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Ryutaro Minesawa
峯沢 隆太郎
課長
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Yasuhiko Ochiai
落合 康彦
シニアプリンシパルスペシャリスト
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Shinya Ishida
石田 慎哉
技師
掲載: 2023年6月26日

欧州での厳しいCO2排出規制に加え、各国が2030年以降のICE車(内燃機関車)の新車販売を禁止するなど電動化に力を入れており、世界中で自動車の電動化(EV化)が進んでいます。EVの広がりは今までガソリンとして流通していたエネルギーを電気として流通させることでもあり、充電ステーションの普及が重要になります。EV用充電ステーションの市場動向、技術トレンド・最適な半導体について、詳しく紹介します。

EVの充電スタイルには、自宅で夜間に行う「基礎充電」、外出先や訪問先での「目的地充電」、高速道路のSAなど道中で充電する 「経路充電」の3つがあります。普段の生活用途、近距離移動で重要になるのは基礎充電と目的地充電です。一方で長距離走行をする場合は経路充電が重要になります。途中で何時間も充電休憩をするわけにはいかないので、現在のICE車と同様に使用するには、特に充電時間の短いDC急速充電設備の充実が鍵になります。EVの普及が世界的に加速する現在、充電ステーションを普及させることは必要不可欠であり、Yole Groupの予測(図1)でも、DC充電器市場は年平均成長率(CAGR2020-26) で15.6%という高い成長率が予想されています。

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DC Charging by Power (Source: Yole Group)
図1. 電力別DC充電台数の推移(出典:Yole Group)

EV用DC充電ステーションの回路例を図2に示します。EVの普及は2030年までに140M台に到達すると予測されており、これは140M台の車両にトータルで7TWh(テラ・ワットアワー)の電力蓄電が可能ということを意味します。そのため、EVの駆動用バッテリーに充電されたエネルギーを社会インフラとして活用していくという動きも見られ、EVの駆動用バッテリーは、再生可能エネルギーのピークシフトや災害時のバックアップ電源(蓄電池)として活用することが可能です。この場合、EV充電設備は充放電どちらにも対応する双方向タイプ(図3)が必要です。EVの普及と双方向充電ステーションの普及が再生可能エネルギーを活用する持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。

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Example Circuit of a DC Charging Station for EV
図2. EV用DC充電ステーションの回路例
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Example Circuit of a DC Charging Station for Bidirectional (V2G) EV
図3. 双方向(V2G)EV用DC充電ステーションの回路例

各DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンドを図4に示します。EVの普及に向けては充電時間の短縮は必要不可欠であり、より大電力・高電圧をサポートする充電方式へ移行が進んでいます。また、内部の電源ユニットをモジュール化し、負荷に応じて電力を割り当てることで、複数のEVへの同時充電も可能になり充電渋滞の解消も期待されます。

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DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンド
図4. DC充電方式とEV駆動用バッテリー電圧の市場トレンド

次に、DC充電ステーションで使用される半導体について述べます。DC充電方式が大電力・高電圧になるに従って使用されるパワー半導体はより低損失なものが望まれます。これは大電力を出力する場合、同じ効率でも大電力の方が損失は増えるため大型の冷却システムが必要となるためです(例:50kW出力で効率98%の場合、損失は1kW。400kW出力で効率98%の場合、8kWとなり冷却が難しくなる)。低損失なパワー半導体を採用することで、より安価で小型の冷却システムを採用することができるため、システムの低コスト化と小型化が可能になります。また近年は、Si (シリコン)IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)だけでなくSiC(シリコンカーバイド) MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)への期待も高まっています。MOSFETをベースとした設計では、同期整流の採用やスイッチング周波数を高く設定することが可能となり、より安価な冷却システムやより小型の受動部品を採用することができます。

DC充電ステーションで使用される半導体のトレンドを表1に示します。パワー半導体では既に述べた通り、大電力・高電圧対応とより低損失なものが望まれます。マイクロコントローラ、パワーマネジメントICでは、安全・保護機能や高いセキュリティ、FOTA(ファームウェア無線通信アップデート)、周辺機能を統合しBOM削減できるものが望まれ、ゲートドライバICは高電圧対応とパワー半導体をより低損失でスイッチングする技術、そしてマイクロコントローラ、パワーマネジメントICと同じく周辺機能を統合してBOM(部品構成表)削減できるものが求められます。

表1. DC充電ステーション用半導体の技術トレンド
製品カテゴリー 技術トレンド
  • パワー半導体
  • 大電力、高電圧対応
  • 低損失デバイス
  • マイクロコントローラ
  • パワーマネジメントIC
  • 安全・保護機能、セキュリティ
  • FOTA
  • 周辺BOM削減
  • ゲートドライバ
  • 高電圧対応
  • 高速ゲート駆動技術
  • 周辺BOM削減

DC充電ステーション用のアプリケーション例を図5に示します。ルネサスが提供するIGBTは低損失:低VCE(sat)= コレクタエミッタ間飽和電圧を実現しているだけでなく、IGBTがオンする閾値電圧(Vth)の特性ばらつきを抑えることに成功しており、これは大電流制御で並列使用を行う際にIGBTがオンするタイミングのズレを抑えるため、並列接続時のアンバランスを改善し安定性・安全性を向上させます。そして併せて高い信頼性を有しており、高い信頼度が求められるDC充電ステーションに最適です。次にルネサスのマイクロコントローラは、低コストでありながら高速処理と高い信頼性を実現しています。また高スイッチング周波数にも対応可能な高機能タイマを搭載しており、システムの小型化・周辺BOM削減に貢献します。そしてパワーマネジメントICと組み合わることでマイクロコントローラの異常監視や診断機能の設計を簡素化し、BOMコストを最小限に抑えます。ゲートドライバICは、高い駆動能力を有しており大電力のパワー半導体も駆動可能です。また併せてパワー半導体の並列駆動にも対応しておりBOM削減を実現しながら大電力化を可能とします。

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Applications for DC Charging Stations
図5. DC充電ステーション用アプリケーション

ルネサスは再生可能エネルギやマイクログリッド、そしてEVなどのパワーエレクトロニクス市場へ多くの半導体製品を提供しています。またルネサスは各半導体製品(パワー半導体+マイクロコントローラ+アナログ製品)を組み合わせたウイニング・コンビネーションソリューションを提供しており、半導体製品だけでなく、各ユニットのハードウェア設計情報とソフトウェア設計情報を提供します。本ソリューションを活用することで各製品のデバイス選定や試作機の設計を省略できるため、お客様での開発期間の短縮と開発コストの低減に貢献します。また、本ソリューションで紹介した製品はルネサスのオンラインストアから手間なく、簡単で購入できます。こちらでクリックしましたら、カートに追加することができます。

現在、社会全体がゼロ・エミッションの方向へ大きく舵を切っています。再生可能エネルギ市場の拡大、自動車のEV化、充電ステーションの普及は今後急速に加速してゆくことが予想されます。ルネサスはこのゼロ・エミッション社会へ、市場トレンドにマッチした半導体製品の提供と、ウイニング・コンビネーションソリューションを提供することで、再生可能エネルギを活用する持続可能な社会の実現へ貢献していきます。

他のEV充電ステーションのウイニング・コンビネーションソリューションはこちらで参照ください。

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