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Sailesh Chittipeddi
Sailesh Chittipeddi
執行役員常務 兼 Head of Operations
掲載: 2024年2月3日

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、概念的な段階から半導体業界に変革をもたらすものへと急速に進化しています。半導体開発にAIを活用することによって、この変革が加速していることは間違いありませんが、さらに2つトレンドも考慮すべきでしょう。1つは、ムーアの法則がトランジスタのスケーリングからシステムレベルのスケーリングに移行したこと、もう1つは、新型コロナの流行によって世界の電子機器サプライチェーンが再編成されたことです。

私は今月初め、カリフォルニア州ハーフムーンベイで開催されたIndustry Strategy Symposium 2024で、このテーマについて講演しました。このシンポジウムでは、半導体業界のリーダが毎年集まり、技術やトレンドに関する洞察と、それらが私たちのビジネスにどのような意味を持つのかについて意見を交換します。

1970年代初頭から2005年頃までの間、半導体の性能向上は、リソグラフィ、トランジスタ密度、エネルギ効率の進歩によるクロック周波数の高速化によってもたらされてきました。トランジスタ数(およびダイサイズ)の増加に伴い、クロック周波数はトランジスタの性能ではなく、相互接続の遅延によって制限されるようになりました。この課題を克服するため、低エネルギでシステム性能を向上させることができるマルチコア設計に移行しました。チップレットやマルチチップモジュールなどの新しいパッケージング技術は、特にAIチップ増設などによるシステム性能の向上をもたらしています。

1つのパッケージは、高性能ロジック、AIアクセラレータ、高帯域幅DDRメモリ、高速ペリフェラルなどの特定機能を搭載した複数のチップで構成されることがあります。これらのコンポーネントは、それぞれ異なる工場から調達されることが多いため、グローバルなサプライチェーンは複雑なものになります。複数のファブで生産されたダイを1つのパッケージやシステムに統合し、それを徹底的にテストしなければならないからです。この段階でテストに失敗すると、開発費に莫大な影響をもたらします。これらの課題解決には、製品開発における「シフトシフト」の考え方を適用する必要があります。シフトレフトの考え方は、アーキテクチャの設計よりも最終的なシステムテストや品質へ重点を移すことによって、サプライチェーンをどのように管理すべきかに大きな影響を及ぼします。

新型コロナにって浮き彫りとなったサプライチェーンの課題は、サプライチェーンをより分散化する動きにつながりました。現在進行中の変化の大きさを説明するために、2022年から2024年12月までの間に、世界中で93のウエハファブの建設が始まったことを考えてみてください。後工程のテスト工場は2021年だけで、世界中に484工場が着工しました。これは、半導体業界が生産のレジリエンス(弾力性)を推進するためにどれほど尽力しているかを示す指標となります。

半導体設計・製造におけるAIの役割

では、AIはどこに登場するのでしょうか。

AIが影響力を発揮する重要な分野は、分析モデルから予測モデルへの移行です。今日、私たちは問題が発生すると、過去のデータをさかのぼって問題の根本原因を特定し、再発を防止しています。このアプローチは非効率で、サプライチェーン全体に渡って時間、コスト、不確実性、無駄をもたらします。一方AIを活用すると、現在のデータを調べて将来の結果を予測することができます。

スプレッドシートを使って古いデータを分析する代わりに、AIモデルを構築し、生産エンジニアが新しいデータで継続的にAIモデルをトレーニングします。この「新しい」データとは、もはや単なる数値や測定値の集合ではなく、金型写真、設備ノイズ、時系列センサデータ、ビデオなどの非構造化データを含み、より良い予測を行うためのものです。

最終的には、データの海から実用的な情報を引き出すためのものです。言い換えれば、アクションのないデータはほとんど役に立たないということです。なぜ私がこの点を強調するのかといえば、なぜなら今日、企業が作成したデータの90%は利用されることがないからです。それは価値があるかもしれないけれど、分析できなかったダークデータです。また、AIの導入について考えてみると、プログラムの複雑さが適切にスコープされていないため、その46パーセントがパイロットから本番稼動に至らないのです。

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Digital Transformation Analysis to Prediction

こうした課題にもかかわらず、機器メーカはすでに製品開発プロセスにDXの手法を導入し始めています。そのメリットは明らかです。ボストンコンサルティンググループの調査によると、サプライチェーンやデザインチェーンにレジリエンスを築いた企業は、DXをまだ導入していない企業に比べ、コロナ関連の不況から2倍の速さで回復したことがわかりました。

ルネサスは、マイコンやMPU(マイクロプロセッサ)上で動作するコンパクトな機械学習モデルを生成するReality AI という会社を買収しました。そのソフトウェアやツールは、機器の故障など問題を引き起こす可能性のある異常なパターンを迅速に検出することができます。この予知保全により、生産設備の保守のスケジュールをあらかじめ立てたり、突然の設備故障に伴うダウンタイムを最小限に抑えることができます。

DXが業界の未来を支える

AIによるDXは、今日のビジネス成功の鍵となっています。半導体業界がシステムレベルの設計を取り入れ、変化するグローバルサプライチェーンに適応するという大きな進化を遂げる中、DXとシフトレフトは、2つの面で成果をもたらすでしょう。

1つは、最適化されたツールと設計プロセスによる生産性の向上です。問題が発生しやすい所ほど、より迅速に学習し、より迅速に修正することができるようになります。

2つ目は、おそらく最も重要なことですが、DXは、業界が抱えるチップ設計の最大の問題のひとつ、人材不足を解決します。チップの設計にかかる時間を短縮することで、エンジニアの効率は格段に向上します。これは、半導体業界の年齢層が高齢化するにつれ、ますます重要になっています。

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