市場も技術も急速に変化する中、3年後のビジネスを想像できるでしょうか。

「IoT大航海時代! 未来を企画するエンジニアに向けた提案書」では、3年後を見据えた企画を実現するためのヒントとなる記事を掲載します。

FAに変革をもたらすリアルタイムM2M: 求められる破壊的イノベーション

FA(Factory Automation)の現場では、各種生産機器やセンサなどがネットワークで接続され、インターネットからクラウドへとつながり、ビッグデータとして効率化や不良の予見などに活用されようとしています。

第1回はIoT/M2Mについて、ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)根木勝彦氏と、ルネサス エレクトロニクスの技術者がディスカッションした様子を紹介します。

ディスカッション参加者

ディスカッション参加者

根木 勝彦 氏

ユビキタスコンピューティングサロン(UCサロン)
コーディネーター(組み込みシステム開発)

根木 勝彦 氏

小嶋 伸吾 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部 産業第一事業部
産業ネットワークソリューション部 課長

小嶋 伸吾 氏

小川 敏行 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部 産業第一事業部
産業ネットワークソリューション部 技師

小川 敏行 氏

IoT/M2M活用で工場の効率をいかに上げられるか

-IoT/M2MがFAにどういった影響を及ぼすのでしょうか。

根木: FAは、今大きな変革点にきています。かつては各機器が単独で動いていればよかった時代がありました。ネットワーク時代になっても、装置や工場のなかのネットワークまでを考えればよかったのです。産業用ネットワークが普及してきた現在、もっと上位のコンピュータにつながり、さらにインターネットへ出ていって、クラウドにつながるIoT/M2Mの世界へと広がってきています。IoT/M2M時代になったことで、産業機器メーカーのニーズはより複雑化し、多様化しています。

-IoT/M2Mの活用例を教えてください。

根木: 例えば、大きい産業用モータは壊れると大変なことになります。故障を見にいったとき、変なデータが記録されていたことが初めて分かるのではなく、ネットワークにつなぐことでリアルタイムに監視できるというのが今のIoT/M2Mの一例です。

小嶋: 現在、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)は工場内の無数のセンサやモータなどからのデータを高精度に収集し解析することで、工場の効率をいかに上げられるかという実験を行っています。これもIoT/M2Mのよい例だと思います。

FPGA/ASICなしでモータを制御

-FAの現場にはモータは欠かせませんよね。

根木: その通りで、FAの現場では多くのモータやセンサが使用されています。ここで、産業用ロボットなどでよく使われるサーボモータの制御について取り上げてみましょう。サーボモータ制御で使われるマイコンは回転速度などの制御を行いますが、正確な位置決めのためのロータリーエンコーダからのフィードバックも必要です。ユーザからサーボモータを指定される場合も多く、そういったケースではどのようなエンコーダ・プロトコルが使用されるか分かりません。このため、ほとんどのお客様はマイコン以外にFPGAやASICを使用しています。ところが、このFPGAを扱える技術者が極めて少ないのです。

小嶋: 我々もお客様から「FPGAを扱えるエンジニアは限られ、技術の継承という点でも課題がある」との多くの声をいただいていました。そこでFPGAやASICを使わなくて済むようにならないかと、検討を重ねていました。それらFPGAやASICなしでもサーボモータを制御できるのが、ルネサスの新製品RZ/T1です。RZ/T1は、CPUコアにArm® Cortex®-R4 Processor with FPUを搭載し、最大600MHzで動作する高い性能を発揮します。この性能はこれまでの産業向けハイエンドマイコンの2倍以上のリアルタイム性能を有しています。

根木: IoT/M2M時代には従来のマイコンでは性能が足りません。仮に汎用プロセッサをサーボモータ制御に使うと、キャッシュミスヒットによる実行時間の変動がつきもので、リアルタイム性を実現するのは難しいですね。

小嶋: さらに、RZ/T1はエンコーダインタフェースも内蔵しています。この部分はサーボモータ特性に応じた変更が多いため、多くのお客様ではFPGAやASICを用いています。RZ/T1はマルチプロトコルのエンコーダインタフェースを内蔵しており、外付けのFPGAやASICが不要となるのです。

根木 勝彦 氏

サーボモータ制御にはFPGAやASICが使われることが多いのですが、 これを扱える技術者は極めて少ないのです

小嶋 伸吾 氏

我々はFPGAやASICを使わなくて済むよう検討を重ね、エンコーダインタフェースを内蔵することでその問題を解決しました

IoT/M2Mを実現できるマイコンがなかった

根木: 話は少しさかのぼりますが、インターネットによる常時接続が普及し始めた2000年頃から、その先にIoT/M2Mがあるのは明白でした。しかし、当時の家電を制御するためのマイコンでは力不足で、モジュールやボードによって対応していました。IoT/M2M時代になると、今度はシングルチップマイコンでネットワークにつなげないかというニーズが出てきました。しかし、高性能なチップは少量では入手が難しく、少量でも使いたいとなると汎用プロセッサしか選択肢がありません。汎用プロセッサは、外付けの高速DRAMが必要で基板設計が大変です。一方シングルチップマイコンでは処理能力が足りません。結局、IoT/M2Mに適切なマイコンが少ないという状況が続いてきたのです。

小嶋: ルネサスのRZファミリは、組み込みシステムの性能分布図におけるブランクを埋めるという意味でも、新たな存在です。これまでの歴史でいうと、数KBのRAM容量しかなかったマイコンでは考えもしなかった画像処理などのアプリケーションが、RZファミリの第一弾RZ/A1のように数MBのRAMを搭載することにより実現できるようになりました。

小川: RZ/T1はさらに、CPUコアとメモリを直結したTCM(Tightly Coupled Memory)構造を採用し、性能とリアルタイム性を両立させています。また、産業用イーサネットが普及しているなか、ルネサスの産業イーサネット通信用アクセラレータであるR-IN(アールイン)エンジンを内蔵し、追加のLSIなしでもマルチプロトコルの産業用イーサネットに対応できます。

Figure. Gap in embedded system performance distribution map

Gap in embedded system performance distribution map

柔軟なハードがイノベーションを起こす

Gap in embedded system performance distribution map explanation

根木: IoT/M2M時代に産業機器メーカーの多様なニーズに応えるには、多種多様な周辺回路を開発しなければなりません。汎用プロセッサをサーボモータ制御に使えない状況のなかで、いかに開発をスピードアップするかが課題になっています。FPGAやASICが不要となり、開発に柔軟性をもたらせることは極めて大きな意味を持ちます。この柔軟性が、サーボモータの制御やFAに破壊的イノベーション*1を起こすことになるでしょう。

*1 「破壊的イノベーション」とは? 産業用システムに求められる破壊的イノベーションの解説はこちら

コラム「柔軟性がもたらす破壊的イノベーション」

次回は、これからのFAに欠かせないモータ制御について、制御法の新コンセプトを紹介します。開発現場の裏話も合わせて掲載予定です。ご期待ください。

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柔軟性がもたらす破壊的イノベーション

デジタル機器の設計は、当初フルロジックで実現していました。しかし、フルロジックは性能が高いものの柔軟性に乏しい。その欠点を解消したのがストアードプログラム方式で柔軟性を獲得していたコンピュータを機器に組み込み、コントローラとして活用する、いわゆる「組み込み」という設計・開発の作法だ。さらにボードや筐体のまま組み込んでいたコンピュータに対して、当時の半導体のワンチップで収まるまで性能や機能を限定したマイコンが誕生する。これにより「性能は犠牲になるが、安くて小さくて信頼性が高くて部品として扱える」というこれまでにない素晴らしい特性を獲得したのでした。これがデジタル機器の開発に「破壊的イノベーション」をもたらしました。

破壊的イノベーションは、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した概念です。従来の価値観では一時的に性能や機能が低くなり「何だそんなもの」と見えてしまうが、次の時代のニーズを捉えた別の優れた特性を持っている。従来からの主流製品を持続的に開発している人には、犠牲になる性能は明確に理解できますが、新たに獲得する特性は潜在ニーズなのでピンとこない場合が多いです。

これからのIoT/M2M時代には、産業機器メーカーのニーズがより複雑化/多様化していくでしょう。こういったニーズに応える多種多様な周辺回路を開発する工数を確保するのは困難でありながら、開発のスピードアップが求められるという相反するニーズに応える必要があります。ルネサスのRZ/T1は、コンフィグレーションファイルを変えるだけで機能変更できます。つまり、かつて「破壊的イノベーション」を起こした「柔軟性」という共通の優れた特徴を持っているのです。