 までにインドの人員を前年比で倍増となる1,000人規模へ拡大する計画を進め、事業基盤のさらなる強化を図っています。昨年3月にはCG Power and Industrial Solutions社およびStars Microelectronics社と共同で、インド・グジャラート州に半導体の組立・テストを請け負うOSAT工場を構築・運営する合弁会社設立の契約を締結しました。
新製品として、第5世代R-Carの第一弾となる車載向けSoC「R-Car X5H」を発表しました。本製品は、業界 最高レベルの高性能を提供すると同時に、最先端の車載用3nmプロセスを採用した高集積化により低消費電力 化を実現します。そのほか、独自のAIアクセラレータを内蔵し、ビジョンAIとリアルタイム制御を1チップで 実現する次世代ロボティクス向けMPU「RZ/V2H」や、複数のセンサを搭載し、スマートな空気質モニタリン グを実現する超小型センサモジュール「RRH62000」もリリースしました。これら製品を含む多くの製品を市 場に投入し、将来の売上収益の源泉となる多数の商談を獲得しました。
株主還元につきましては、1株当たり28円の期末配当を実施しました。今後も、可能な限り継続的かつ安定的な株主還元を目指していきます。
コーポレートガバナンスの強化に関しては、モニタリングモデルによるガバナンスのさらなる推進を図るため、昨年より指名委員会等設置会社に移行しました。
また、サステナビリティ・ESGの取り組みとして、昨年、初めて財務情報と非財務情報を統合した 「Business & Sustainability Report」を発行するなど、サステナビリティ活動を積極的に推進しました。こう した取り組みは、MSCI社やFTSE Russell社をはじめとする主要ESG評価機関のESGインデックス構成銘柄に 継続選定・評価されました。さらに、当社の先端前工程拠点である那珂工場が、世界の電子機器メーカーなど約200社で構成され、グローバルサプライチェーンにおける、労働、安全衛生、環境、倫理などの改善を推進するRBA(Responsible Business Alliance)の社会的責任監査において、最高位のプラチナ・ステータスを取得しました。
今後の取り組みについて
当社は、事業環境に柔軟に適応して長期的な成長を実現し、「2030 Aspiration」を達成するため、これまで進めてきた事業戦略の基本に立ち返る「Back to Basics」の方針を強力に推進します。具体的には大きく以下の3点に注力します。
1. 生産性の向上
事業運営の無駄を省く効率化を図りながら、30ヵ国以上に約22,000名の従業員を擁するグローバル企業としてのスケールメリットを最大限に生かした、生産性の向上を推進します。
2. Purposeful investment
当社のコアである組み込み半導体ソリューションと、その価値を形成・向上させるUXおよびデジタライゼーションに経営資源を戦略的に配分します。
これまでは中長期の戦略的な取り組みと短期的な売上成長をともに優先するというアプローチを採ってきました。それは大きな成果を上げましたが、組織全体の負荷や環境の変化に鑑みて、今一度原点に立ち返ることとしました。今後は、中長期的な成長を見据え、事業の優先順位をこれまで以上に明確にした上で、戦略的取り組みに最大限の資源を投じていきます。
3. UX・デジタライゼーション戦略の加速
本年1月に、デジタルマーケティング機能や、システムソリューションの担当部門をUXグループに統合し、UXの推進体制を拡大・強化しました。
デジタライゼーションに向けては、買収したAltium社と一体となり、あらゆる規模・業種のユーザが電子機 器を設計できる統合されたオープンな「電子機器設計・ライフサイクルマネジメントプラットフォーム」の構築を目指し、取り組みを進めています。本年1月には、Altium社によるPart Analytics社の買収を発表しました。
今後も、新たな体制のもと、UXおよびデジタライゼーションの取り組みを最重要戦略として位置づけ、一層加速させていきます。デバイス特定から、システム設計・生産、さらにはライフサイクルマネジメントに至 るまで、一貫したデジタル化を実現するプラットフォームを提供し、世界中の顧客がより楽(ラク)に開発を進められる環境を目指します。
その他の取り組みとして、本年1月に、ESGに関する全社横断的な組織を発足させるとともに、監査委員会を「監査・サステナビリティ委員会」へと再編しました。これにより、ESG活動の監督とガバナンスを強化 し、更なるESG推進を図ります。強化された体制のもと、カーボンニュートラル達成目標の2040年への前倒 しなど、各種施策を推進してまいります。
地政学リスクについては、短期的には、関税によるサプライチェーンへの影響に懸念があります。中期的な視点では、米国の規制緩和と中国におけるAIを中心とした選択的なテクノロジーへの投資が技術革新を加速すると考えています。当社としては、これらの動向を的確に把握し、中長期的な競争力を強化するためのデジタ ライゼーションを着実に実行していきます。
当社は、「2030 Aspiration」、さらに当社のパーパスである「To Make Our Lives Easier」を実現すべく、これからも、人々の暮らしを楽(ラク)にする製品やソリューションを提供してまいります。これからも、変化し続けるルネサスにご期待ください。

柴田 英利
代表執行役社長 兼 CEO
ルネサス エレクトロニクス株式会社
マルチステークホルダー方針
当社は、企業経営において、株主にとどまらず、従業員、取引先、顧客、債権者、地域社会をはじめとする多様なステークホルダーとの価値協創が重要となっていることを踏まえ、マルチステークホルダーとの適切な協働に取り組んでまいります。
方針や具体的な取り組みについては、以下のPDFファイルを参照ください。