市場も技術も急速に変化する中、3年後のビジネスを想像できるでしょうか。

「IoT大航海時代! 未来を企画するエンジニアに向けた提案書」では、3年後を見据えた企画を実現するためのヒントとなる記事を掲載します。

常識を変えるサーボモータ制御で「自律するM2M」を実現

近年、さまざまな製品で高性能なマイクロコンピュータが求められるようになってきました。その傾向はFA(Factory Automation)分野にも見られ、産業用ロボットや各種工作機械の高速化や高精度化、工場内のリアルタイムネットワークの性能向上、工場全体の管理など、IoT(Internet of Things)/M2M(Machine to Machine)時代に要求されることは増加しています。第2回では、サーボモータ制御においてFPGA, ASIC削減を実現する高性能マイクロコンピュータで何が変わるのか、ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)根木勝彦氏と、ルネサス エレクトロニクスの技術者が応用事例を挙げながらディスカッションした様子を紹介します。

RZ/T1 Inverted Pendulum Demo

ディスカッション参加者

根木 勝彦 氏

ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)
コーディネーター(組み込みシステム開発)

根木 勝彦 氏

小嶋 伸吾 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部 産業第一事業部
産業ネットワークソリューション部 課長

小嶋 伸吾 氏

小川 敏行 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部 産業第一事業部
産業ネットワークソリューション部 技師

小川 敏行 氏

モータ制御のタブーはキャッシュを使うこと

-モータ制御のトレンドをどう捉えていますか。

小嶋: 今、さまざまなアプリケーションでモータが使用されており、その制御の高精度化や高速化が求められています。例えば、冷凍庫などのコンプレッサーの冷媒は代替フロンが全盛ですが、さらに二酸化炭素を液化して回すというアイデアもある。すると高速かつ緻密なモータ制御が必要となり、マイコンに桁違いの性能が必要となります。また、一般のモータでも高性能なマイコンで回転数を上げられれば、モータに使用する鉄や銅を減らせます。これは性能が価値に置き換わる一例でしょう。さらに産業用ロボットでは、生産効率を上げるため常に最高のサーボ性能が求められており、そのためにも高速かつ高性能なマイコンが必要です。

小川: 「500MHzのマイコンがないの?」という声が、3年くらい前から聞こえてきました。しかし、これまでのやり方では2、3年ごとに次の微細化に進むのが精一杯です(微細化が進むと速度が上がる)。500MHz以上というと一般には汎用プロセッサがありますが、汎用プロセッサをサーボモータの制御に用いるとなると、痛い目に遭うのも事実です。汎用プロセッサはキャッシュメモリで平均性能を上げており、そのキャッシュメモリのヒット率によって実行時間が大きく変わってしまいます。サーボモータ制御の場合、キャッシュメモリを使うのはタブーと言われています。

-高性能かつブレのない制御は実現できるのでしょうか。

小嶋: RZ/T1に搭載しているCPUコアであるArm® Cortex®-R4 Processor with FPUは、CPUコアとメモリを直結したTCM(Tightly Coupled Memory)構造を採用することで、キャッシュのヒット率による性能のブレがありません。

小川: TCMの有効性を体験できるものとして、倒立振り子のデモを作ってみました。かなり複雑なリアルタイム制御が必要で、低速のマイコンだと倒れてしまいますし、高速の汎用プロセッサでもキャッシュのミスヒットのため上手くいきません。このデモは、RZ/T1でサーボモータを制御するもので、TCMのオン/オフを切り替えてTCMの効果を目に見えるようにしています。TCMがオフのときに比べ、TCMがオンのときは制御に必要な演算処理の時間が変化しないため非常になめらかに倒立制御ができています

Figure 1. 高速リアルタイム制御を実現するTCM構造

Figure 1. 高速リアルタイム制御を実現するTCM構造

FPGA削減に導くマルチプロトコル対応技術

-第1回でFPGAを扱える技術者が非常に少ないということでしたが、それは何故でしょうか。

根木: FPGAの設計者は構造記述を書いており、そのためには電子工学の知識やタイミング設計などが必要となります。しかも、構造記述は第三者には解読が難しく、よほどドキュメントがしっかりしていないとメンテナンスができません。FPGAの設計者が辞めたので、また初めから設計をやり直したという話をよく聞きます。

小嶋: サーボモータの制御ではエンコーダ部分にFPGAが使われることが多いため、お客様からこの問題が何とかならないかという声を多くいただいていました。サーボモータで正確な位置まで知ろうとするとEnDatやBiSS®、A-Formatなど複雑なエンコーダプロトコルが必要となります。お客様によっては自社でエンコーダを製造せず、外部から購入したり、より上位のロボットメーカなどから使用するエンコーダ付きサーボモータを指定されたりすることがあります。そのためどのエンコーダプロトコルが指定されるか分からないことから、そのプロトコル処理ハードウェアをマイコンに内蔵せずFPGAやASICなどで対応せざるを得ないというのが実情でした。これをFPGAなしでも対応できるようにしたのが、ルネサスの新製品RZ/T1です。

-どのようにFPGA削減を実現しているのでしょうか。

小嶋: RZ/T1をサーボモータの制御に活用したときに、エンコーダと産業用イーサネットという2つのシーンで、他のマイコンでは必要となるFPGAが不要になります。まずエンコーダでは、コンフィグレーションファイルを変える事により複数のプロトコルに対応できる「マルチプロトコル・エンコーダインタフェース」を内蔵しました。これにより、EnDatやBiSS®、A-Formatなど複雑なプロトコルにFPGAなしで対応できます。

小川: さらに産業用イーサネットについては、マルチプロトコルの産業用イーサネットに対応できるR-IN(アールイン)エンジンを内蔵しました。産業用イーサネットにはいくつかプロトコルがあり、一般的には外付けのFPGAや通信ASSPなどで対応しています。RZ/T1はルネサスの産業用イーサネットエンジンであるR-INエンジンを内蔵することで、追加のLSIなしでもEtherCAT®をはじめ、EthterNet/IP(TM)、PROFINETなど、マルチプロトコルの産業用イーサネットに対応できています。

Figure 2. サーボ制御の1チップソリューション

Figure 2. サーボ制御の1チップソリューション

小嶋 伸吾 氏

「マルチプロトコル・エンコーダインタフェース」を内蔵しました。これにより、EnDatやBiSS®など複雑なプロトコルにFPGAなしで対応できます。

各プロトコル向けのマニュアルダウンロードはこちらから(ダウンロードにはMy Renesas認証が必要です)

自律するM2Mを支えるRZ/T1

小川: 最近のACサーボアンプのニーズとして小型化があります。FPGAは消費電力が高く発熱が大きいため、高性能なマイコンとFPGAを小さな基板に搭載すると熱設計が難しくなり、いずれはFPGAが使いたくても使えなくなってしまうでしょう。また、今後のRZ/T1の展開として、エンコーダ2チャンネル内蔵版を考えています。それを用いることで、最近出てきているサーボモータの多軸対応アンプでも2軸を1チップで制御でき、大きなコストダウンを図れます。

小嶋: これまでのマイコンでIoT/M2Mにまで対応しようとすると、通信という余計な負荷がかかってしまうため外付けのLSIが必要でした。RZ/T1の高性能なプロセッサと通信専用のR-INエンジンによって、これまで捨てられていた何テラバイトものセンサデータを活かして、工場全体の効率改善や不良の低減を図れる時代になりつつあります。それがルネサスの考える「自律するM2M」であり、それを支えるデバイスがRZ/T1です。

小川: RZ/T1は統合開発環境として、Arm®のDS-5、IARシステムズのEmbedded Workbench® for Arm®、ルネサスのe2studioに加え、デバッガ、ICEとしては、京都マイクロコンピュータ、横河ディジタルコンピュータ、ビットラン、コンピューテックスの各種ツールが対応しています。評価ボードは、ルネサス製に加え、アルファプロジェクト製があります。ルネサス製の評価ボードに対するサンプルプログラムは、ホームページから無償でダウンロードできます。他に3社ほど声を掛けており、今後はモータを付けた評価キットも考えています。このように開発環境が充実しているのもRZ/T1のメリットです。

根木: 私はRZ/T1は日本の製造業の“救世主”だと思っています。IoT/M2M時代に求められることはどんどん増えます。RZ/T1はMCUでもないMPUでもない新しいジャンルのマイクロコンピュータとして、日本の電子産業を活性化させると期待しています。

開発裏話: 「RZ」という2文字がコミットメント

RZ/T1は、500MHzが限界という開発側を説得し、先端開発部門と徹底的に膝詰めでやり合って、600MHzを目標に開発しました。キャッシュメモリに頼らずリアルタイム制御ができる構造のまま600MHzまで突き抜けたので、比べるものがない突出した存在になっています。ここまで違う性能になると、これまでハードウェアでしかできなかった機能がソフトウェアで実現できるようになります。一つの破壊的イノベーションを実現したと言えるかもしれません。

さらに「RZ」という名前は、ルネサスの他のマイクロコンピュータと同じで初めに「R」を付けています。RZという2文字が、継続してラインアップを充実させていくという、ルネサスとしてのコミットメントです。サポートもしっかり行い、10年20年と安心して使って頂きたいという思いが込められたネーミングなのです。

Figure3. イノベーションのための突き抜けた性能向上

Figure 3. イノベーションのための突き抜けた性能向上

関連リンク

アプリケーションノート&サンプルコード

RZ/T1の「マルチプロトコル・エンコーダインタフェース」と「R-INエンジン」を使ったネットワーク通信のアプケーションノートとサンプルコードを公開中です。

サーボモータ制御

高精度サーボを実現するアブソリュートエンコーダソリューション

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R-INエンジンを利用した、産業ネットワークソリューション