ルネサスの新製品:産業用イーサネット通信LSI

ソリューション: 6 of 20

FAネットワークの課題解決 高速、マルチプロトコル対応の「産業用イーサネット通信LSI」がデビュー

「ものづくり」の現場が大きく変わろうとしている。従来は人の手で行ってきた作業の多くを、産業用のロボットなどを用いて無人化し、作業効率や安全性の向上を図るFA(ファクトリーオートメーション)化が進んでいるのは周知のことだろう。大きな変革は、そのFAを支える産業用ネットワークに起きている。さまざまな規格によって結ばれていた多くのFA機器を、世界標準のネットワーク規格であるイーサネット(Ethernet)をベースにした産業用イーサネット(Industrial Ethernet)で接続する動きが始まったのだ。

この「地殻変動」とも呼べる大きな変革に対して、ルネサスが素早いアクションを起こした。産業用イーサネット通信LSIの提供を開始するのだ。サンプル出荷が始まったこの産業用イーサネット通信LSIについて聞くために、第一事業本部産業・ネットワークソリューション事業部長の傳田 明と、同事業部産業エネルギーSoC設計部課長の鈴木 克信を訪ねた。

「ものづくり」の現場が求める(1)—イーサネットでの統一—

—産業用イーサネット通信LSIを発表されました。「ものづくり」の現場で何が起きているのか、開発の背景をうかがいます。

傳田: 今回発表した「R-IN32M3シリーズ」は、FAの新たな流れに対応した産業用イーサネット通信ASSP(特定用途向け標準製品)の第一弾です。多数の製造装置や生産設備がネットワークで結ばれ自動化が進んだ先進的なものづくりがFA(ファクトリーオートメーション)です。このFAにおける通信ネットワークは、全体を管理するコンピュータを頂点に、PLC(Programmable Logic Controller)などのネットワーク、モータを回したりロボットを動かすネットワーク、そして末端のセンサやモータという具合にピラミッド型の階層的な構造をしています。ところが、各階層内での通信法はまちまちで、ピラミッドの上の方はイーサネット(Ethernet)、その下の階層からは各社がそれぞれ独自の規格という複雑なネットワーク構成が長年続いていました。

それが、最近になって通信ネットワークのすべてをイーサネットで統一しようという考えに変わってきています。通信をイーサネットで統一することで、工場における情報の透過性が良くなり、また、コスト圧縮も可能になるからです。このことは産業用ネットワークの「地殻変動」とも言える大きな変革です。

Mr. Denda

ルネサスエレクトロニクス(株)第一事業本部 産業・ネットワークソリューション事業部 事業部長 傳田明

図1:産業用ネットワークの大きな変革

図1:産業用ネットワークの大きな変革

「ものづくり」の現場が求める(2)—マルチプロトコル対応—

—イーサネットは世界中のオフィスや家庭でお馴染みのコンピュータネットワーク規格です。産業用イーサネットは一般的イーサネットとは何か異なりますか。

鈴木: FAで使われる産業用イーサネットは、一般のイーサネットとは少々異なっています。一つはさまざまなプロトコル(手順の規格)があることです。よく知られているところで、「PROFI NET」や「Modbus-IDA」、「EtherNet/IP」、「CC-Link IE」、「ETHERNET POWERLINK」、「EtherCAT」などのプロトコルが存在しています。したがって各々の規格に対応した通信LSIが、個別に必要になるというやっかいな問題があります。

もう一つは、きちんと決まった時間での処理を、かつ高い精度で処理するリアルタイム性と高速性が求められることです。例えば、一つのPLCに何百ものモータやセンサが接続されることは珍しくありません。もし、PLC直近の機器と離れた位置にある機器とで応答速度が異なれば、全体の歩調は一番遅い機器に合わせなければならず、生産性が落ちてしまいます。

Mr. Suzuki

ルネサスエレクトロニクス(株)第一事業本部 産業・ネットワークソリューション事業部 産業エネルギーSoC設計部 課長 鈴木 克信

顧客ニーズを満たす、産業用イーサネット通信ASSP 第一弾

「R-IN32M3シリーズ」は、こうした事情を踏まえて、高速化と各規格に対応できるマルチプロトコルを実現した製品であり、イーサネットのアクセラレータやRAM(1.3MB)も載せたワンチップソリューションです。

図2:産業用イーサネット通信LSI「R-IN32M3シリーズ」

図2:産業用イーサネット通信LSI「R-IN32M3シリーズ」

5~10倍の超高速性能

—一般的なイーサネットに比べ、産業用イーサネットでは通信LSIに求められる要求が高いようですね。高速化をはじめとした、「R-IN32M3シリーズ」の特長をおうかがいしましょう。

鈴木: リアルタイムOS(RTOS)をハードウエアで構成した、「RTOSアクセラレータ」の搭載が大きなポイントです。すべてをCPUに委ねるソフトウエア処理にすると時間がかかります。さらに処理時間に大きなバラツキ、つまり応答の揺らぎが大きくなるという問題があります。「R-IN32M3シリーズ」はCPUにArm Cortex-M3を採用していますが、RTOSは独自のハードウエア(*1)で構成しました。こうすることで全体として5から10倍の高速性と低揺らぎを実現しています。

*1:カーネロンシリコン社のARTESSO技術をベースにしています。

Circuit-board

図3:「R-IN32M3シリーズ」が実現した、産業用イーサネットを支える高性能

図3:「R-IN32M3シリーズ」が実現した、産業用イーサネットを支える高性能

鈴木氏

例えば同じCPUを使って割り込み発生から作業開始までにかかるクロック数で比べてみると、ソフトウエアOSでは850~2000クロックを要するのに対して「R-IN32M3シリーズ」では124から150クロックで済みます。スピードで5.6~16倍、応答までの揺らぎ幅では1/40以下ということになります。

一方、二つのタスクを走らせた場合の処理時間を比較したのが下の図4です。「R-IN32M3シリーズ」が3倍速いのが分かります。実際には二つではなく数十を超えるタスクが継続して走りますので、その差はもっと大きくなります。また、マスタからスレーブへ割り込みをかけ、スレーブからの応答時間を比較したのが図5です。こちらも6.5倍速くなっています。図4と5は50MHz駆動時のデータを表していますが、今回リリースした製品は100MHzのため、実際にはより高速処理で低揺らぎを実現しています。これだけの性能を引き出している例は今までにありません。

図4:タスク切り替え処理時間の比較@50MHz

図4:タスク切り替え処理時間の比較@50MHz

図5:スレーブからの応答時間を比較@50MHz

図5:スレーブからの応答時間を比較@50MHz

傳田氏

傳田: 高速化の言い方を変えれば、同じ処理をする場合に消費電力を少なくできることを意味します。FAの世界では高速・大容量通信が求められ、同時に省電力化も必須要件です。例えば精密な位置決めを必要とする半導体製造装置では振動を極力抑えるためファンを使うことが許されず、制御ボードの消費電力を下げて発熱を抑える必要があります。ソフト処理の場合にCPUが300~400MHz(の能力と相当する消費電力)を要する処理を、「R-IN32M3シリーズ」ではわずか50MHzでこなします。

鈴木: ハード化による高速化とマルチプロトコル対応などのフレキシビリティは相反する関係にあるため、一概にハード化すれば良いというわけではありません。「R-IN32M3シリーズ」ではプロトコル処理部分やRTOSの一部はソフトウエアに残すなど、柔軟性を確保する仕組が組み込まれています。

図6:高速性と柔軟性を両立

図6:高速性と柔軟性を両立

ギガビットイーサやモーションコントロールも視野

—既にサンプル出荷が始まっているとのことですが、今後の予定やビジョンをお聞かせください。

傳田: 数ある産業用イーサネット規格は、いずれもオープンな団体が策定管理しています。ルネサスはその多くにメンバーとして参加していますので、ニーズの変化にいち早く対応できます。 そうした中、ギガビットPHYの搭載、ネットワークの制御からモータ制御などのモーションコントロールへの対応など、FAにおける応用の幅を拡げる予定です。また、イーサネットの拡がりはFAだけに限りません。大量のデータをネットワークに流すといったアプリケーションは身の回りにあふれています。「R-IN32M3シリーズ」の技術はそうしたニーズに応え得るものであり、応用の幅をどんどん拡げたいと考えています。

—「R-IN32M3シリーズ」が世界の「ものづくり」現場を支え、また、その技術が新たなアプリケーションを生み出すことに大きな期待を寄せましょう。

項目 仕様
CPUコア Arm社Cortex-M3 32ビットRISC CPU
+Real-Time OS Accelerator(Hardware Real-Time OS)100MHz
内蔵RAM Instruction RAM : 768KB, Data RAM : 512KB, Buffer RAM : 64KB
DMAバス機能(システム・バス側) ・4チャネル+1チャネル(リアルタイム・ポート用)
外部メモリ・アクセス機能 ・バス・サイジング機能(16ビット/32ビット)
・ページROM/ROM/SRAMインタフェース
・同期式バースト・メモリ・インターフェース
外部マイコン・インタフェース ・バス・サイジング機能(16ビット/32ビット)
・スタティック・メモリ用の汎用インタフェース
シリアル・フラッシュROM ・各社SPI互換シリアル・インタフェース対応
メモリ・コントローラ機能 ・Fast Read, Fast Read Dual Output, Fast Read Dual I/Oモードをサポート
内蔵周辺機能 Timer (3 functions), Watchdog Timer (1ch), UART (2ch),
I2C (2ch), CAN (2ch), CSI (2ch)
I/Oポート CMOS入出力:最大96本
10/100/1000Mbps Ether MAC注1 ・1チャネル
・スイッチ機能(2ポート)
・GMII/MIIインタフェース
10/100Mbps EtherPHY注2 ・2ポート
・10BaseT, 100BaseTX/FX対応
CC-Link 1チャネル
CC-Link IE注1 CC-Link IE Field (インテリジェントデバイス局)
EtherCAT注2 EtherCAT Slave controller
オンチップ・デバッグ機能 ・シリアルワイヤもしくはJTAGの選択
・フル・トレース機能(ETM内蔵)
電源電圧 端子電源用:VDD33 = 3.3±0.3V
内部電源用:VDD10 = 1.0±0.1V
動作温度 -40℃ ~ +85℃
パッケージ 324ピン PBGA(19mm x 19mm, 1.0mm pitch)

注1:R-IN32M3-CLのみサポート

注2:R-IN32M3-ECのみサポート

表1:「R-IN32M3シリーズ」の仕様