~標準CMOSで小面積・高速・高耐圧のアイソレータを実現~
2010年7月20日

 ルネサス エレクトロニクス株式会社(代表取締役社長:赤尾 泰、以下ルネサス)はこのたび、インバータ回路のさらなる高集積化と高速化を目的として、標準CMOSによるオンチップトランスを用いた小型アイソレータ(注1)技術を開発いたしました。また、本技術を適用したLSIを試作し、基本動作を確認しました。

 近年、電気エネルギーの有効利用を促進するグリーンエレクトロニクスへの関心が高まっており、省エネ型のエアコンや冷蔵庫、電気自動車、ハイブリッド自動車などでは、モーターの回転を必要に応じてきめ細かく制御するインバータ回路の採用が急速に進んでおります。インバータ回路は、モーターに加える数百ボルト(V)から数キロボルト(kV)の電圧をオン/オフする高電圧回路と、それを制御する数V駆動のマイコンで構成されております。高電圧回路とマイコンは動作する電圧が大きく異なるため、高電圧回路とマイコンの間を電気的に絶縁した状態で制御信号のやりとりを行うアイソレータが必要となります。しかしながら、従来のアイソレータの面積は大きいので、マイコンや複数の高電圧回路およびアイソレータをひとつに集積することはできませんでした。

 LSIに集積可能なアイソレータであるオンチップトランスは、トランスが回路面積の大半を占めており、高集積化にあたってはトランスの小型化が必須となっております。しかし、トランスの小型化は、その駆動に必要な信号の周波数を高める必要がある一方でデジタル回路の動作周波数の限界が壁となり、実現は困難でした。

 このたび開発した技術は以下の通りです。

1. 小型トランスを駆動する高周波回路を開発

 デジタル信号がその値を変化するときに発生する高周波信号をトランスに送信する方式を採用することにより、従来方式では困難であった高周波信号による小型トランスの利用を実現。

2. 小型トランスを通過した高周波信号を検出する信号検出回路を開発

 高速動作可能なダイオードと受動素子を組み合わせて実現した信号検出回路を用いることにより、トランスを通過した高周波信号をデジタル回路で取り扱える低周波信号に変換する技術を実現。

 上記技術により、トランスを介してやり取りする信号の周波数を高めることができるため、従来よりも小型のトランスが利用可能になり、アイソレータの面積を従来の1/4~1/8に削減することができます。さらに、小型のトランスを用いたことでトランスをより高い頻度で連続駆動できるようになるので、アイソレータの高速動作が可能になります。

 本技術を用いると、従来は別々の部品で構成されていたインバータ回路を構成するマイコンや複数のアイソレータおよび高電圧回路をひとつに集積することができるようになります。したがって、省エネ家電、電気自動車、ハイブリッド自動車、太陽光発電パネルなどのインバータ回路、様々な電子機器で用いられているスイッチング電源などを小型化・低コスト化することができます。また、産業機器、医療機器に用いられる絶縁インタフェースや、高電圧かつ高速駆動を要するディスプレイ内部の絶縁インタフェースを高速化できます。さらに本技術は、特に高温下での高速動作が要求される次世代デバイスを用いた小型・低損失インバータ回路や、スマートグリッドの要素技術である電池、直流給電システム、スマートメーターなどの絶縁部にも適用可能です。

 ルネサスは、今回の成果が、省エネ社会を実現するグリーンエレクトロニクスの基本技術であると同時に、当社がマイコンを軸に展開しているSoC、アナログ&パワー半導体との事業のシナジーに生かせるものと考え、今後とも研究開発を加速してまいります。


 なお、当社は今回の成果を、6月16日から18日まで、米国ホノルルで開催される学会「VLSI回路シンポジウム(2010 Symposium on VLSI Circuits)」にて、現地時間の18日に発表しました。

以 上

(注1) アイソレータとは電気的に絶縁した状態で信号を伝達する回路で、主として基準電圧が異なる回路間の信号伝達に用いられます。

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