画像
Yusuke Kawasaki
Senior Manager
掲載: 2021年2月25日

現在生活の基礎となる衣食住すべてに変革が起きており、中でも最大の変革はオフライン中心からオンライン中心へのインフラ革命といえるだろう。企業によってはオンライン化の流れに乗じてビジネス拡大を模索する動きもみられるが、コンテンツをただWEBに置いただけで顧客数が倍増することはない。オンライン化対応に欠かせないデジタルトランスフォーメーションの成否が企業の今後を左右すると言っても過言ではない状況となっている。コロナ禍において個人の行動が制限される中、eコマースが活性化しロジスティクス企業に注目が集まっているが、これらの業界でもクラウド活用による QCD管理の効率向上や持続可能な新ビジネスモデルの創出などが出来なければ骨太経営は難しく、自社の貴重な経営資源を食い潰してしまうことにもなりかねない。

一方でオンライン化の加速によってセキュリティリスクは急拡大しており、この問題への対応を誤ると情報漏洩やプライバシー問題を誘発して結果として企業価値を下げることにもなりかねない。このため企業のオンライン化対応においては [SDGs(Sustainable Development Goals)-Goal9] にも適合した使い勝手が良く堅牢性の高いプラットフォームの構築が課題となっている。これをビジネスチャンスと捉え自社ビジネスを拡大していくには、自社のコア・コンピタンスを確立した上でITベンダとのコラボ―レーションにより最先端のソフトウエアプラットフォーム(エッジ/クラウド連携、クロスプラットフォーム対応 など)の導入を加速していく必要がある。

近い将来、スマホが車になるのか?

自動車業界には依然としてコンサバティブな開発スタイルが残っており、最先端のソフトウエアプラットフォームを動かすために必要なアジャイル型の開発モデルの導入やDevOpsの実現にはいくつかの壁がある。その背景には自動車メーカー(=OEM)を頂点とする Tier 型の産業構造のもと機器間のインターフェースやデータ定義には各自動車メーカーが独自に決めたものが採用されている。結果として現代のIT業界標準とは別のガラパゴス仕様が流通しているという事情がある。また車載システムでは機能安全・セキュリティ・リアルタイム応答性等を考慮する必要があり、標準化された汎用IF・アルゴリズムそのままでは車載要件を満足できないという制約もある。とはいえ車両設計・開発における部品の共通化は競争力確保のための至上命題であり、既にハードウェアにおいては車両共通プラットフォームの導入が進んでいる。この結果競争領域はよりユーザーエクスペリエンスに近い領域に向かっており、スマホと同じようにハードウェア・アグノースティックなソリューション提供が求められるようになっている。

アプリ開発やサービス開発等に関わるビジネスプレイヤーにとって一番重要なのはソフトウェアの開発環境である。モビリティにおいては車載要件に適応したデジタルツイン統合環境が求められるが、上述の通り自動車ビジネスはOEMを頂点とする系列ピラミッド型となっており、各社デバイス毎に差別化を進めてきたためOEM横断的に利用できる統合環境構築は難題であった。しかし自動運転への対応やモビリティサービス実現に向け自動車業界でも産業構造変革が起きており、次世代車載ソフトウエアプラットフォームの基盤となる標準化の推進やITベンダ等の新規プレイヤとの協業が始まっている。

クルマの価値変革

自動車業界と ITベンダでモビリティサービスに対する連携が加速している背景としてハードウェアだけで実現できないダイナミックな対応が車載向けにも必要となっていることが挙げられる。デジタル物流システムのIT活用を例にとると、物流業界、特に宅配において深刻なドライバ不足に悩まされている。一方で日本国内消費者の87%は自宅で受け取りたいと言ったデータもあり、その他送料が高い、受け取り時間の幅が短すぎる、再配達の締め切りが早すぎるといったサービスに対する不満は尽きない。その背景に不確実性の高い移動と不在による再配達の問題がある。ナビゲーションで使用する静的情報に加え、気象・人の行動・交通情報等の動的情報があれば、より効率の良い配送が可能となり結果的にコスト削減や配送料の値下げにつながる。こうしたビッグデータを活用したサービス提供はハードウェアだけで実現できない。クラウドと連携可能なソフトウェアが必要で、まさに今車載システムへのIT導入が課題となっている。

持続可能なソフトウェアの開発とモダンなITの導入

これからの車載システムに求められるのは「長期的に継続利用が可能なソフトウェア」の開発と「先端的なIT技術」への対応だろう。ソフトウエアファーストという言葉があるが、設計と開発は表裏一体であり、ソフトウェア設計がシステム開発の中心となりつつある。車も単に堅牢なハードウェアだけではなく、より柔軟に変化に対応できるソフトウェア的な存在に変革しなくてはならない。ただしソフトウェアは問題解決の万能薬ではなく、利用目的への適合性が十分考慮されたハードウェアとの組み合わせでシステムを構築する必要があり、特にパフォーマンス要件を満たすためにはハードウェア的な仕掛け(アクセラレータ)の有効活用が不可欠である。ソフトウェアとハードウェアはまた一心同体なのである。ルネサスのコネクテッドカー戦略では堅牢なハードウェアの特徴を生かしながらモダンなテクノロジーも活用可能な車載向けDevOps環境に対応可能なR-Carの開発環境提供を目指している。またR-Carコンソーシアムというパートナープログラムを通じたエコシステムも活用してお客様に対する技術支援体制を強固なものとしていきたい。鍵になるのはITベンダとのパートナーシップである。

次世代車載プラットフォームはITベンダとの連携が鍵

ルネサスはクラウドの世界と車載の世界をブリッジする役割を担うべく、早期からITベンダと連携し車載要件に適応したシステム環境の整備を進めてきた。クラウド・エッジ間協調に対応した最先端のコネクテッドカー向けアプリの実行環境を短期間で構築できるようITベンダ(アマゾン ウェブ サービス(AWS)やマイクロソフト)とソリューション開発を進めている。ここでは2つの協業事例について紹介したい。

画像
r-car-jp

1)    デジタルツインに適合したAWS連携アプリケーション開発向けシミュレーション環境をアナウンス。

AWSと連携し、車両情報を活用したクラウドサービスを開発できる、R-Car対応「コネクテッドカー用ソフトウェア開発ツール」を開発

IT業界のソフトウェア開発者にとって車載向けアプリケーション開発は困難だった。一方、実車テストでは難しい条件でのアプリケーション開発も必要とされており、ルネサスは、車両データ生成シミュレータ、車両データ管理リファレンス環境、Vehicle APIをパッケージにして、AWSクラウドと接続した。

画像
car-jp

2)    R-Carスタータキットが、マイクロソフトのモビリティ業界向けプラットフォームMicrosoft Connected Vehicle Platform(MCVP)の開発環境として利用可能となったことをアナウンス。

ルネサス、コネクテッドカー開発でマイクロソフトと協業

車両のプロビジョニング、双方向のネットワーク接続、機能の継続的なOTA(Over The Air)アップデートなど、モビリティ関連企業がサービスを迅速に提供できるよう支援するプラットフォームで、クラウド上やパソコン上で開発したソフトウェアをR-Car SoCに搭載し、自動車や各種モビリティの組み込み環境で事前検証することが可能になる。

上記では最新のWebアプリの開発手法を導入しているので車載向けアプリ特有の開発環境に精通していなくてもコネクテッドカー向けのアプリ開発が可能でプログラミングの敷居を低くしていることも特徴である。これら開発環境を活用すれば最新のクラウドサービスとも連携可能なユーザー満足度の高いアプリケーションを短期間で開発して新しいビジネスを立ち上げることが可能となる。

車を含むあらゆる「モノ」がインターネットをはじめとする様々なネットワークを介して様々なデバイスとつながる中で、ルネサスは柔軟なクルマを作ることを目標に、お客様のご要求事項・アイデアを具現化し、パートナー様と共に価値を最大化する為の技術支援を更に強化していく。皆さまのMake Life Easierの実現のために。

この記事をシェアする