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Jonpaul S. Jandu
Jonpaul S. Jandu
Senior Marketing Manager
掲載: 2021年7月13日

オートモーティブ・ハイディフィニション・リンク(AHL)はカメラの高解像度ビデオをECUに伝送するコストを削減するように設計された新たなビデオ伝送テクノロジーです。 過去数年間にわたって、リアビューカメラは世界中のほとんどの車両に搭載される標準装備となっています。 ドライバーが車両の後方視界を拡大するメリットを理解するにつれてOEMはその機能を強化して、車両の周囲全体を表示できるようにさせたいと考えています。 これらのサラウンドビューシステムは大人気の高い駐車支援機能となっており、通常、車両のすぐ周囲の完全な360°ビューを提供するために配置された4台以上のカメラから構成されます。

良好なサラウンドビュー画像を提供するためにより高い解像度のカメラが必要なため、サラウンドビューシステムは、主に高価格帯の車で使われています。高精細度(HD)カメラシステムのコストは主に、非圧縮デジタルビデオ伝送を促進するために必要なケーブルとコネクタが高価であることが理由で、従来の標準解像度(SD)カメラシステムよりも30~40%高くなっています。AHLは非シールドツイストペア(UTP)や従来のワイヤハーネスコネクタなどの安価なケーブルとコネクタを使用できます。

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Cable and Connector Images -  UTP (top), Typical Wire Harness Connectors (bottom)

図1:ケーブルとコネクタの画像 - UTP(上)、標準のワイヤハーネスコネクタ(下)

費用対効果の高い車載カメラの実装を容易にするために、ルネサスは現在のアプリケーションで求められる画質と高解像度を提供するとともに、低コストのインフラをアナログSDカメラシステムで活用する技術を開発しました。AHLは昔ながらのCVBSアナログビデオ送信と同様の方法で、変調されたアナログ信号としてHDビデオを送信します。AHLは40MHzに満たない周波数でHDビデオを送信するのに対して、非圧縮デジタルビデオ伝送シリアライザのリンクは1.5GHz以上の周波数を使用します。これら高周波数のデジタル伝送は強化したシールドケーブルと、非常に厳密なインピーダンスマッチングの要件がある専用のハイエンドで高価なコネクタを使用する必要があります。OEMはこれらのデジタルシリアライザリンクコネクタは車両の位置によって経年劣化が異なる可能性があり、その結果、各コネクタのインピーダンス特性に変わり、コネクタ間の不一致が発生する可能性があることが分かりました。これが起きると、ビデオ伝送機能しなくなり、再度インピーダンス整合を取るために、ケーブル配線につながるすべてのコネクタの交換が必要になります。

もう一方のデジタル伝送は伝送帯域幅を減らすためにビデオ圧縮を使用しますが、この方法はカメラの処理能力を追加する必要があるため、コストがかかり、消費電力やカメラモジュール自体のサイズが増加します。さらに重要なことには、ビデオ圧縮はビデオ伝送に数フレームの遅延を発生させます。これは自宅で映画を見ている際には問題になりませんが、自動車市場ではわずかな遅延でも、運転用アプリケーションではリスクになります。

アナログビデオ伝送には遅延がなく、伝送帯域幅が比較的低いため、デジタルリンクよりも大幅に簡素化され、ケーブルやコネクタ要件も安価になります。AHLを実装する際、OEMには既存のSDアナログケーブルとコネクタのインフラを再利用するオプションがあります。RAA279972 AHLビデオデコーダは従来の NTSC標準解像度ビデオをデコードできるので、OEMはベーストリムのオプションがあるSDカメラシステムを提供できる柔軟性があります。顧客がプレミアムトリムにアップグレードするとしても、HDカメラシステムはカメラモジュールをVGA解像度センサから、カメラモジュールに内蔵されたRAA279971 AHLエンコーダ付きのHDセンサに変更するだけです。ビデオを受信するECUのケーブルとコネクタ、ハードウェアは変わりません。これは、OEMが既存のインフラへの変更を最小限に抑えたアップグレード方法を顧客に提供するためのシームレスで費用対効果の高い方法です。ルネサスはHDビデオカメラシステムを実装するコストを削減することで、エコノミーモデルを含む、幅広い車両へのHDビデオ採用拡大を加速させることに貢献します。

AHLは駐車支援カメラシステムの信頼性と機能性を向上させる独自の機能を持っています。そのひとつがフルタイムの双方向制御チャネルで、ビデオデータから独立していますが、ビデオデータと同じケーブルを使用します。この制御チャネルは動作するために画像表示を必要としないので、システムは起動時にECUからカメラをプログラムし、初期化するように設定することができます。また、動作中にカメラを監視し、照明条件の変化や過熱防止のために、カメラ設定を即座に変更する目的ににも使用できます。AHLには画質を最大化するイメージエンハンサ機能が内蔵されており、バッテリ短絡やグランド短絡、信号の損失を検出し、伝送品質を測定する診断機能も備えています。

AHLで伝送されたビデオコンテンツのデモンストレーションでは顧客はデジタル伝送されたビデオとAHLビデオとの違いを見分けることができませんでした。ルネサスはAHLビデオを高度な物体認識ソフトウェアを通して実行することで、デジタル伝送との比較を行いました。デジタルビデオコンテンツを比較した結果は、コンピューター認識アルゴリズムのパフォーマンスで、AHLビデオの検出と認識精度において、デジタル伝送とは+/1%程度の差であることがわかりました。

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Advanced Object Detection and Recognition Video Comparison between AHL and Digital Transmission

図2:AHLビデオとデジタル伝送ビデオとの高度な物体検出・認識ビデオ比較

AHLはRAA279971の入力として、RAA279972の出力としてMIPI-CSI2、DVP、およびBT.656インターフェースに対応します。 複数のインラインコネクタと30メートルまでの距離で、優れたビデオ画質を伝送します。 ルネサスは、ご要望に応じて使いやすい評価ボード、アプリケーションノート、ICサンプルを提供しております。

詳細については、RAA279971エンコーダのウェブサイト、RAA279972デコーダのウェブサイトをご覧ください。

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