スイッチの「新しいカタチ」を創造する

ルネサスのタッチキーソリューション

ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)が2015年前半に製品化した「静電容量式タッチキーソリューション」。これがスイッチの「新しいカタチ」を切り拓こうとしている。特徴は、感度とノイズ耐性が高いこと。さらに、耐水性も優れる。こうした高い性能を生かし、従来から使われているデジタル家電や白物家電に加えて、住設機器や産業機器などの市場開拓を目指す。
ルネサスは現在、岡山県のEMS企業であるタカヤと共同で、タッチキーソリューションの用途開発に取り組んでいる。共同開発に着手した経緯や、開発中の新しいソリューション、将来の可能性などについて聞いた。(聞き手:山下勝己=技術ジャーナリスト)。

タカヤ株式会社
EMS事業本部 営業部 部長
奥井 輝紀 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部
産業第一事業部 
家電ソリューション部 エキスパート
梶原 政仁 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
第二ソリューション事業本部
汎用第一事業部 
新興国ソリューション部
栗原 渉 氏

ルネサス エレクトロニクス株式会社
グローバル・セールス・マーケティング本部
日系営業統括部 西日本営業第三部
第二課 エキスパート
福原 拓 氏

ルネサスの「タッチキーソリューション」は、IPコアとして同社のマイコンに集積されている。このマイコンに、簡単な電極を組み合わせるだけでタッチキーを実現できる。特徴は大きく3つある(図1)。1つは、感度が高いうえに、ノイズ耐性も極めて高いこと。もう1つは、自己容量方式とともに相互容量方式にも対応していることだ。こうした特徴を備えているため、従来にはない使い方が可能になる。例えば、オーバーレイ材に木材が使えたり、水が付着した状態でもタッチを検出できたり、さまざまな形状のスイッチに対応できたりする。つまり、アイデア次第で多種多様なスイッチを実現できるわけだ。

図1 ルネサスが開発した「タッチキーソリューション」のメリット

なぜ、タカヤがタッチキーソリューションに興味を持ったのか。

奥井 日本のEMSは厳しい状況にある。電子機器の組み立てだけでは、コスト競争に巻き込まれる。コスト競争では、中国などの海外企業には勝てない。コスト競争から脱するには付加価値が不可欠であり、それにはソリューションの提案が必要だと考えている。
当社はすでに、Sub-GHzや2.4GHzの周波数帯域を利用した無線モジュールを製品化している。無線モジュールをコアとしたソリューションを提案することで、それを搭載する電子機器/システムの設計や製造といった仕事までを請け負う戦略だ。
そうした状況の中、ルネサスからタッチキーソリューションの売り込みがあった。一目で「良いソリューションだなぁ」と感じた。これまでのスイッチは顧客から“クリック感”を求められていた。しかし、スマートフォンの普及が引き金となり、顧客にもタッチキーが受け入れられてきている。そこで当社の顧客に紹介することにしたわけだ。

福原 最初にタカヤを訪問したのは、2015年2月のことだ。そこでタッチキーソリューションを紹介し、「新しい顧客を一緒に開拓しましょう」と提案した。その後は、トントン拍子で話が進み、すぐに顧客企業と会合の場がセッティングされたことを覚えている。

新しいスイッチを実現できる

-どういった顧客に紹介したのか。

奥井 まずは、無線モジュールのユーザーに紹介した。具体的には、無線通信プロトコル「DALI」を使った照明制御を手がけているユーザーだ。とにかく反応が良かった。このユーザーは、1つのボタンでオン/オフするありきたりのメカニカル・スイッチではなく、新しいスイッチを求めていたからだ。 ルネサスのタッチキーソリューションを使えば、指でなぞって明るさをアナログ的に調整するスライダー形状やホイール形状のスイッチを実現できる。木のオーバーレイ材を用いれば、スイッチに「優しさ」を付加できる。このほか、スイッチとアクリル板の間にわずかな隙間を設けて、そこに入れる紙を替えるだけでビルの異なるフロアに1種類のスイッチで対応できるようになる。こうしたスイッチが実現できるのは、いずれも感度とノイズ耐性が極めて高いからだ。

-どういった顧客に紹介したのか。

奥井 まずは、無線モジュールのユーザーに紹介した。具体的には、無線通信プロトコル「DALI」を使った照明制御を手がけているユーザーだ。とにかく反応が良かった。このユーザーは、1つのボタンでオン/オフするありきたりのメカニカル・スイッチではなく、新しいスイッチを求めていたからだ。 ルネサスのタッチキーソリューションを使えば、指でなぞって明るさをアナログ的に調整するスライダー形状やホイール形状のスイッチを実現できる。木のオーバーレイ材を用いれば、スイッチに「優しさ」を付加できる。このほか、スイッチとアクリル板の間にわずかな隙間を設けて、そこに入れる紙を替えるだけでビルの異なるフロアに1種類のスイッチで対応できるようになる。こうしたスイッチが実現できるのは、いずれも感度とノイズ耐性が極めて高いからだ。

-なぜルネサスは、タカヤをパートナーに選んだのか。

栗原 デジタル家電や高級な白物家電以外の新しい用途を開拓したかったからだ。それには当社の持っている既存の営業ネットワークだけに頼るのではなく、外部企業の力を借りる方が得策だ。そこでさまざまな企業に声を掛けた。その中で、最も早く反応が返ってきたのがタカヤだった。すぐに、開発キットを持って行った。
そうしたらタカヤは、顧客に対する営業ツールに使うデモセットを、わずか数週間と短い期間で開発し、2015年5月に開催された展示会に出品したのだ。これには驚いた。当社はほとんどサポートしていない。サポートと言えば、質問に答えたぐらい。ほぼ独力でデモセットまで開発してしまった。

静電容量方式の知識は必要とせず

-なぜ、非常に短い期間でデモ機が開発できたのか。

奥井 もちろん、当社が組み込み機器開発に慣れていたという側面もある。しかし、タッチキーソリューションの開発ツール「Workbench6」が極めて使いやすかったことが非常に大きい。ディスプレイ画面においてGUI形式で電極の形状を決め、実際に電極に触れれば、さまざまなパラメータが自動的に設定される。静電容量方式のタッチキーに関する知識がまったくない人でも設計できるだろう。そのぐらい簡単だった。

梶原 静電容量方式のタッチキーでは、感度やノイズ耐性の微妙な調整が難しい。しかもパラメータは大量にある。従来は、それらのパラメータを一つ一つ、バランスを取りながら手動で設定する必要があった。 当社の開発ツールでは、タッチキーの「味付け」に関するパラメータだけユーザーが設定する必要があるが、それ以外はユーザーからは見えず自動的に最適値に設定される。使い勝手は極めて良い。

福原 自己容量方式と相互容量方式のどちらを適用するのか。相互容量方式は、水に強いが、多くのキー(スイッチ)を用意できない。一方、自己容量方式は、水に弱いが、感度を高められる。それぞれにメリットとデメリットがあり、選択するには専門的な知識が必要になる。ところが、当社の開発ツールはこれも自動的に設定する。非常に簡単だ。世界で初めて実現した設定機能である。

-これだけ簡単なツールがあれば、タカヤの競合企業も同様のタッチキーを比較的簡単に実現できるだろう。今後、タカヤとしては、どのような点で差別化していくのか。

奥井 差別化のポイントとしては、プリント基板の配線パターン設計が挙げられる。パターン設計を工夫すれば、感度を高めながら、誤認識を減らすことが可能になる。最適設計はどうすればよいのか。ここが苦労するところかもしれない。

低コストで実現できる

-一般的なメカニカル・スイッチと比較した場合、デザイン性、使い勝手、耐水性などがメリットになる点は理解できたが、マイコンを使うためコストがデメリットにならないのか。

奥井 デメリットにはならない。最近の電子機器のほとんどは、メカニカル・スイッチの先にマイコンが接続されている。つまり、マイコンはすでに搭載されている。それを活用してタッチキー機能を付加するわけだ。コスト上昇にはつながらない。
ただしデザイン性を追求すると、機構設計に関するコストが上昇する可能性がある。例えば、LED素子を埋め込んだり、オーバーレイ材にタイルやハーフミラーを使ったりするケースだ。大量生産品であれば、金型を用意することでコストを比較的低く抑えられる。しかし、対象となるアプリケーションが少量多品種であれば、金型を用意するわけにはいかない。いかに金型を使わずに、低いコストで実現するのか。ここが、ものづくり企業である当社の腕の見せどころになるだろう。
すでに当社は、オーバーレイ材にハーフミラーを使ったデザイン性の高いデモセットを用意している。金型を使わなくても、機構設計を工夫することで低いコストで実現している。
なお、2016年2月上旬に開催された「おかやまテクノロジー展2016(OTEX)」に、ハーフミラーのほか、アクリルや木をオーバーレイ材に使ったデモセットを出品した(図2)。

図2 タカヤが開発した住設照明用デモセット

オーバーレイ材に木、ハーフミラー、アクリルを使ったデモセットを開発した。
2016年2月上旬に開催された「おかやまテクノロジー展2016(OTEX)」で展示した。

-来場者の反応はどうだったか。

奥井 自分たちもビックリするぐらい盛況だった。当社の展示スペースだけ黒山の人だかりができていた。 最大の収穫は、当初想定していなかった業種の人に興味を持ってもらえたことである。例えば、木工業や塗装業、備前焼製造業などの関係者だ。この中でも、備前焼製造業の関係者との会話は勉強になった。現在備前焼は、著名な作家の名前が入った作品でないと、なかなか売れないという。そこで備前焼の新しい用途として、タッチキーのオーバーレイ材に使えないかと持ち掛けられた。技術的には可能である。雰囲気のある和室に備前焼のスイッチ。きっと、新しい市場を切り拓けるだろう。

-タッチキーソリューションの今後の展開は。

栗原 現在、タッチキーソリューションに対応したマイコンとして、「RX113」と「RX230/RX231」を製品化している。RX113は、ヘルスケア機器などに向けたもので、タッチキー機能のほか、セグメントLCD駆動機能やUSB機能を集積している。RX230/RX231は、産業機器や高級家電などに向けたもの。タッチキー機能やDSP/FPU機能、セキュリティ機能、各種通信機能を搭載した。
今回、これらの製品ラインアップに、「RX130」を追加した(図3)。これはタッチキー用途に特化したもので、民生機器や住設機器に向ける。この製品の投入で、タッチキー用途の拡大を狙う。

RX113:セグメントLCD+USB+タッチキーを1チップソリューション
RX231:DSP/FPU+多種通信+暗号+タッチキーの1チップソリューション
RX130:タッチキー用途に特化 ROM・ピン数をUI専用に最適化

図3 「タッチキーソリューション」に対応したマイコン製品群

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RX130タッチキー評価キット