ルネサスが創る新市場「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」特集Part 3―エネルギ・ハーベスティング

ソリューション: 3 of 20

ルネサスは技術開発によって新しい市場を創出し、スマート社会の実現に貢献している。スマート社会を実現する中核技術の一つが「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」だ。ルネサスのワイヤレス・センサ・ネットワークへの取り組みを解説する特集の第3回である今回は、さまざまな環境で電気エネルギを創る「エネルギ・ハーベスティング」に注目する。未来の技術と思われがちなエネルギ・ハーベスティングだが、ルネサスのソリューション開発は着実に進み、製品化を見据えている。

エネルギ・ハーベスティングとは

エネルギ・ハーベスティング(EH:Energy Harvesting)とは、その名称の通り、エネルギを収穫する(ハーベストする)技術である。具体的には、環境に存在するさまざまなエネルギを、電気エネルギに変換する技術を指す。広い意味では太陽光発電や風力発電、地熱発電といったkW~MW級の商用電力を賄えるような技術もエネルギ・ハーベスティングと言えるが、ここでは、通常見逃されがちな小さなエネルギ源から数μW~数mWと小さな電力を取り出す技術をエネルギ・ハーベスティングと考えることにする。

エネルギ・ハーベスティングを実現するエネルギ源には、物体の連続的な振動や押したり叩いたりすることによる単発的な力(これらをまとめて力学的エネルギと考える)、熱(温度差)、電波、室内光などがある。代表的なものを簡単に解説しよう。

  • 力学的エネルギが物体に加わることによる振動をエネルギ源とするものを振動発電という。振動発電の原理として、圧電効果(ピエゾ効果)を利用したものが多い。圧電効果とは、物体を伸ばす、あるいは縮めると電圧が発生する現象のことである。この他では、コイルの中の磁束が変化するとコイルに電流が流れる原理を利用したものがある。押したときの力で磁束を変化させる仕組みはいろいろな構造が研究されている。
  • 熱(温度差)を使った発電には、ゼーベック効果を利用したものが多い。ゼーベック効果とは、物体の両端に温度差があると電圧を生じる現象を指す。大きなゼーベック効果を有する半導体や金属などの材料を使って温度差から電気を取り出す。この技術は、熱電発電と呼ぶことが多い。
  • 電波を使うエネルギ・ハーベスティングは回収電力を上げるのが難しい。最近では、携帯電話システムや無線LANなど屋外、屋内に関わらず様々な電波が飛び交っている。こういった環境でアンテナによって電力を取り出す技術をルネサスは開発している(「電池レスで、Bluetoothや無線LANなどに対応した携帯機器にデータ送信できる新・近距離無線技術を開発」)。
  • 室内光を使う発電は、基本原理は太陽光発電と同じである。ただし光波長特性を太陽光ではなく、室内光に適するように変更した光発電セルを使う。室内光を使う発電は、腕時計と電卓に広く採用されているが、他のアプリケーションへの応用はまだ少ない。これは、室内照明光から得られる電力が非常に小さいことが理由の1つである。

図1-1:エネルギ・ハーベスティング技術の概要

図1-2:エネルギ・ハーベスティング技術の概要

図1:エネルギ・ハーベスティング技術の概要

高まる期待、コンソーシアムが推進

エネルギ・ハーベスティング技術の開発と普及には、数多くの企業の協力が欠かせない。グローバル、あるいは地域毎に関係各企業がコンソーシアムを組んで、アプリケーションの開発や普及活動に取り組んでいる。

この技術の実用化では欧州が先行している。スイッチを押す力で発電する電池レスの無線モジュールが製品化されており、照明用スイッチに採用されている。「enocean alliance」が、この無線プラットフォームの普及活動を進めており、ルネサスも参加している。

日本では「エネルギーハーベスティングコンソーシアム」が2010年5月に設立された。ルネサスは設立メンバー13社の1社である。2012年12月末時点では、会員企業は50社を超えており、国内でもエネルギ・ハーベスティングに対する関心が高まっていることがうかがえる。

システム管理コストを軽減! センサシステムにおける無線センサへ導入

エネルギ・ハーベスティング技術は小電力の発電技術であり、電池を代替する技術として期待される。しかしながら、その発電量は非常に小さく、さらに民生機器分野への応用はコストを考えると少し時間がかかりそうである。まずは、センサシステムにおける無線センサ装置に利用される電池の置き換えとして、導入が進むものとみられる。センサシステムの無線センサ装置で電池を使うと、電池を定期的に交換する必要がある。この保守費用のおよそ7割を人件費が占めると言われており、エネルギ・ハーベスティング技術によって電池交換を不要にした電池レスの無線センサ装置を実現すれば、保守費用を大幅に削減できる可能性がある。

大規模なビルディングでは、空調制御システム、照明制御システムなどのビル管理システムが稼働しており、これらのシステムは大小様々なセンサ装置で構成されている。利用できるエネルギ源はあるか、そのエネルギ源から得られる電力でセンサを動作させることは可能か、どの程度の頻度でデータを測定する必要があるかなど、いろいろな視点で検討、工夫することにより、エネルギ・ハーベスティングを利用したセンサ装置を実現できる可能性がある。

図2:ビル管理システムとセンサの例。

図2:ビル管理システムとセンサの例。

細やかな制御を実現するためにセンシング単位が小さくなり(センサ数増加)、メンテナンスコストが増大する。

そのため、センサ装置の電源として、エネルギ・ハーベスティング技術への期待が高い。

ルネサスが実現する「要」

システム技術・要素技術開発

エネルギ・ハーベスティング技術を利用した電源が抱える課題は、出力が小さいこと、出力の時間的な変動が大きいことである。このためハーベスタ(発電デバイス)を組み込んだ電源ユニット(EH電源システム)は、蓄電制御を含む電源制御が必要になる場合が多い。

電源制御回路では、エネルギ・ハーベスティングで取り出した電力を、マイコンや無線、センサなど負荷部品を動作させるために一定、かつ安定な電圧に電圧変換し供給する必要がある。さらに、負荷回路を動作させるために一定量の電力量(エネルギー)を貯める必要も出てくる。この機能が蓄電機能である。蓄電する際は、コンデンサや二次電池が利用されることになる。

図3:電池レス・無線センサの構成例

図3:電池レス・無線センサの構成例

ルネサスでは、振動発電を利用した無線送信システム、エネルギ・ハーベスティングとの組合せを想定した蓄電システムについてシステム技術の検討、構築を進めている。さらに、電波から電気エネルギを取り出すシステムを実現するための要素技術の開発に取り組んでいる。また、社外コミュニティとの関係構築を通して、技術開発、応用市場の動向について情報収集に努めるとともに、様々な協業の可能性を探っている。

図4:電源ユニットの構成を例にした、エネルギ・ハーベスティング分野におけるルネサスの取り組み

図4:電源ユニットの構成を例にした、エネルギ・ハーベスティング分野におけるルネサスの取り組み

目前に迫る、ルネサスのソリューション提供

ここからは振動発電の応用システム開発についてルネサスの取り組みをご紹介する。ルネサスは数年前から振動発電技術のベンチャー企業である音力発電と共同で、技術ノウハウの蓄積と応用市場の創出を進めてきた。

その具体例が、ボタンを「押す」力を電気エネルギに変換する製品「振力電池®」(*1)を利用したソリューションである。

「振力電池®」と、低消費電力の2.4GHz無線送信モジュールを組み合わせることで、小型の無線送信システムを構築する。「振力電池®」のボタンを1回押すことで、数バイトのデータ送信が可能になるシステムだ。

ルネサスはこの「振力電池®」を利用した無線送信システムの電源回路部について、効率よく無線モジュールに電力を供給する電源システムの検討を進めてきた。これと並行して、コンデンサや二次電池を利用して、電力を貯めるシステムについても基礎技術検討を進めている。

振動発電を利用するための電源システム技術、振動発電に限らず室内光発電も対象に微小電力を効率よく貯めるためのシステム技術、このような基礎となるシステム技術を半導体製品の企画、開発に生かしていきたいと考えている。

(*1)「振力電池®」は株式会社音力発電の商品(販売中)であり、登録商標です。

振動発電という新しい要素技術を取り入れた、新しい無線システムビジネスを開発すべく、システム・ベンダ、床材メーカーと音力発電、ルネサスが業種を超えたコラボレーションを推進している。音力発電の発電床®(*2)を応用し、踏むことにより無線送信を実現する床を実現する。これと様々なシステムを組み合わせることで、新しい無線システムの実現を狙っている。発電床®は人間が床を踏む力を電気エネルギに変換する仕組みを搭載した床である。電池を利用しないので電池交換は必要なく、レイアウトが自由である。発電床が発信した無線信号を利用して、新たなシステム、サービスを実現することにより、新たな市場の開発に期待している。

(*2)「発電床®」は株式会社音力発電の登録商標です。

世界トップレベルの技術力が「創る」

続いて、ルネサスで取り組んでいるEH電源システムの開発事例をご紹介しよう。熱(温度差)、電波、室内光など、多くの種類のエネルギ源から取り出せる電力は非常に小さく、かつ出力電圧もマイコンや無線、センサなどに必要な電圧の1/10程度しかない。そのため、非常に低い電圧を限られた電力で昇圧する技術が重要となる。

ルネサスでは、微小電圧(0.2V程度)をマイコンなどで使える電圧(1.8V程度)に昇圧するEH電源システムを開発した(図5では、手の指サイズの熱電変換素子からの出力電圧の昇圧に成功している)。この技術により、たとえば脈拍などを常時監視する機器を電池レス化・小型化できるようになり、煩わしさを感じずに常時身に着けられるといった新たな価値を利用者に提供できると考えている。

図5:熱電素子の出力(約0.2V)をマイコンなどに使える電圧に変換する電源ICを開発

図5:熱電素子の出力(約0.2V)をマイコンなどに使える電圧に変換する電源ICを開発

このようなEH電源システムと、ルネサスが得意とする超低消費電力マイコンなどとを組み合わせることによって、先に述べた様々な種類のエネルギ源を使ったシステムを構築できるようになり、エネルギ・ハーベスティング技術の応用の世界を大きく広げる可能性を秘めている。

エネルギ・ハーベスティング技術の応用市場は今のところ、黎明期にある。ルネサスは、装置メーカーはもちろんのこと、システム・ベンダまで含めたプレーヤーとのコラボレーションによってビジネスモデルの創出を模索している。ルネサスの有する振動発電の電源システム技術や低消費電力マイコン技術、超低電圧を昇圧する技術など、世界トップレベルの技術が「創る」ソリューションに大きな期待が寄せられている。

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