マヒンドラレーシングとルネサスが、フォーミュラEレーシングカーに搭載する低電圧リチウムイオンバッテリの制御システムでデビュー

ABB FIAフォーミュラEチャンピオンシップのシーズン5(2018-2019)は、全てのEレーシングカーの基本電圧(12V)システムにとって、初のリチウムイオンバッテリ制御システム(BMS)のお目見えとなったようです [123]。  フォーミュラEの最初の4シーズンでは、12Vシステムバッテリに安全面の問題ばかり発生しました。このリチウムイオン向けBMSの開発はとりわけ興味深いものです。電気自動車システムで注目されるのは、自動車の走行用モータに電力を供給するための、巨大な高電圧バッテリを制御するシステムがほとんどであるからです。

ただし、他の重要な安全および操作システムは、別に用意された低電圧バッテリにより電源供給されています。これらのシステムには、ブレーキ、ステアリング、センサ、通信、その他重要な電子機器が含まれます。ピットインをスケジューリングしないレースで優位にたつためには、システムの信頼性がカギとなります。

マヒンドラレーシングカー

ルネサスの低電圧リチウムイオンBMSは、マヒンドラレーシングにどう貢献したか

低電圧バッテリは、EVが始動するときと、メインバッテリパックのDC/DCコンバータが電力供給しない補助機能に対して、高度な電力供給を行います。さらに低電圧バッテリは、メインバッテリ、バッテリケーブル、DC/DCコンバータに障害が発生した場合、重要な機能とバックアップシステムに対して電力を供給します。ルネサスとマヒンドラレーシングが提携する前は、フォーミュラEレーシングカーがリチウムイオン低電圧バッテリ(BMS)用の重要な安全機能を実装することは不可能でした。

軽量、最小内部抵抗、高出力密度という条件を満たすことで、わずかな重量増も無視できないシビアな性能が追及される電気自動車にとって、リチウムイオンバッテリは総合的に魅力的なものになります。ほとんどの車両で使用される一般的な鉛蓄電池には不要ですが、リチウムイオンバッテリの正常稼働を維持するためには、BMSは必要不可欠です。バッテリが熱暴走に至りかねない障害も避けることができます。

2017年11月に、ルネサスとマヒンドラレーシング(ABB FIAフォーミュラEチャンピオンシップ創設時の10チームのうち1つ)は、高信頼性の車載グレード半導体ソリューションと、EVエンジニアリングのスキルを、ルネサスが投入できる領域はここであると判断しました。この提携によりルネサスは、車載グレードのBMSコンポーネント、筐体、リチウムイオン電池を備えたBMSモジュールを設計・開発しました。さらにこの革新的な低電圧BMSモジュールは、高性能プロセッサであるRH850/E2xマイクロコントローラ(MCU)を内蔵しており、十分なプロセッシング能力を持たせることで、将来における低電圧バッテリシステムのイノベーションに備えました。

ルネサスのフォーミュラE向けBMSモジュールは、管理されていない低電圧リチウムイオンバッテリシステムに比べて、安全性を大幅に向上させ、同時に低電圧システムのトータルな効率と信頼性を強化しています。また、フォーミュラEレーシングカー用のBMSの設計には、効率と安全も重要ですが、さらに別の視点が必要です。たとえば、車載用電子部品にかかる振動、衝撃、重力加速度は、民生用はもちろん産業用グレードの部品であっても、機能や設計上必要とされる仕様を、大きく上回っています。 ルネサスには、半導体製品の選定からシステムの組込みにいたるまで、モジュール全体を設計するというチャレンジがありました。

ルネサスがBMS開発で採用したモジュールレベルアプローチでは、回路図、PCB、ハードウェアコンポーネント、ソフトウェアのカスタム設計、および各コンポーネントとモジュール全体の厳密なテストが必要です。設計のほとんどはルネサス内で行われましたが、筐体はVoxdaleが設計し、リチウムイオンバッテリはA123から供給を受けました。低電圧BMSモジュールの重要な構成要素には、車載用MCU RH850/E2x、セル・バランスBMS IC ISL78714、およびRH850/E2xデモボードが含まれています。これらの各コンポーネントは、BMSの効率と性能を向上させる重要な機能を提供します。

RH850/E2xは、フラッシュを内蔵しFPUを備えた400MHzロックステップ方式のデュアルコア車載用MCUで、機能安全性をサポートします[45]。さらにRH850/E2xは、A/Dコンバータおよび自動車業界標準のCAN、CAN FD (5)、イーサネット、その他のシリアル通信チャンネルを含む幅広い通信インターフェイスを備えています。またRH850/E2xは、自動車エンジン用に設計されたMCUであるため、非常に頑丈であり、周辺機能を数多く内蔵しています。これにはオンボードの電圧監視、温度センシング、および単独のセキュリティコアが含まれています。

RH850製品ファミリの開発環境には、RH850/E2xデモボードが含まれています。これはフォーミュラEの低電圧BMSモジュールの設計およびソフトウェア開発において、重要な役割を果たしました[6]。このデモボードと開発環境により、素早く効率的な開発が可能になりました。フォーミュラEにおいて、BMSモジュールは、多大なる開発努力のおかげで、信頼性と性能を向上させることができました。

ルネサスは低電圧BMSを開発するための多くのコンポーネントを既に製作していましたが、システムをフォーミュラEが求める性能に対応させるため、ルネサスとマヒンドラの間で、多くの技術的な取り組みと協業が必要でした。この協業においては、ルネサスの技術チームとマヒンドラレーシングの主幹エンジニアとの間で、定期的なコミュニケーションを要しました。ルネサスのエンジニアは、新しい内蔵BMSを最適化するために、マヒンドラレーシングにも参加しました。幸運にもルネサスは、技術者をティア1とOEMから戦略的に採用したため、このパートナーシップに、電気自動車と自律走行車業界でのトップクラスの才能を持つ技術者をアサインできました。

ルネサスの低電圧リチウムイオンBMSおよび車載プロセッサは、電気自動車業界に貢献する

革新的なBMSソリューションをEレーシングカーに組み込むことは、Eレーシングカーへの貢献以外にも、電気自動車市場を更に大きく進歩させることに繋がります。フォーミュラEを、性能テストを行うひとつの場として、電気自動車の頂点となるクルマに向けて電子部品を開発することで、ルネサスのエンジニアは価値ある見識と正しい経験を得ることができました。ルネサスが持つ低電圧BMSテクノロジの強化された性能・機能は、最終的には電気自動車の設計、開発、さらには営利面で、幅広く進化する可能性を持っています。

ルネサスの車載用MCU RH850/E2xシリーズは、現在のBMSにおいて必要な処理能力をはるかに超える処理能力を提供します。このため、車両動作中にオンボードテストおよび電気自動車システムの評価を実行するための十分な処理能力を有しています。また、このMCUには、電気自動車の動作状況をより詳細に知ることができる、いくつかの高精度の組み込み周辺機器があります。

さらに、ルネサスのフォーミュラE向け低電圧BMSのもう一つの大きな機能として、ISL78714マルチセル・バランスBMS ICは並外れた電圧精度を提供します。電圧精度をより高くすることで、バッテリセルを偏りなく活用することができ、各セルはより高い精度で充放電ができます。この高い精度レベルにより、リチウムイオンバッテリの寿命を延ばし、バッテリが危険な状態に陥るのをより適切に回避することができます。

一般向け電気自動車に、ハイグレードの車載MCUおよびBMSを使用することは、明確な利点があります。自動車エンジンに求められる厳しい性能要件によって、車載用電子部品に対し、非常に高い信頼性が定義・規格化されてきました。RH850/E2xなどこれらの規格を満たすMCUは、電気自動車に対してもかなりの処理能力を提供できます。これに、電気自動車の寿命全期間にわたりMCUが過酷な条件下でも稼働できる、という保証が加わります。

さらに、フォーミュラE電気レーシングカーで使用された、豊富な機能が高度に統合されたMCUとBMS向けICが、ますます高度化していく電気自動車における電子部品の総数や、設計の複雑さを低減していくことができます。これは、電気自動車のコストや、最終製品が市場に出るまでの時間に、直接影響を与えます。