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Response to the TCFD Proposal

ルネサスのパーパスである「To Make Our Lives Easier」を実現するためには、中長期の財務的な経営目標とサステナビリティの目標を整合させ、ステークホルダーに対してもポジティブな変化をもたらすことが必要であると考えています。ルネサスは、サステナビリティの観点から重要な課題を特定するために、さまざまなステークホルダーと共にマテリアリティ分析を実施しました。

分析した「マテリアリティ」の一つとして、「気候変動、エネルギー消費および温室効果ガス排出削減への対応」を掲げています。気候変動による事業への影響を軽減するとともに、環境に配慮した事業活動の実践や、環境に貢献する事業機会の創出により、「気候変動、エネルギー消費および温室効果ガス排出削減への対応」に取り組んでまいります。

library_books マテリアリティ分析と情報開示について(英語)


 
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図:TCFDロゴ
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図:TCFDコンソーシアムロゴ

ルネサスは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同し、日本を拠点とするTCFDコンソーシアムにも加盟しました(2021年4月15日発表)。このTCFD提言への賛同表明を踏まえ、気候変動がもたらす事業へのリスクと機会について検討を進め、TCFDのフレームワークに基づく情報開示を進めています。フレームワークとしては、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの視点から、ステークホルダーに積極的に情報開示するとともに、気候変動をより一層意識した経営戦略の策定と、気候変動のリスクを軽減、機会を最大化する経営判断を行います。

ガバナンス

ルネサスは、気候変動に伴う様々な機会・リスクを事業戦略上の重要な観点の一つとして認識しています。よって、気候変動による機会・リスクを含めたサステナビリティに関連する活動のすべての全社的責任は、CEOにあります。気候変動に係る方針や重要事項、機会・リスクは、CEOおよびCEOが指名する執行役員、サステナビリティ推進室により定期的に議論、見直しを行い、取締役会に対して、定期的に報告を行います。また、CEO統括のもと、環境担当役員が管理責任者として、ルネサスグループ全体の環境活動の推進を担う環境推進部を管掌し、グローバルに検討、計画し、体制を整え管理しています。

library_books サステナビリティ推進体制

library_books 環境マネジメントシステム体制

戦略

気候変動はルネサスにとって重要な課題です。気候関連のリスクと機会が当社グループの事業、戦略、財務計画に及ぼす影響の把握、およびそれに対する対応策を検討するために、以下の前提を用いて、シナリオ分析を実施しました。

シナリオ分析の前提

分析にあたり、対象地域は海外を含む全エリア(ただし、温室効果ガス排出量は第三者検証を受けている範囲(全体温室効果ガス排出量の95%以上をカバー))とし、事業範囲は全事業、企業範囲は連結決算の範囲、時間軸としては2030年を選択しました。また、シナリオについては、「2℃未満シナリオ」としてIEA(International Energy Agency)のSDSシナリオ(Sustainable Development Scenario)とIPCCのRCP2.6などを、「4℃シナリオ」としてIEAのSTEPシナリオ(Stated Policies Scenario)とIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)のRCP8.5などを選択しました。

項目 分析対象範囲・時間軸・選択シナリオ
地域 海外を含む全エリア
ただし、温室効果ガス排出量は第三者検証を受けている範囲(全体温室効果ガス排出量の95%以上をカバー)
事業範囲 全事業
企業範囲 連結決算の範囲
分析時間軸 2021年~2030年
シナリオの選択 2℃未満シナリオ:IEAのSDSシナリオ(Sustainable Development Scenario)、IPCCのRCP2.6など
4℃シナリオ:IEAのSTEPシナリオ(Stated Policies Scenario)、IPCCのRCP8.5など

シナリオ分析の進め方

まず、2030年における社会動向や規制動向などを予測し、TCFD提言にて例示されているリスク・機会を基に、気候変動がもたらすと思われる当社グループに対するリスク・機会の項目を幅広く列挙しました。

リスクについては、大分類として低炭素経済への移行に関する移行リスク、気候変動による物理的変化に関する物理リスクがあります。移行リスクは、政策と法、市場、評判(顧客の評判変化や投資家の評判変化)などに、物理リスクは、リスク発生が慢性のもの(平均気温の上昇、降水・気象パターンの変化、海面の上昇など)と急性のもの(異常気象の激甚化など)に分類しました。機会については、資源効率、製品とサービス、新市場という観点から分類しました。

次に、当社の中長期的な事業計画をベースに、気候変動による事業運営への影響が大きくなると予想される項目を絞り込みました。そして、これらの項目について、2030年における財務影響を、2℃未満シナリオと4℃シナリオそれぞれに基づいたパラメーターを収集し、影響の抽出を行いました。抽出結果に対して、組織におけるレジリエンスを高めるための対応策を検討しました。

2℃未満シナリオおよび4℃シナリオにおける想定事象

シナリオ 想定事象
2℃未満
RCP2.6
  • 日本・米国・新興国でもカーボンプライシングの導入が進み、世界的に炭素価格が上昇する
  • 炭素規制強化により、エネルギーや炭素集約度の高い原材料の調達価格が上昇する
  • 新興国を含む世界各国において低炭素・脱炭素技術向けの商品需要が拡大する
  • 顧客や投資家からの脱炭素化要求が高まり、対応できない企業が淘汰される
4℃
RCP8.5
  • 日本・米国・新興国のカーボンプライシングの導入は進まない
  • 炭素規制強化は進まず、エネルギーや炭素集約度の高い原材料の調達価格の上昇は限定的にとどまる
  • 欧州など先進国を中心に低炭素・脱炭素技術向けの商品需要が拡大する
  • 世界的な温室効果ガス排出削減の遅れにより、温暖化が進行し、異常気象(洪水、干ばつなど)が増加傾向となる
参考:世界の平均気温の変化予想(出典IPCC)
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世界の平均気温の変化予想
出典:IPCC AR5 SYR SPM Fig. SPM.2.1キャプション

シナリオ分析に基づく抽出結果まとめ

今回の分析による、当社グループにとっての主要なリスクと機会とその対応策は以下です。特に、2℃未満シナリオの場合、当社グループにとって大きな機会になると想定され、今後は、その機会を捉えるべく、積極的な施策を進めて参ります。

リスク
  • 事業を行っている各国でカーボンプライシングが導入されることにより、対応のためのコスト増加、炭素集約度の高い原材料コスト・生産委託料の上昇などリスク
  • 省エネが要求される市場や製品で開発遅延が発生した場合や、顧客から求められる脱炭素への要求に十分に応えられなかった場合、販売機会の損失や売上減少リスク
  • 異常気象の増加により製造拠点や物流網が影響を受け、売上高減少や復旧費用の発生リスク
機会
  • 脱炭素・低炭素化に対応した製品・ソリューションの需要が大幅に増加する機会。特に、自動車向け事業では、EV (Electric Vehicle)の市場拡大に伴う関連製品の需要拡大、産業向け事業では、低炭素・脱炭素技術関連(風力・FA (Factory Automation) など)の需要拡大が見込まれる。
  • 気候変動に伴う顧客のし好、関心の変化に対応することで新たな市場を獲得する機会
対応策
  • 温室効果ガス排出量削減目標達成に向けた施策の着実な実施およびサプライヤの温室効果ガス排出量の把握、削減施策の働きかけにより炭素税増加リスクへ対応する
  • 各国の省エネ基準変更の事前察知を通じた開発着手の前倒しや柔軟に機能変更を可能とする開発手法の導入によりタイムリーな市場投入を可能にする
  • 顧客や投資家が要求する脱炭素の取り組みに応えるよう、環境活動の推進・加速及びコミュニケーションを促進する環境情報を積極的に開示する
  • 製品およびソリューションのラインナップ拡充や高速・高機能・高効率化などを実現する次世代技術獲得など、エネルギー効率の高い製品の開発を加速する
  • ビジネスの多様化、消費者の嗜好の変化など、新市場拡大機会への対応に向けた研究開発へ、継続的に投資を実施する

分析・対応策の詳細

各リスクと機会が発現する時期についてシナリオ分析などを基に想定し、2022~2030年までの9年間を「短期」「中期」「長期」に分類し、開示しています。「短期」3年以内、「中期」3年超~6年以内、「長期」6年超を想定しています。

リスク要因に対する財務影響評価および対応策
カテゴリ 想定される財務影響 期間 対応策
移行
リスク
法規制の強化 脱炭素化に向けて各種法規制が強化され、対応のためのコストが増加する。
  • カーボンプライシング(Scope1~3)
  • PFC規制、リサイクル規制
  • 新興国における省エネ関連規制
短中期
  • 中長期の温室効果ガス削減目標達成に向けた計画的な施策の実施
  • サプライヤによる排出量の把握、削減施策の働きかけ
  • グローバルで「リサイクル率90%以上維持」を指標とした継続的な3Rへの取り組み
テクノロジー・
市場の変化
省エネが要求される市場・製品での開発遅延により、販売機会が損失し、当社利益が減少する。一例として、ガソリン搭載車の減少によるICE用途MCUの売上減少などが想定される。 短中期
  • 省エネ基準変更の事前察知、開発着手の前倒し
  • 柔軟な機能変更を可能とする技術の導入
  • エネルギー効率の高い製品開発に向けた研究開発への継続的な投資
  • ICE用途からxEV, ADAS用途IC、Discreteへの開発資源の集中、およびクロスドメイン対応MCUの開発
当社のサプライヤに課せられた炭素税が部材単価に反映されると、生産コストの増大が想定される。 中期
  • サプライヤによる温室効果ガス排出量の把握、モニタリング
  • サプライヤとの目標共有、削減施策推進の働き掛け
ステークホルダー
評価の変化
顧客からのサプライチェーンにおける脱炭素要求に当社が応えられなかった場合に売上が減少する。また、ESG投資の拡大による資金調達への影響が想定される。 中期
  • 顧客の環境調達規程を充足する当社の環境活動の推進・加速
  • ステークホルダーへの積極的な環境情報開示と、相互理解のためにコミュニケーション促進
  • 環境目標への達成進捗を役員の評価に追加
物理
リスク
異常気象による
災害の増加
異常気象による災害の増加により、自社拠点およびサプライヤ拠点が罹災する。復旧までの期間の売上が減少し、復旧費用が必要となる。 中長期
  • BCMに基づき、拠点別のリスク評価および対応策を実施済み
  • 現在ハザードマップ外にある拠点を含めた継続的な情報収集
  • 継続した分散調達および代替品の検討・準備
機会に対する財務影響および対応策
カテゴリ 想定される財務影響 期間 対応策
資源の効率利用 事業所、生産拠点における資源(エネルギー、水)の効率利用が進みコストが削減される。 短期
  • 投資効果を考慮した計画的な省エネ施策の実施
  • 水リサイクル率35%を目標とした水の効率的使用の推進
  • PPAの活用拠点の拡大
低炭素
排出商品・
サービス
xEV用
ソリューション
市場拡大
自動車部門での脱炭素化が進展し、xEV用ソリューション市場が拡大する。 短中期
  • BMS向け製品の開発加速・低電力化
  • Monolithic/Wireless化などの製品レパートリーの拡充
  • 顧客の開発期間を短縮する開発キットの提供
  • xEV向け製品の開発加速、低消費電力・高効率化、OTA対応などの製品ポートフォリオの充実
  • AD/ADAS向け製品の開発加速、高機能・高性能化
産業用
ソリューション
市場拡大
産業部門での脱炭素化が進展し、関連する産業用ソリューション市場が拡大する。 短中期
  • DDR5と以降のDDRメモリ規格に準拠した製品の開発加速、低電力・低負荷化
  • 5G向けミリ波ビームフォーマー・ソリューションの開発加速、低消費電力・高効率化
  • FA向け製品(主にモータ制御用ICやエンドポイントAI搭載MCU/MPU)、BA向け製品(主に空調システム、照明向け製品)の開発加速、高機能化、RF機能強化
  • IGBTの開発加速と先端プロセスによる高効率化、及び生産能力増強
  • 次世代パワー半導体の採用の加速
顧客のし好、
関心の変化への対応
気候変動に伴う顧客の関心の変化(エネルギー効率化、IoT、センサー、高度気象予報など)に対応することで売上が拡大する。 短中長期
  • 低消費電力製品やエネルギー効率を改善するソリューション提供に向けた製品開発の促進、及びイノベーションを生み出す研究開発への注力
  • 製品レパートリーの拡充、高速・高機能・高効率化
新市場
への進出
新規事業 既存事業で培った技術の低炭素社会における新産業への転用 短中期
  • Automotive/IIOT分野製品のセキュリティ強化
新興国市場 脱炭素ニーズの広がりによりIGBT、5G向けミリ波ビームフォーマー・ソリューションの新興国向け売上げが拡大する 短中期
  • 新興国市場への拡販推進、IGBTの高性能・高効率化

リスク管理

ルネサスグループでは、「ルネサス エレクトロニクスグループ リスクおよび危機管理規則」に基づき、グループ全体でリスクマネジメント体制を構築しています。気候関連リスクを含め、ビジネス上のリスクを定期的に抽出し、その種類や特性に応じ危機管理担当部門を決め、日常的にリスク管理を行っています。また、リスクマップに、現実的に想定されるリスクを、あらかじめ特定し一元化すると同時に、リスクの未然防止策、リスク発現時の体制や対応方針を策定しておくなど、不測の事態に備えています。さらに、全社における緊急事態が発生した場合には、CEOを本部長とした緊急対策本部を速やかに設置し、情報を一元化、対策を検討し損失の極小化のための対応に当たります。

library_books リスクマネジメントについて

指標と目標

ルネサスは地球温暖化の防止に向け、2050年にカーボンニュートラルの実現を目指します

カーボンニュートラルの実現に向けた中間目標として、1.5℃目標(世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力)に沿って、2030年に温室効果ガスの排出量を2021年比で38%削減する目標を設定しました。本目標はScience Based Targets initiative(SBTi)から、科学的根拠に基づく目標として認定を取得しています(2022年8月25日発表)。

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カーボンニュートラルの実現に向けた中間目標

削減目標の達成に向け、エネルギー消費の多い生産拠点を中心に、国内の電機・電子業界目標および省エネ法におけるエネルギー原単位の削減目標の達成、温室効果ガスの中でも特に環境負荷の高いPFCガスの排出削減、再生可能エネルギーの使用拡大など、さまざまな活動を継続的に推進しています。

また、今回Scope3についても「Scope3のCategory1における温室効果ガス排出量の70%に相当するサプライヤ(生産委託含む)が、科学的根拠のある温室効果ガス削減目標を2026年までに設定」という新たな目標を設定し、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減にも努めていきます。

library_books 主要環境項目と目標について


用語集
前段
IEA International Energy Agency (国際エネルギー機関)
SDS Sustainable Development Scenario (IEAの気候変動シナリオ)
IPCC Intergovernmental Panel on Climate Change (気候変動に関する政府間パネル)
RCP Representative Concentration Pathways (代表濃度経路)
STEPS Stated Policies Scenario (IEAが発表した各国が表明済みの具体的政策を反映したシナリオ)
リスク要因に対する財務影響および対応策
Scope 1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope 2 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
Scope 3 Scope 1、Scope 2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)
PFC Perfluorocarbon(パーフルオロカーボン)。半導体製造などの製造工程のエッチングや洗浄 に使う代替フロンガスの一種。
3R Reduce(リデュース/発生抑制)、Reuse(リユース/再使用)、Recycle(リサイクル/再生利用) を略した用語でごみを減らす3つの工夫。
ICE Internal Combustion Engine(内燃機関)
MCU Micro Control Unit(マイクロコントロールユニット)
xEV 電動車
ADAS Advanced Driver-Assistance Systems(先進運転支援システム)
BCM Business Continuity Management(事業継続マネジメント)
機会に対する財務影響および対応策
PPA Power Purchase Agreement(電力販売契約)、発電事業者が自らの負担により発電システム を設置し、その発電された電気を建物所有者に販売するモデル
BMS Battery Management System(バッテリーマネジメントシステム)
Monolithic/Wireless化 Monolithic:機能ごとに分かれた複数のIC(Die)を再構築して、一つのDieに集積して実装すること
Wireless:無線通信機能を実装すること
OTA Over The Air、無線通信を経由してデータを送受信すること
DDR Double-Data-Rate 高速メモリ
5G向けミリ波ビームフォーマー・ソリューション 詳しくはこちら
FA Factory Automation
エンドポイントAI 詳しくはこちら
BA Building Automation(ビルディングオートメーション)
RF Radio Frequency(高周波)
IGBT Insulated Gate Bipolar Transistor(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)
IIOT Industrial Internet of Things
<指標と目標>
Scope 3
Category 1
購入した製品やサービスが製造されるまでの活動において排出される温室効果ガス排出量