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USB PDとは?
暮らしが変わる新しい電源供給技術を徹底解説
❶便利さを増すUSB給電

これまでのUSBよりも大きな電力を供給する「USB PD」の普及が本格化しそうです。何かと話題になるUSB PDとは何か、どのような便利な使い方ができるのか、USB PDの基本を学びましょう。

USBが電源を変えた

スマートフォンやデジタルカメラの充電にUSBを使うのは当たり前の光景になっています。しかし、10年ほど前までは、デジタル機器の充電には一定の配慮が必要でした。多くのデジタル機器でACアダプタは、それぞれ異なります。機器ごとに電源端子の形が異なり、電圧やコネクタが違うのです。そのため、異なる機器の間でACアダプタを共用することは、ほとんどありません。同じメーカーの同様な機器で、異なるACアダプタを使っていることもあります。USBを使った充電が普及していなかった当時は、ACアダプタの紛失は一大事で、出張の際などは、携行するすべてのデジタル機器のACアダプタを荷物に入れたかの確認が不可欠でした……。

この状況を一変させたのがUSBです。USBを使って、電力を供給できることから、多くのデジタル機器がUSBを電源に採用しました。スマートフォンや小型のデジタルカメラなどの携帯用機器は、USB電源アダプタを使って充電するのが当たり前になりました。1台のアダプタで複数台に給電できる装置もあります。いろいろな種類のACアダプタを取り替えて充電することは、最近ではあまり起こらなくなりました。

USB PDの誕生!100W給電でもっと便利に

USBは、通信と給電が同時に行える規格です。これは、それまで一般的だったシリアルまたはパラレルのインターフェース規格と大きく違うところです。USB1.1において、2.5W(5V500mA)の給電が定められています。その後、給電能力はUSB3.0で4.5W(5V900mA)に拡張されました。一方、充電については、2007年8月に「USB BC(Battery Charging Specification)」という規格が誕生し7.5W(5V1.5A)の給電が可能になりました。この規格の誕生で、機種ごとに異なるACアダプタに別れを告げ、USBによる充電への動きが加速されました。この規格は拡張され、最新の「同Rev.1.2」(2010年12月)では、より精緻に充電に関するルールが定められ、USBによる充電の安心感が増しました。ただ、この電力ですと、スマートフォンやデジタルカメラなどの小型のデジタル機器には使えますが、例えばノートPCやモニターといった数十Wを消費する機器を駆動するには足りません。

そこで登場した規格が、USB PD(Power Delivery)です。2012年7月に最初のバージョン(USB PD1.0)が発表され、1本のUSBケーブルで100Wまでの電力を供給する仕様が定められました。100Wというのは、かなりの電力です。15型程度のノートPCの消費電力は60W前後、A3版用インクジェット複合機は30W前後です。各装置がUSB PDに対応していれば、USBハブからノートPCに給電し、同じハブからモニターに給電することが可能です。電圧も5Vに限定されません(図1)。

これまでのUSBですと、このつなぎ方ではハブからノートPCへは電力を送れませんでした。しかし、USB PDであれば後述する「ロール・スワップ」により「USBホスト―USBデバイス」の関係と「給電―受電」の関係をそれぞれ個別に変更できます。ハブより給電は受けつつも、ノートPCをUSBホストにできるのです。USB PDの普及により、ノートPCとさまざまな周辺機器で別々のACアダプタを用意し、何本ものケーブルを使って電力を供給する必要がなくなり、USBケーブルに給電と通信を統合できます。会社や自宅PC周りの配線はスッキリするでしょう。

図1:USB PDを利用すれば、デスク周りの配線がスッキリ!

図1:USB PDを利用すれば、デスク周りの配線がスッキリ!

最大限の性能発揮はUSB Type-C™ケーブルで

2012年にUSBによる最初の電力供給規格であるUSB PD1.0が規格化された際、USB PD対応の電力供給用のコネクタやケーブルも規定されました。従来のUSBとは、コネクタの形状は同じですが、内部が僅かに違います。USB PD対応のUSBケーブルを従来の端子に差し込んでUSBとして使うことはもちろん可能です。逆に、通常型のUSBケーブルを電力供給対応のUSB端子につないだ場合、データ通信はできますがUSB BCに定められた充電用以上の電力供給はできません。

ここで、USBコネクタの種類を整理しましょう。下の図は、よく見られるコネクタの用途と形状です。ホスト(パソコン)側につなぐコネクタはType-Aと呼ばれ、プリンタなどのデバイス側はType-Bと呼ばれます。スマートフォンやタブレットで普及しているデバイス側のコネクタはMicro-Bと呼ばれるものです。

図2:主なUSBコネクタの種類

図2:主なUSBコネクタの種類

さて、図2のUSBコネクタは種類により形が異なっています。コネクタは、正しい向きでないと差し込むことができません。そこで、一層便利な上下対称なデザインで、ホスト側もデバイス側も共通に使用できるようにしたコネクタがType-Cです(図3)。Type-Cでは、ピンの数も増え、これまでのUSB以外のプロトコルを流す事も可能です。映像信号をType-Cケーブルに乗せれば、PCとモニターの間のケーブルは電力供給を含めて1本にできます。

給電にフォーカスした規格として2012年に登場した「USB PD 1.0」は、2014年にType-Cコネクタの登場とともに「USB PD2.0」に改訂されました。ここで、USB Type-Cの利用が規定されると共に「パワールール」が導入されました。さらにこれを発展させた現行規格「USB PD3.0」が2015年に発表されました。「USB PD3.0」では、機器間認証など安全面を配慮した仕様が追加されています。

図3:Type-Cコネクタ、Type-AやBに比べ小型化し、スマートフォンなどで使われているMicro-Bよりは若干大きい

図3:Type-Cコネクタ、Type-AやBに比べ小型化し、スマートフォンなどで使われているMicro-Bよりは若干大きい

USB PD2.0で導入されたパワールールは、機器間での給電・受電の際に混乱が生じないように電圧と電流の条件を整理したものです。まず、供給可能電力は、15W、27W、45W、60W、100Wの5段階を区切りとしました。そして、標準電圧と標準電流が、供給可能電力に応じて決められました。例えば、供給可能電力が15Wの場合、5V3Aが標準として必ず供給できないとなりません。45Wの場合は、5V3A、9V3A、15V3Aのすべてに対応可能でなければなりません。なお、前出の通りUSB PD規格は給電のためのものであり、通信にフォーカスしたUSB3.1などとは共にあるものです。

優れものUSB Type C™は、かなり便利

Type-CとUSB PDを組み合わせたUSB PD3.0は、Type-Cの持つ電力供給機能やマルチプロトコル機能を花開かせています。そのひとつが「ロール・スワップ」です。ロールとは、役割のこと。機器の役割を「スワップ(入れ替え)」することができますが、これもType-Cゆえに実現できました。

例えば、ノートPCから外付けバッテリーへ、USB経由で充電するケースを想像してみてください。ノートPCを使用し続けていると、いずれバッテリーが切れそうになってきます。これまででしたら、両者を結ぶケーブルを外し、向きを逆転して接続しないと、バッテリーからノートPCへ電力を供給することはできませんでした。そのためには、バッテリーには、電力を供給する際に使うType-Aのソケットと、電力を受け取る(充電する)際に使うType-Bのソケットの両方が用意されていないとなりませんが、市場にはそのようなノートPCは登場しなかったとみられます。

しかし、Type-Cを利用している場合、電力条件等が合っていれば、ロール・スワップ機能により、両端の機器(ここでは、ノートPCとバッテリー)の電力上の役割、つまり「給電」と「受電」を一瞬にして入れ替えることができます。先ほどまで給電していたノートPCが受電に、受電していたバッテリーが給電する立場になるのです。

なお、役割を入れ替えるのは電力だけでなくデータ通信についても可能です。また、電力上の役割が入れ替わっても、データ通信的には以前の状態を維持することができます。給電の方向は変わっても、通信はそのまま続行、ということができるように配慮されています。

安全に十分な配慮

USB PDとType-Cケーブルを組み合わせることで、ACアダプタの削減や、ケーブルの整理ができるなど、デジタル機器の環境は大幅に改善されます。Type-Cケーブルには最大100Wの電力が供給されるため、発熱などの問題が起きない安定した品質のものが求められます。USB PDの最新規格であるUSB PD3.0では、正規品を識別するために、接続する機器やケーブルの機器間認証機能(Authentication)が追加されました。USB PD3.0の機能である機器間認証機能を用いて、USB-IFの認証試験に合格していないケーブルを接続した際は2.5W(5V0.5A)を超える電力を供給しない、といったポリシーを適用して安全を管理できます。

USB PD 3.0は、安全性を確保しつつ電力関連の利便性を大いに高めたUSBの拡張と言えるでしょう。今後、従来の情報機器のみならず、より幅広い機器(たとえば、卓上電動工具や調理器具)への電力供給も担う可能性を持っています。それぞれの機器固有のACアダプタではなく、どこでも購入できる汎用ACアダプタを実現するのは、USB PD3.0なのです。

さて、次回はUSB PDの課題について学びます。便利なUSB PDですが、その利用にはどのような課題あるのか……。

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