ルネサスの新戦略「プラットフォーム・プロバイダ」

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「OPEN」をキーワードにルネサスを変革、お客様志向のプラットフォーム・プロバイダへの道を歩む

【OPEN (1)】「情報のOPEN化」を決意、そして踏み出したOPENへの第一歩

—「変革」と呼ぶにふさわしい大きなビジネス戦略の転換があったと聞いています。その背景からおうかがいしましょう。

大村:「変革」の根底には、2011 年の東日本大震災があります。生産拠点が被害を受け、お客様への製品供給が滞りました。その復旧にはお客様から多大なご支援をいただき、貴重な人員までも投入していただきました。

この震災の経験をもとに、ルネサスでは「供給途絶ゼロ」を誓い、BCP(事業継続計画)を打ち立て実施しています。その計画の要は、「情報のOPEN化」です。すでに、従来は非公開であった生産拠点情報や、有事の際の代替生産拠点情報などをお客様に提供しています。また、生産拠点の分散化(マルチファブ)を進め、世界有数のICファンドリーである台湾積体電路製造(TSMC)〈以下TSMC〉と協業を開始しました。

TSMCとの協業は製造委託にとどまらず、ルネサスの世界No.1のフラッシュマイコンのMONOS技術と、世界No.1のICファンドリーであるTSMCの先端プロセス技術の融合とともに、両社のエコシステムを組み合わせることにより、お客様への安定供給と新たな付加価値を提供していきます。

—お客様のご支援を受けた復旧のありさまは、報道などで目にしました。その後の影響はありますか。

大村 :震災により、お客様製品の重要な部品供給を担う、弊社の責任の重さを改めて痛感しました。また、その対策の検討を徹底的にお客様の目線で行ったため、社内で「お客様志向」の考え方が高まり、ビジネス戦略を一新する大きな変革の波を生み出しました。

【OPEN (2)】「プラットフォーム・プロバイダ」への道を歩む

—「お客様志向」の高まりが、どのようにビジネス戦略に影響を及ぼしたのでしょうか。

大村:従来、ルネサスでは、マイコンなどのデバイス単位でお客様のニーズにお応えしていました。しかし、「お客様志向」を突き詰めると、お客様にとって重要なのは優れたデバイスの性能とサポートに加え、システムを実現するソリューションであり、ソリューションの価値向上が、ルネサスの果たすべき大切な役割であることに思い至りました。

その思いを具象化するために出した決断が、「プロダクト・サプライヤ」をさらに磨き、現在進めているマイコンやSOC+アナログ・パワーデバイスを軸にしたキットソリューションの提供を進めるとともに、さらにお客様のニーズに応えるソリューションを提供する「プラットフォーム・プロバイダ」へと進化させることであるとの結論に至りました(図1)。

図1:プロダクトをさらに磨き、お客様に最適なソリューションを提供する 「プラットフォーム・プロバイダ」への変革を目指す。

図1:プロダクトをさらに磨き、お客様に最適なソリューションを提供する 「プラットフォーム・プロバイダ」への変革を目指す。

お客様にプラットフォームを提供するというビジネスモデルは、レストランに例えると良くご理解頂けると思います。お客様は好みに応じて、フランス料理店や中国料理店、日本料理店を訪れます。そして、それぞれの料理店では、厳選された食材をベースに調理器具を用いてシェフが料理に仕上げて「おもてなし」します。私達のプラットフォームの考え方も、まさにこの「おもてなし」の心でお客様に提供いたします。半導体事業の場合、厳選された食材とは、優れたIPコア技術になります。自社で開発したものだけではなく、優れたコア技術は外部から導入したものもあります。そして厨房や調理器具は、半導体の設計基盤になります。その上で、LSIのインテグレーションやソフトウェアを含めたシステムインテグレーションを行うのがシェフというわけです。フランス料理店や中国料理店、日本料理店は、それぞれの応用分野のお客様に合った「プラットフォーム」という最高の料理をご提供する、私たちの分野に向けた組織そのものと言って良いでしょう(図2)。また、最高の料理をお届けするために、世界のさまざまなパートナ様とのエコシステムの構築も重要になってきます。これが新たなルネサスの「プラットフォーム・プロバイダへの変革」であり、第一事業本部が、その中心的な役割を果たします。

図2:第一事業本部では、IP コアの開発、設計基盤の構築、システムのインテグレーション、プラットフォームソリューションを、それぞれ分野のお客様に合わせご提供する。

図2:第一事業本部では、IP コアの開発、設計基盤の構築、システムのインテグレーション、プラットフォームソリューションを、それぞれ分野のお客様に合わせご提供する。

賢いクルマを実現する、制御とITの融合

—「プラットフォーム・プロバイダ」への変革とは、非常に興味深いお話です。詳しくおうかがいしましょう。

大村:「プラットフォーム・プロバイダ」への変革は、スマート化が進む社会状況の変化への対応も大きな要因です。自動車や産業分野を筆頭にさまざまな分野において、制御とITの融合が進んでいます。

制御とITの融合について、自動車を例に説明しましょう。今日の多くの自動車の基本機能である「走る・止まる・曲がる」の制御はマイコンが大役を担い、自動車一台あたりに50個~100個のマイコンが搭載されています。そして、自動車のさらなる低燃費化とセーフティドライブを実現するために、マイコンには一層の高性能化が求められています。また、クラウド(IT)情報の活用や、リアルタイムな画像認識による安全運転支援へのニーズも高まり続けています。安心・安全・快適なクルマ社会の実現には、これらのクラウド(IT)情報から車両制御までの連動が鍵です(図3)。ナビゲーションシステムがクラウドから交通情報を得て、車載カメラにより前方の道路状況を確認し、アクシデントの際には自動的に緊急停止すると言えば、容易にイメージできるのではないでしょうか。まさに、「賢いクルマ」を実現する、制御とITの融合が本格化しています。

図3:これからの安全・安心・快適なクルマ社会には、制御とITの融合が不可欠。

図3:これからの安全・安心・快適なクルマ社会には、制御とITの融合が不可欠。

ルネサスは、車載制御分野向けマイコンでは圧倒的なシェアを誇り、世界全体の4割以上を占めています。そして昨年、他社に先駆けて世界初の40nmプロセス世代の車載制御向けマイコン「RH850」の量産化に成功、車載向けマイコン分野では、常に世界No.1の技術と実績で業界をけん引しています。

さらに、クラウド(IT)情報サービスにおいても、ルネサスの車載情報端末向けLSIが業界をリードしています。今年3 月には、高性能なナビゲーション機能に、安全運転支援を実現する高性能リアルタイム認識機能を1チップに統合した「R-Car H2」を発表しました。

—R-Carには、プロセッサにArm®コアが採用されているとお聞きしましたが。

大村:その通りです。車載情報端末向けLSI「R-Car」シリーズのプロセッサコアには、Arm製のコアを採用しています。お客様の求めるプラットフォームを提供するためには、ルネサスの独自コアや自前主義のみに固執することはありません。

「big.LITTLE™ Computing Technology」を世界でいち早く実用化

—Armコアの採用は最近のことですか。

大村:いいえ、従来からモバイルや車載情報機器、産業機器などのLSIにArmコアを採用していました。その採用実績はコアの数にして8億個を超えています。また、ルネサスは、そのような外部から導入したプロセッサコアでも他社に比べ優れたインテグレーション力を持っています。車載情報端末向けLSI「R-Car H2」では、Cortex™ -A15を4個とCortex ™ -A7を4個集積したチップにおいて、高性能と低消費電力を両立させるArmの提唱する「big.LITTLE™ Computing Technology」を世界でいち早く実用化しました。 また、その豊かな経験から、同じArmコアで、同じ微細化プロセスルールであっても、世界最小で最高の性能を実現する優れたインテグレーション力を提供してまいりました(図4)。

図4:豊かな経験から高いArmコアインテグレーション技術を有するルネサス。

図4:豊かな経験から高いArmコアインテグレーション技術を有するルネサス。

同プロセスなら、他社を凌駕する小面積で高性能を実現する。

(ルネサス社内データ、28nm プロセス採用時)

このようにルネサスでは、自動車のクラウド(IT)情報の活用から、安全運転をサポートするリアルタイム認識、そして車載制御までをトータルに実現する「強い製品」群と、それを実現する技術を有しています。そして、それらを核に、お客様のニーズに合わせ、さまざまな車載分野に対応したプラットフォームを、ご提供していきます。

産業分野で進む、制御とITの融合

—自動車産業以外ではいかがでしょう。例えば、産業分野では。

大村:産業分野では、さまざまなセンシング情報をもとにした機器の制御をマイコンで行い、その個々の機器情報が高速制御ネットワークを介して工場全体のIT情報と連動していく、このような制御とITの融合が進んでいます。今後は、工場の生産性向上の決め手となるでしょう。ルネサスは産業分野においても、制御とITの融合に向けたプラットフォーム提案を進めています(図5)。

図5:産業分野における制御とITの融合、センシング情報による機器制御や制御ネットワークの連動が生産性向上に繋がる。

図5:産業分野における制御とITの融合、センシング情報による機器制御や制御ネットワークの連動が生産性向上に繋がる。

—「賢いクルマ」と同様に工場のスマート化が進むわけですね。

大村:その通りです。ルネサスは、産業分野においても、その鍵となるソリューションを提供していきます。消費電力の少ないモータ制御などには「RL78」マイコン、高速でリアルタイムなモータ制御には「RX」マイコンを、さらに6月には、ArmコアのハイエンドプロセッサRZファミリ第一弾として、大容量RAMを内蔵し高度なヒューマンインタフェースを可能にするRZ/Aシリーズを発表しました。産業機器のヒューマンインタフェースの高度化に貢献します。

また、従来はさまざまな通信規格が用いられていたFA(ファクトリオートメーション)において、情報処理の分野で幅広く使われているイーサネット(Ethernet)を活用する動きが進んでいます。情報処理分野と違い、産業機器では高いリアルタイム性や即時応答、高信頼性が求められるので、産業分野に適した産業用イーサネット(Industrial Ethernet)の普及が加速中です。ルネサスでは、ハードウェアアクセラレータの内蔵により、従来製品に比べて5~10倍の高速なリアルタイム応答性を実現した産業用イーサネット通信LSI「R-IN」を提供しています。消費電力も大幅に削減し、応答の揺らぎ(処理時間のバラツキ)の少ない確実な通信制御を実現します。さらに、産業用イーサネットの世界標準規格団体や各プロトコル協会と連携して、お客様をサポートしています(図6)。

図6:産業用イーサネット通信LSI「R-IN」と高度なヒューマンインタフェースを実現する「RZ/A」、産業用マイコンとの連動で、工場内の高度なリアルタイム処理・通信処理を実現する。

図6:産業用イーサネット通信LSI「R-IN」と高度なヒューマンインタフェースを実現する「RZ/A」、産業用マイコンとの連動で、工場内の高度なリアルタイム処理・通信処理を実現する。

【OPEN (3)】「エコシステム」—パートナ様とのエコシステム構築により、お客様への提供価値を高める—

—ルネサスの提供する「プラットフォーム」にエコシステムの力が加われば、お客様の利便性はさらに向上しますね。

大村:ルネサスは「人と環境にやさしく、あらゆるものが繋がる安全・安心なスマート社会に向けた、お客様のシステム開発と効率化」の支援を目指しています。お客様が、これまでの制御にITが融合していくさまを意識しながら、スマート社会に向けた新しいシステムの課題に直面した時に、ルネサスはさまざまなパートナ様とともにソリューションを提供していきます。例えば、Armと同様に、強いアナログ技術を有するアナログ・デバイセズ株式会社と協力して、さまざまなアプリケーションに向けた両社の強いデバイスを組み合わせたソリューションもすでにお客様に提供しています。また、LSI開発においても、昨年発表した世界No.1のファンドリーメーカであるTSMCとの協業による共通設計基盤をベースに、IPベンダやEDAベンダなど、さまざまなパートナ様との連携も積極的に進めていきます。

図7:パートナ様とのエコシステムの構築が、お客様システムの価値を高める。

図7:パートナ様とのエコシステムの構築が、お客様システムの価値を高める。

モータ制御システムを開発するお客様には、ルネサスはモータ制御の設計支援ツールやスタータキットなどをプラットフォームとして提供しています。そして、エコシステムのパートナ様からも、お客様のニーズに合わせたソリューションをご提供します。このようなルネサスとパートナ様の連携により、お客様のさまざまなお悩みを解決し、お客様のシステム開発期間の短縮に貢献することが、これからのルネサスが提供する真の価値であると信じています。

図8:ルネサスの提供するモータ制御プラットフォームとエコシステムのパートナ様が協力して、お客様のお悩みを解決する。

図8:ルネサスの提供するモータ制御プラットフォームとエコシステムのパートナ様が協力して、お客様のお悩みを解決する。

徹底した「お客様志向」の追求は、「お客様に喜んでいただくために心を尽くす」という、日本が世界に誇る「おもてなしの心」に通じています。「情報」、「プラットフォーム」、「エコシステム」の三つのOPEN化と、「おもてなしの心」を胸に、パートナ様とともに変革を遂行していきます。是非ともご期待ください。

—ルネサスの歴史の中で、大きなマイルストーンと呼べそうな変革をおうかがいしました。期待が高まります。