~広範囲な送信出力制御と送信雑音低減を両立し、 可変範囲78dBで電力制御精度0.27dB、かつ低送信雑音-160.4dBc/Hzを実現~

2010年6月18日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:赤尾 泰)はこのたび、W-CDMA(注1)や、次世代高速データ通信規格LTE(注2)といった複数の無線規格に対応するマルチモードRF IC(Radio Frequency [高周波信号処理] IC)向けに、送信回路で求められる広範囲送信出力制御と、低送信雑音(注3)を両立するCMOS可変利得増幅回路技術を開発しました。

 本技術は、増幅器の回路構成を工夫することで、広範囲、高精度な電力制御のために従来複数段必要であった増幅器を1段のみで実現可能とするものです。このため、増幅器毎に発生する送信雑音を低減でき、送信雑音抑圧のために必要であったSAWフィルター(注4)を除去可能となるためシステムの小型化を図ることができます。

 また、本技術を用い、65ナノメートル(nm) CMOSプロセスの可変利得増幅器を試作した結果、78dBの可変範囲で0.27dB精度の細やかな電力制御を実現し、さらにSAWフィルター除去が可能な送信雑音-160.4dBc/Hzを達成しました。加えて、低利得時の低消費電力化も実現しています。

背景

 近年の携帯無線端末では、世界中のどこにいても通信・通話が可能な国際ローミング機能が求められています。この実現のため、RF ICはGSM(注5)やW-CDMA、LTEといった多様な通信方式に対応でき、かつ多数の周波数バンドで動作できるマルチモード・マルチバンドRF ICが使用されます。しかし、送信回路出力段に接続されるSAWフィルターの個数が増大し、実装面積や携帯無線端末のコスト増加につながります。このため、送信雑音を低減することで、送信雑音抑圧のためのSAWフィルター削減が求められています。

 一方、W-CDMA、LTEでは74dB可変範囲で1dBステップの送信出力制御が規定されています。これは基地局側でできるだけ多くのユーザーを収容できるようにするためであり、基地局に近いユーザーは低出力で送信し、遠いユーザーは高出力で送信するように送信電力を制御します。このような送信電力制御はアナログ/デジタル制御信号を用いて電圧利得を可変できる可変利得増幅器で行います。従来回路技術の可変利得増幅器では、制御できる可変範囲が20から30dB程度の増幅器1段を3段接続し、74dBの可変範囲を実現していました。しかし、この構成では前段の増幅器から発生する雑音も増幅してしまうため、送信雑音の低雑音化が難しいという課題がありました。

技術の内容

 このように、従来のCMOS回路技術では非常に困難であった、広範囲送信出力制御と低送信雑音化の両立を実現する、新たな回路構成のCMOS可変利得増幅回路技術を開発しました。

 本技術の特長と内容は以下のとおりです。

1. 1段構成で広範囲かつ細かい利得ステップが実現可能な利得制御方式を開発

 電圧利得が2分の1(6dB)ずつ異なり、入出力端子が共通の増幅器(以下、6dBステップ増幅器)を18個使用し、デジタル信号でそれぞれの増幅器を ON/OFF制御します。ここで、全体の電圧利得はスイッチがONとなる増幅器の電圧利得の和となり、以下のようにスイッチ制御します。

(1)78dBの大まかなステップ制御は、13個(=78dB÷6dB)の6dBステップ増幅器を6dB毎に切り替えます。

(2)(1)の6dBの間における細かいステップ制御は、連続する5個の6dBステップ増幅器をON/OFF制御することによって実現します。

(1)と(2)より6dBステップ増幅器は65個(=13×5)必要となりますが、動作がどちらも6dBステップ増幅器を利用していることに着目すると、 必要な増幅器の個数が18個(=13+5)で済みます。また、この増幅器の共用化は素子ばらつきによる利得制御精度の劣化を防ぐことが可能です。

2. 上記利得制御方式を実現する、低消費電力化が可能な回路構成

記利得制御方式をCMOS回路で実現するため、その18個の6dBステップ増幅器は電圧電流変換器と抵抗減衰器を組み合わせて構成しました。

RF信号処理において、素子や配線の寄生容量が利得損失の一要因になるため、6dBステップ増幅器の構成に注意を払う必要があります。また、RF ICは、高利得時は大電流を必要としますが、低利得時は消費電力削減のため、低消費電流化が求められます。

これら2つの課題を解決するため、以下の2つの構成を併用しました。

(1) RF帯でも高精度6dBステップ電圧減衰が実現可能なR-2R抵抗ラダー減衰器を採用。

(2) 低利得時の低消費電流化のため、上位4個の6dBステップ増幅器は、同一の電圧電流変換器を8、4、2、1個と並列接続。

 これらの構成方式を採用することにより、増幅器1段で可変範囲78dB、利得制御精度0.27dBを達成し、低利得時の低消費電流化も可能となりました。

 本技術は、今後のSAWフィルターレス対応のマルチモードRF ICの実現に貢献する技術として期待できます。

 なお、当社は今回の成果を、6月16日から18日まで、米国ホノルルで開催される学会「VLSI回路シンポジウム(2010 Symposium on VLSI Circuits)」にて、現地時間の17日に発表しました。

以 上

(注1) W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access): 標準化団体3GPP(The 3rd Generation Partnership Project)により規格された携帯電話の第3世代通信規格の一つ。

(注2) LTE(Long Term Evolution):3GPPで規格化が進められている次世代携帯高速データ通信規格。

(注3) 送信雑音:RF IC内の送信回路から出力された受信帯域の雑音。

(注4) SAW(Surface Acoustic Wave)フィルター:表面弾性波フィルター。圧電体基板上の櫛形電極を希望波長分だけ間隔を空け、希望周波数のみ通過させるフィルターのこと。

(注5) GSM(Global System for Mobile Communications):第二世代携帯電話に使用される通信規格の一つ。

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