Egg Design Project人気投票1位プロダクト 『Pnimo』ができるまで

~ アイディア具現化の楽しさと重み、立場の違いで見えたもの ~

2019年3月15日、ルネサス本社にてEgg Design Project 2018の授賞式が行われました。このプロジェクトは、女子美術大学の学生とルネサスの新入社員がチームを組み、1か月半の授業を使ってプロダクトを共同開発するというものです。3年目を迎えた今回は、5チームに分かれてそのアイディアとプロトタイプの完成度を競い合いました。

インターネットでの投票の結果、第1位に輝いたのは水族館音声ガイド「Pnimo」。来場者に今よりももっと水族館を楽しんでもらいたいという思いを、肩に乗せて一緒に館内を巡る相棒という形にした作品です。

Pnimo プニモ

UXデザインで水族館の魅力を引き出す

ルネサスの新入社員たちとデザイナーである女子美術大学の学生たちとの初めての顔合わせでは、今回のプロジェクトで開発するプロダクトに関する学生たちのプレゼンテーションが行われました。Pnimoの最も重要なコンセプトは、一緒に水族館を訪れた人との楽しい時間の共有です。集客を見込めそうな珍しい生き物に展示替えしなくても、UXデザインの力によって元来水族館が持っているエンターテインメント性をさらに引き出し、来場者の興味を高めていこうというアプローチは、ルネサスの新人エンジニアたちにはとても新鮮に感じられました。ただ、学生たちのプレゼンからは作品に対する熱い思いが伝わってきた一方で、技術的な視点から鑑みると水族館を丸ごとプロデュースするかのような壮大な提案に戸惑いもありました。

デザイナーとしての学生たちは、ルネサスの新入社員たちにとって初めての顧客です。まずは顧客が技術的に何を求めているのか要件を引き出し、今回のプロジェクトの場合、プロトタイピングボードGR-LYCHEEを使って実現可能なことを検討し、具体的な製品仕様に落とし込む作業が必要でした。話し合いの最中にも湯水のように湧き出てくる学生たちのアイディアに圧倒されながらも、どうすればそれらをプロダクトに落とし込めるのか、新人エンジニアたちの奮闘が始まりました。

顧客の豊かなイメージをどう柔軟に実現させるか

水族館でPnimoを身につけた来場者が水槽に近づくと、耳に装着したBluetoothイヤホンから魚たちのおしゃべりが聞こえてきます。最初に出された学生たちからの要望は、水槽からの距離が近くなるにつれて再生する音量を徐々に大きくしていきたいというものでした。しかし、今回のプロジェクト内では時間的な制約もあり、距離に応じてアナログ的に音量を調節する機能の実装は困難でした。そこでエンジニアたちは、他の方法で近似した効果を実現するための代替案を出しました。それは再生する魚たちのセリフを文節ごとに細かく区切り、段階的に音声の大きさを変更していくという方法です。疑似的ながらアナログ的に音量が変化しているかのように聞こえるのです。

デザイナーから出された要望に対して、これはできないと言ってしまうのは簡単です。しかし、デザイナーたちが描くPnimoのUXデザインに共感を覚えたことで、より良い実装方法を見つけ出したいというエンジニアたちの気持ちは大きくなっていきました。もちろん、実際に水族館を訪れたユーザーのことを想像するならば、なおさら技術的な理由から機能を削りたくはありませんでした。

実験と検証を繰り返し理想に近づける

introductions

いくつかの実装方法を検討した結果、水槽からの距離に応じて大と小の2パターンの音量で音声データを再生する仕様へと変更することになりました。GR-LYCHEEにはWi-Fiの送受信機能が搭載されていますので、水槽側に設置するサーバとPnimo本体の両方にボードを載せればWi-Fiでデータのやり取りができます。今回は受信したWi-Fiの信号強度を2段階に分け、そこから距離を割り出してボード内のSDカードにあらかじめ入れておいた音声を再生します。

サーバとPnimo本体とのWi-Fiの送受信に関して担当したエンジニア2人はともに開発経験が浅いため、どうすれば再生する音の大きさを変えられるのか見通しすら立ちませんでした。そこで、GR-LYCHEEが持つWi-Fi機能を詳細に調べ上げ、受信したWi-Fiの信号強度を利用すれば再生する音の大きさを変化させられるはずだという考えに至りました。ここからは信号の強さで距離を判別するため、信号強度を計測する日々でした。

たとえ限られた期間の中でもより良い結果を出すためには、あきらめずに実験と検証を繰り返すことが必要です。チームで集まって作業を進めるため、新入社員たちは定期的に女子美術大学を訪れました。その際、水族館の空間を想定して食堂の中を歩きまわって、計測データを集めることもありました。全ての要件を満たすことができるのかという不安を抱えつつ、安定した動作を実現させようと必死にデータの収集を繰り返すエンジニアたちの姿は、学生たちには頼もしく映っていました。そして半月に及ぶ検証実験を繰り返した後、信号強度で音量を変更する仕様がついに決定しました。

異業種間のイメージの共有を助けた100枚のスケッチ

プロジェクトを進めていく中で、エンジニアもデザイナーも異なるバックグラウンドを持つ者同士だからこそ、コミュニケーションとイメージの共有は重要です。チーム全員で話し合うときも、Pnimoを技術的にどういう仕組みで動作させるのか、この機能はなぜ実装するのが難しいのか、といったことをエンジニアたちが言葉で説明しても、初めのうちはデザイナーたちになかなか伝わらないことが多く、歯がゆい思いがありました。Wi-Fi、Bluetooth、ビーコンといった用語についてはもちろん、特に電波や音声といった目に見えない事象を説明する際にも、より時間をかけなければなりませんでした。

エンジニア同士なら数値を示すだけで理解しあえることも、同じ説明の仕方ではデザイナーにとってはただの数字の羅列でしかありません。そこで新入社員たちはデザイナーと情報を共有する際には、数値などのデータから具体的にできることや視覚的にわかるものへと落とし込んで伝えるように心がけました。

デザイナーたちもエンジニアの説明をその場でどんどん絵に描いて視覚化することで、メンバー全員のイメージ共有をスムーズにしてくれました。デザイナーたちによってPnimoの完成までに描かれたスケッチは、合計で100枚にものぼります。エンジニアたちもデザイナーたちも共通言語が少ない相手との相互理解を深める有効な手段を、この共同開発を通して学ぶことができたはずです。

introductions

ウェアラブルデバイスとしてのデザインと機能の両立

introductions

製品の機能が決まると、次に必要なパーツを載せた際のPnimo本体がどのくらいのサイズになるのかを検討しなければなりません。Pnimoはウェアラブルのツールですので、小型軽量であることが必須です。しかし、最初にエンジニアたちが提示した充電式のモバイルバッテリーを搭載するとなるとプロダクト自体が大きくなりすぎてしまって、来場者と一緒に水族館を巡るというデザイナーたちが意図するUXデザインを実現できません。この時点までは、新人エンジニアたちは機能を実装することを第一に考え、あくまでブレッドボード上でつながって正常に動くことが最終地点だと捉えていました。

ここで初めてエンジニアたちは、デザインという制約に正面から向き合うこととなります。デザイナーにとってプロダクトの大きさや形、色、重さ、匂い、感触はどれ一つとして疎かにできない要素であり、その一つ一つがUXを左右する重要な役割を担っているのです。デザイナーからの要求を、性能を落とすことなくクリアできる最適な答えは何なのか、より小型のバッテリーに変更するための試行錯誤が続きました。

苦心の末、デザイン的な制約と正常な動作を共存させるべく、単3乾電池4本が電源として採用されました。ただ、エンジニアとして電力供給の安定性を考えたとき、長時間の使用には不安が残りました。機能とデザインを両立することの難しさを実感させられたぎりぎりの選択でした。

生き物の呼吸を表すLED

毎日チーム全員が集まって作業できるようなスケジュールと環境ではありませんでしたので、お互いの進捗の報告やデザイナーからエンジニアへのデザインに関する要望の受け取りは、ほぼメールで行われました。LEDの搭載についても、デザイナーからこんなふうにしたいというイメージ画像が添付されたメールにて依頼がありました。

Pnimoは、まるで呼吸する生き物であるかのように内蔵LEDを明滅させます。エンジニア同士ならば、光度やRGBなど数値でやり取りするのが正確、かつ迅速であると考えるでしょう。しかし、今回は着々と形になりつつあったPnimoにLEDを取り付け、実際にデザイナーたちと一緒に光り方を確認しながら作業を進めました。作業部屋とその隣の真っ暗な部屋とを何度も行き来して、顧客であるデザイナーが納得いくまで光の色や明滅の速さなどの調整を重ねました。今回のプロダクトに搭載された中では、Wi-Fiの信号強度から距離を判別する機能が最も難易度が高く、実装できたときのエンジニアたちの達成感はひとしおでした。しかし、デザイナーたちの反応はLEDを実装したときの方がはるかに良く、考え方や感じ方の違いを改めて認識させられつつ、心から喜んでくれている様子に安堵しました。

introductions

GR-LYCHEEだからできたこと

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デザイナーたちによる企画から数えて約1カ月半の後、Pnimoはようやくプロトタイプとして日の目を見ました。新人エンジニアたちにとっては、製品開発の工程を一から経験できた濃密な時間でした。今回のプロジェクトでは、がじぇっとるねさすのボードGR-LYCHEEを使用してプロトタイプの開発を行いました。通常、電子工作はボードを用意し、実装したい機能に応じてそれぞれのパーツを選定するところからスタートしなければなりません。その点、GR-LYCHEEは初めから一つのボードに様々な機能がついているので、プロトタイピングに最適です。新人エンジニアたちも今回、1カ月ほどの短い期間でプロトタイプを組み立て、完成させることができました。

GR-LYCHEEは、プロダクトの仕様が決定してからでも十分対応しうる柔軟なボードだと言えます。PnimoではWi-Fi、Bluetoothの無線モジュールと音声データの保存再生という複数の機能が使われましたが、今回のEgg Design Project 2018にエントリーした他のチームも、製品仕様の検討からスタートした自由度の高いプロジェクトの中で、GR-LYCHEEの豊富な機能をうまく活用していました。新人エンジニアたちは使用する機能を工作する手間が省けた分、デザイナーとの交渉により多くの時間を割けましたし、これまで試みたことのない仕様にも挑戦することができました。

全ては相互理解のためのコミュニケーションから始まった

授賞式終了後、デザイナーである女子美術大学の学生たちは口々に、チーム全体でうまくコミュニケーションを取りながら楽しく作業ができたと声を弾ませました。学生たちはルネサスの新入社員との最初の顔合わせのとき、いきなりプロダクトの内容について話し合うのではなく、まずは自己紹介に時間を割きました。短期間でのプロジェクトにおいてチーム内のやり取りを円滑に進めるためには、なるべく早い段階でお互いに打ち解けることが必要だと考えたからです。デザイナーとエンジニアとのコミュニケーションの円滑化により、プロダクトが水族館の来場者にどんな体験をもたらすのかを一緒に想像できたからこそ、Pnimoは完成に至ったのでした。

今回のプロジェクトでは、学生も新入社員も双方の立場や考え方の違いを理解し合って、それぞれの役割を最大限に活かすことができました。参加した学生たちは自らの提案をプロダクトとして具現化する中で、エンジニアとともにアイディアやデザインを共有しながら高め合っていく楽しさを知ったことでしょう。新入社員たちもデザイナーとの交渉を通じ、仕様の検討から完成までプロトタイピングの喜びを味わったことで、エンジニアとして一回り成長できたはずです。

2018年度プロジェクト作品紹介

各作品は、女子美術大学の著作物です。これらにかかる著作権その他の権利はすべて女子美術大学に帰属します。

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