ルネサスが創る新市場「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」特集Part 4―可視光通信

ソリューション: 4 of 20

スマート社会を実現する中核技術の一つである、「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」へのルネサスの取り組みを解説している本特集。第4回である今回は、目に見える光「可視光」を通信に利用した、「可視光通信」のソリューションをご紹介する。

「可視光」で通信を

「光」が電磁波であることは、良く知られている。その中でも目に見える光を「可視光」と呼ぶ。逆に、目に見えない光も存在する。「赤外線」や「紫外線」などの光である。
可視光と赤外線、紫外線は、光の波長によって区別する(図1)。可視光はおおよそ、380nm(ナノメートル、1nmは10の9乗分の1メートル)~780nmの波長の光を指す。波長の短い(380nm)側から、色で表現すると紫、青、緑、黄緑、黄、橙、赤と波長の長い(780nm)側へと変化する。雨上がりの青空に浮かぶ七色の虹を思い浮かべて欲しい。虹の七色は可視光を波長ごとに並べた色だ。
赤外線は可視光よりも波長の長い光、紫外線は可視光よりも波長の短い光である。赤外線は、半導体レーザーや赤外線発光ダイオード(赤外線LED)といった安価で手軽な光源の普及によって応用が進んだ。一方の紫外線は人体への影響が考慮され、一般的には利用されていない。

図1:可視光とは人の目で見える波長の電磁波のことで、太陽やさまざまな照明から発せられる。赤外線の中でも赤色の可視光線に近い波長の「近赤外線」は、可視光線に近い特性を持ち、「見えない光」として赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。

図1:可視光とは人の目で見える波長の電磁波のことで、太陽やさまざまな照明から発せられる。赤外線の中でも赤色の可視光線に近い波長の「近赤外線」は、可視光線に近い特性を持ち、「見えない光」として赤外線カメラや赤外線通信、家電用のリモコンなどに応用されている。

従来の「光通信」は、赤外線と光ファイバを使った通信を意味する。信号(光)の伝送媒体はガラス製あるいはプラスチック製のファイバである。これに対して、可視光を使った「可視光通信」は光ファイバを使わない、空間を伝送媒体とする。そのため、可視光通信は、無線通信(ワイヤレス通信)の一種だと言える。

可視光通信が考案されたのは、決して最近のことではないが、省エネなどによりLED照明が普及しつつあることが背景にある。可視光通信には、従来の通信にはないさまざまなメリットがある。その特徴を述べよう。

  • 既存のLED照明を送信器として利用できる。設置済みのデジタル・サイネージや照明機器、交通信号などを可視光通信に活用することが考えられている。
  • 到達範囲が限定されている。光を視認できることから、セキュリティに優れている。
  • 光源の特定が容易であり、メンテナンスの負荷が少ない。
  • 既存の照明設備に通信機能を追加することができるので、美観を損ねない。
  • 一部の電磁波や紫外線などは人体への影響が懸念されるが、可視光は人体に悪影響を及ぼす心配がない。
  • 可視光通信は、電波法の規制を受けない。免許なしに送受信システムが構築できる。

可視光通信の「仕組み」

可視光通信では、可視光源を人の目では感じないスピードで高速に点滅させ、デジタル・データを光のオンとオフに対応させてデータを伝送する(図2)。この通信は1方向であり、送信器と受信器が存在する。

送信器はLEDなどの可視光源と、光源をオン・オフする電源回路とドライバ、信号変調用マイコンなどで構成される。受信器は光を電気に変換するセンサ(照度センサやイメージ・センサなど)と、センサの出力信号を増幅するアンプ、信号復調用マイコンなどで構成される。

図2:LED照明から光の明暗を利用して、デジタル・データを送信する。

図2:LED照明から光の明暗を利用して、デジタル・データを送信する。

期待が膨らむ「応用分野」

可視光通信に期待される応用分野は、大きく2つに分かれる(図3)。一つはデータ伝送速度が1秒当たりキロビット(kbps)と低い、低速通信の応用分野である。もう一つはデータ伝送速度が1秒当たりメガビット(Mbps)と高い、高速通信の応用分野である。

低速通信の応用分野は、専用もしくは汎用の受信端末で一定量のデータを受け取るサービスが主体となる。例えば所在位置の情報を取得して受信端末の地図内に表示したり、小売店でクーポンや特売商品などのデータを受信したりといった用途が考えられる。

高速通信の応用分野は、将来的な電波資源の枯渇を背景に既存の無線通信を置き換えようとするものだ。電磁波の雑音が飛び交っているために無線通信が困難な区域(例:工場)での利用も考えられる。さらに、無線が透過しない水中での通信に可視光通信を応用することも試みられている。

図3:低速、高速のデータ伝送速度に合わせた、さまざまな応用分野が期待されている可視光通信。AR(Augmented Reality)と呼ばれる、カメラを使って映し出される映像上にさまざまな電子情報を重ね合わせて、現実の映像を「拡張」する技術への応用も見込まれている。

図3:低速、高速のデータ伝送速度に合わせた、さまざまな応用分野が期待されている可視光通信。AR(Augmented Reality)と呼ばれる、カメラを使って映し出される映像上にさまざまな電子情報を重ね合わせて、現実の映像を「拡張」する技術への応用も見込まれている。

有望な「位置情報サービス」に、ルネサスが着目

ルネサスが可視光通信の用途として注目しているのは低速通信の分野、特に、位置情報を取得するサービスに関する分野である。例えば、屋外ではGPSで位置情報を取得し、屋内では照明や非常灯などから位置情報を取得することで、屋外と屋内の位置情報をシームレスに繋げることが可能だ。オフィスビルや大規模商業施設などで活用すれば、案内図を見に行く手間が省ける。

このような位置情報を提供する技術は、可視光通信以外にも存在する。無線LANや屋内GPSなどだ。無線LANは、アクセスポイントを高密度に配置する必要があり、位置情報の精度が低い、といった課題がある。屋内GPSは、基地局を屋内に設置するためのコストが問題となる。既存の照明設備を活用できる可視光通信が、実現技術として大きく期待されている。

磨きがかかる、ルネサスの「可視光通信ソリューション」

そこでルネサスでは、可視光通信を実現するソリューションを積極的に開発している。自動ゲイン調整を可能にするスマートアナログ、低消費電力のマイコンなどの半導体技術をベースに、これを最適化し、外乱光の影響を抑え、広ダイナミックレンジ受信を実現する送受信ソフトウェアを一体化させて、「可視光受信モジュール」と「可視光通信評価キット」を試作した。

「可視光受信モジュール」(図4)は、外形寸法が10mm×20mmと非常に小さな電子回路モジュールで、プリント基板に照度センサやスマートアナログIC(SAIC500)、マイコン(RL78/G13)などを搭載して可視光通信を実現する。

ルネサスの試作した「可視光受信モジュール」の特長

  • 外乱光に強く、太陽光を受光しても通信を正常に実行できる。
  • 受光する可視光の照度範囲(ダイナミックレンジ)が1万ルクス超~数十ルクスと広い。
  • 手振れの影響をうけにくい(急激な照度変化に対応)。
  • 消費電力が低く、乾電池で1年以上動作する(動作時間は1日当たり数時間)。

図4:可視光受信モジュール

図4:可視光受信モジュール

「可視光通信評価キット」は、可視光LEDでID情報を送信するLED制御評価ボード(EZ-0012、RL78/I1A搭載)と、可視光受信ソリューションを搭載したUSBモジュールで(図5)構成される。パソコンに通信評価ソフトウェアをインストールし、USBモジュールをパソコンに接続することで、受信率や誤り率などの測定を実行できる。送信データの伝送速度は最大4.8kbps。

図5:可視光通信評価キットのUSBモジュール

図5:可視光通信評価キットのUSBモジュール

ルネサスが開発を進める「可視光通信ソリューション」は、ルネサスの独自技術に基づく高性能デバイスを、高い水準で融合することにより生み出される。「可視光通信ソリューション」を構成するデバイスを紹介しよう。

「可視光通信」—送信を実現するルネサスのデバイス

「可視光通信」—受信を実現するルネサスのデバイス

これらのソリューションはいずれも、エレクトロニクスに関する国内最大の業界団体JEITA(電子情報技術産業協会)で、ルネサスが策定に協力した可視光通信の標準技術仕様「CP-1223(可視光ビーコンシステム)」に準拠する。CP-1223に準拠した可視光通信の送受信ソリューションを半導体ベースで提供できるのは、現在のところ、ルネサスだけだろう。

ルネサスの高い技術力によって切り拓く、「可視光通信」の可能性は極めて大きい。着々と進むルネサスのソリューション開発に業界の注目が集まっている。今後の展開が、非常に楽しみだ。

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