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Kaushal Vora
Kaushal Vora
Senior Director
掲載: 2022年4月28日

エンドポイントをよりインテリジェントに

モノのインターネット(IoT)は、デジタルとフィジカルな世界をひとつにすることによって、世界の構造をよりスマートに、そしてよりレスポンシブなものへと変化させています。ここ過去数年間、IoTはさまざまなアプリケーションにおいて急激な成長を見せています。マッキンゼーの調査によると、IoTは2025年までに4〜11兆円の経済効果をもたらすとされています。エッジはさらにインテリジェント化し続け、売り手側はより連携したスマートなエンドポイントデバイスをサポートするよう競争していくのです。

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Endpoint AI

安全なクラウドインフラストラクチャーに守られた、スマートな連携デバイスは、所有コスト、リソースの効率化、柔軟性、利便性などといった多くのメリットをもたらします。しかしながら、デバイスからクラウドへと行ったり来たりしたデータ転送プロセスは、その転送中に追加的レイテンシとプライバシーリスクを引き起こしかねません。一般的に非リアルタイム、低レイテンシ・アプリケーションでは問題とはなりませんが、そのとき発生しているイベントに素早く反応しなくてはならないリアルタイム分析が重要となってくるビジネスにとっては、重大なパフォーマンスのボトルネックとなりかねます。

コミュニケーションを感知すべくリアルタイムデータ分析とインテリジェントマシンを使用することによって、全体のオペレーション、ロジスティクス、サプライチェーンを著しく最適化することができる産業プラントを想定してみてください。産業用センサーやコントロールデバイスから生成されたデータは、工場の操業者にとって特に有益となるでしょう。異常予兆検知によってあらゆる障害を処理し、大きな損失を伴う製造エラーを防ぎ、とりわけ労働現場を安全なものにすることができるようになるからです。

これは、重要なアプリケーションのレイテンシを低減させ、データ漏洩を防ぎ、IoTデバイスによって生成されたデータを効率的に管理するのに役立つであろう、ローカライズされた機械学習の処理と分析の必要性を説いています。そこで、これを達成する唯一の方法が、データ処理の際に集中型クラウドもしくはデータセンターへ送り返すのではなく、データが収集されているところ、つまりエンドポイントにデータ計算をより近づけることになってきます。

高パフォーマンスIoTデバイスとMLの融合は、新しいユースケースとアプリケーションへの扉を開き、AIoTという現象を生みました。AIoT、つまりエッジAIの可能性は無限大です。例えば、会話中のバックグラウンドのノイズを取り除くためにアルゴリズムを活用する補聴器を想像してみてください。同様に、ユーザーのパーソナライズ設定を変更するのに顔や音声認識を使うスマートホームデバイスも考えられます。このようなパーソナライズされた知見、判断、予測は、エンドポイントインテリジェンスもしくはエンドポイントAIと呼ばれる概念によって生じる可能性なのです。

エンドポイントAIとは、AI技術の処理をエッジへと持っていく、人工知能の世界では新たなフロンティアです。デバイス上でローカルに情報管理、関連データの集積、判断ができる画期的な方法になります。エンドポイントAIではネットワークのエッジでインテリジェント機能を使います。言い換えれば、データ計算に使われているIoTデバイスを、AIの特徴を持ち合わせたよりスマートなツールへと変えるのです。そしてこれはリアルタイムの意思決定能力と機能を持たせます。ここでのゴールは、インテリジェントな意思決定に基づいた機械学習を、物理的にデータの大元に近づけることになります。下図のように、これまでのIoTシステムに接続されたクラウドに対して、事前学習型AI/MLモデルは、現在エンドポイントでより高度なシステム効率化を可能にしながら効果的に導入することができます。

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伝統的なIoT vs モノの人工知能

伝統的なIoT vs モノの人工知能

エンドポイントAIは、クラウドサーバーに情報を送ることなく(もしくは、少なくとも情報の送信量を減らして)意志決定を行うため、基本的にローカルなエッジデバイスで実行する機械学習アルゴリズムを使います。

IoTデバイスから収集された膨大な量のリアルタイムデータを前に、インテリジェントな機械学習アルゴリズムはデータから貴重な知見を抽出するのに最も効率的な方法になります。しかしながら、こういった機械学習アルゴリズムは高度な計算力と大容量メモリを必要とするので複雑になり得ます。さらに、巨大なデータセット内でパターンを認識し、正確な判断を行うために必要な時間が極めて長くなる可能性があります。

過去には、マイコンのような制約されたデバイス上に、効率的な機械学習アルゴリズムを採用できるとは想像もできませんでした。しかし現在、TinyML分野における発展によって現実になっているのです。ユーザーがマイコン上で直接MLアルゴリズムの実行を可能にするTinyMLは、多くの組み込み型アプリケーションにとってゲームチェンジャーとなっています。そして、より効率的なエネルギー管理、データ保護、高速な反応速度、AI/MLエンドポイントアルゴリズムに最適化されたフットプリントを実現しています。

さらに、新世代の多目的マイコンは、十分な計算力、インテリジェントな省電力ペリフェラル、さらに最も重要なことに、デバイス内の強制的データプライバシーを可能にする強固なセキュリティエンジンを提供しています。そしてAIoT分野での新アプリケーションに加えて、新たなタイプのデータ処理、レイテンシ、そしてオンライン並びにオフラインで運用できるセキュリティ解決を可能にします。

では、ここからエンドポイントAIのメリットを簡単に見ていきましょう。

必須プライバシー&セキュリティ

さまざまな規制やビジネスのニーズにより、プライバシーとセキュリティが最重要関心ごととなる環境において、効果的なエンドポイントAIの核となるのはデータ収集と分析です。

エンドポイントAIは、根本的にはより安全なものです。データはクラウドに送られるのではなく、まさにエンドポイントで処理されます。エフセキュアのレポートによれば、IoTエンドポイントは「2019年にサイバー攻撃で最もターゲット」にされ、他の研究ではIoTデバイスが月平均5,200件ものサイバー攻撃を受けていると示しています。これらの攻撃はIoTデバイスからクラウドへのデータ転送と移動のせいで生じます。そこで、元の位置から動かさないデータ分析が可能になると、ハッカーたちの攻撃から一層保護することができるのです。

効率的なデータ通信

データの集中型処理には、データをソースから分析される集中ロケーションへ移す必要があります。特に、収集と分析間に潜在的な状況が変化した場合、データ転送に費やされる時間は膨大なものとなり、不正確な結果をもたらすリスクが発生します。
一方でエンドポイントAIは、デバイス、センサー、そしてマシンからのデータをエッジデータセンターあるいはクラウドへ送信するので、決定的な行動を起こすのに かかる時間を大幅に減少させ、転送、処理、そして結果の効率を上昇させます。
そのうちいくつかの処理は、ネットワークトラフィックを減らし、正確性を改善し、コストを削減させる分散型ソース(エッジデバイス)上で行わることもあるでしょう。

待ち時間の最小化

Eコマースサイトが実店舗と同程度のユーザーエクスペリエンスを達成するには、 1,500ミリ秒(1.5秒)のレイテンシが限度です。ユーザーはそのような遅さに耐えることはなくサイトを離れ、結果的に売上の低下を招きます。ここでエンドポイントAIを使うと、収集場所により近づいたデータ転送によってレイテンシが低減されます。これが、ソフトウェア、またハードウェアソリューションがゼロダウンタイムで途切れずに動くことを可能にするのです。

安定性

エンドポイントAIのその他の主なメリットは、安定性です。基本的にクラウドへの依存度が低いので、全体のシステムパフォーマンスを向上させ、データ消失リスクの恐れを減らすことができます。このようにエンドポイントAIは、情報が常に利用可能であることを確実にし、決してエッジを離れることはないため、独立したリアルタイムな意思決定を可能にします。これらの決定は正確でリアルタイムに行われなければなりません。これを実現させる唯一の方法が、エッジでAIを実行することなのです。

オールインワンデバイス

エンドポイントAIは、システムパフォーマンス、機能性、とりわけ安全性を高めるのに役立つマルチモデルAI/MLアーキテクチャを統合させることができます。例えば、音声と画像機能の組み合わせは、ハンズフリーのAI視覚システムなどに特に適しています。スマート監視システムや、ハンズフリービデオ会議システムのようなアプリケーションが使う重要な画像認識タスクのために、音声認識で物体と顔認識を稼働させます。画像認識AIはまた、操作者の動きの監視、重要な操作のコントロール、もしくは数多くの商業的あるいは産業的アプリケーションでのエラーやリスク察知を管理するのにも役立つでしょう。

サステナブルで実行可能なアプローチ

AI並びにML能力と高パフォーマンスのオンデバイス計算の統合は、高度なサステナブルソリューションを発展させる新たな世界を広げています。この統合は、ポータブルでスマートな、エネルギー効率的で、より経済的なデバイスを生み出しています。ここでAIは多岐にわたるアプリケーションの環境的影響を管理するのに活用されるでしょう。例:AIを活用したクリーン分散型エネルギーシステム、精密農業、サステナブルなサプライチェーン、天候、災害予想とその反応に加えた環境的モニタリングなど。

ルネサスは、さまざまなアプリケーションとシステム内でのリファレンスとして、既成のAI/MLソリューションとアプローチの提供に邁進しています。パートナーとともに、ルネサスはハードウェア側並びにソフトウェア側の両方から、包括的で高度に最適化されたAI/MLエンドポイントソリューションをお届けしています。最初の段階から必然なものとして考えられる特性を満たしているものです。

AIが与える影響はクラウド内だけではありません。どこでも、そしてあらゆるものの中でもありうるのです。ローカライズされたオンデバイスのインテリジェンス、レイテンシの低減、データ集約、素早い行動、拡張性などといったものがエンドポイントAIの全てです。そして、この新しいAIフロンティアにおける可能性を無限大にしているのです。
そのため今こそ、開発者、プロダクトマネジャー、そしてビジネスステークホルダーたちは、現実世界の問題を解決し、新しい収益の流れを作り出すであろう、より良いAIoTシステムを構築し、この無限の可能性を利用するときなのです。

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