ルネサスが創る新市場「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」特集Part 2

ソリューション: 2 of 20

ルネサスは、新しい市場を創出し、リードすることで、スマート社会への貢献に取り組んでいる。そのソリューションの中核となる技術、「ワイヤレス・センサ・ネットワーク」を特集している。特集シリーズの第2回である今回は、「ボディ・エリア・ネットワーク」をご紹介しよう。

ボディ・エリア・ネットワークとは

ボディ・エリア・ネットワーク(BAN:Body Area Network)とは、人体とその周辺において直径が数メートルの範囲内でデータをやり取りする、通信距離のきわめて短いワイヤレスのネットワークである。通信経路は人体の表面であったり、人体の内部であったり、人体近くの空間であったりする。消費電力が非常に少なく、セキュリティに優れ、利便性が高い。今後、社会に大きく普及していくと期待されるネットワーク技術だ。

図1:ボディ・エリア・ネットワークの概念

図1:ボディ・エリア・ネットワークの概念

ボディ・エリア・ネットワークの特徴を、もう少し具体的に述べよう。通信距離が短いので、送信電力が低い。このため消費電力が低くて済む。一方で人体とその付近だけが通信経路となるので、周辺に漏洩する信号の強度がきわめて低く、セキュリティに優れる。そして人間が特に意識した動作をしなくても、データのやり取りが自動的に始まり、完了するという利便性の高さを備える。

ボディ・エリア・ネットワークの通信方式には主に、電界方式、電流方式、電磁波方式がある。電界方式は、人体の表面に発生する電界の変化を利用する。人体が電極に触らずとも通信が可能になるという特徴がある。電流方式は、人体に微弱な電流を流し、人体が電極に接触することで信号を伝搬する。電磁波方式は、UHF帯(300MHz~3GHz)あるいはUWB帯(3.1GHz~10.6GHz)の周波数の高い電磁波を利用して情報を伝える。

図2:ボディ・エリア・ネットワークの通信方式

図2:ボディ・エリア・ネットワークの通信方式

ルネサスの選択、「電界方式」

このように、ボディ・エリア・ネットワークにはいくつかの技術方式が存在する。その中でルネサスは、電界方式を採用してソリューションを開発中である。技術仕様の選択では、まず電磁波方式を除外した。他の近距離無線通信と差別化しにくいためである。次に電流方式と電界方式を比較した。そして電流方式は人体と電極の接触が必要なことから、ユーザの動作が制限され、用途が限定されると判断した。これに対して電界方式は接触を必要としないので、より多彩なアプリケーションに適用できると評価し、電界方式を選んだ。

電界方式では、人体の表面のすぐ近くで送信器によって交流の電界を発生させる。人体は60%~70%が水分でできているので、近くに交流電界があると、誘導によって人体の表面全体が交流の電界を帯びる。これで、人体の表面全体に信号が伝わる。電界の検出器(受信機)を人体表面付近に置けば、電界を検出することで信号を受信できる。これで、送信器から人体表面へ、人体表面から受信器へと信号が送受信されることになる。

ここで重要なのは送信器と受信器の両方とも、人体表面、すなわち、皮膚に密着させておく必要がないことだ。送信器を着衣のポケットに入れておけば、信号は人体の表面全体に広がる。受信器に手を近づけるだけで、信号の送受信が完了する。

図3:電界方式の原理

図3:電界方式の原理

  1.  送信電極にプラスの電荷を印加する
  2. 人体中のマイナス電荷が送信電極付近に集まる(静電誘導)
  3. 送信電極付近にマイナスの電荷が集まった代わりに、別の部位にプラスの電荷が集まる
  4. 受信電極にマイナス電荷が集まり(静電誘導)、受信する

標準化はすでに完了

技術標準はすでに存在する。米電気電子技術者協会(IEEE)の標準化委員会の中でネットワーク標準を担当する802委員会が、ボディ・エリア・ネットワークの技術標準を「IEEE802.15.6」の名称で策定済みだ。IEEE802.15.6では物理層(PHY層)とメディア・アクセス制御層(MAC層)を規定している。

IEEE802.15.6のPHY層には3種類の技術仕様がある。周波数バンドの高い順から、UWB(Ultra Wideband)、NB(Narrow Band)、HBC(Human Body Communication)が規定されている。UWBとNBは電磁波方式、HBCは電界方式である。UWBの信号周波数は3500MHz~10000MHz、NBの信号周波数は400MHz~2400MHz、HBCの信号周波数は5MHz~50MHz。なお、電流方式はIEEE802.15.6の技術仕様には採用されていない。MAC層はノンセキュア・モードとセキュア・モードの2種類があり、セキュリティを重視する用途ではセキュア・モードを選べるようになっている。

図4:ボディ・エリア・ネットワーク(BAN)の標準化動向

図4:ボディ・エリア・ネットワーク(BAN)の標準化動向

多彩なターゲット・アプリケーション

このようにボディ・エリア・ネットワークは標準化が進んでおり、スマート社会の新インフラとして、今後様々なアプリケーションへの応用が期待される。

図5:BANに期待される応用

図5:BANに期待される応用

それでは、ルネサスが考えるターゲット・アプリケーションをいくつかご紹介しよう。

(例1)ノート・パソコン
ノート・パソコンのユーザ認証にボディ・エリア・ネットワークを利用する。通信機能を内蔵した腕時計(スマート・ウオッチ)を装着したユーザがノート・パソコンのタッチパッドにさわると、ノート・パソコンが内蔵するエンベデッド・コントローラにユーザ情報が伝わり、認証が完了する。認証が完了するとパソコンにユーザがログインできるようになる。

図6:ノート・パソコンのユーザ認証に活用

図6:ノート・パソコンのユーザ認証に活用

(例2)入退室管理
オフィスや工場などの入退室管理にボディ・エリア・ネットワークを利用する。通信機能を内蔵したユーザがドアのノブに触れると、ノブに接続されたネットワーク・ブリッジを介してアクセス・コントローラさらに認証サーバへとユーザ情報(ユーザID)が伝わり、認証が完了する。認証が完了するとドアのロックが解除され、ユーザはドアを開けられるようになる。

図7:さまざまなドアの入退室を管理

図7:さまざまなドアの入退室を管理

(例3)フィットネス
フィットネスの心拍数モニターにボディ・エリア・ネットワークを利用する。心拍数を通信ノード搭載のセンサーで計測し、スマート・ウオッチにデータを送信する。ユーザはスマート・ウオッチのディスプレイでリアルタイムに心拍数を見ることができる。

図8:手軽にデータを活用

図8:手軽にデータを活用

雑音対策が大きな課題

電界方式のボディ・エリア・ネットワークは、応用範囲が広いものの、技術的な課題を抱えている。通信が不安定なことだ。信号強度が微弱であることと、電磁雑音に弱いことが、その大きな理由である。受信信号が弱いのは、人体に誘起した電界エネルギの大半が送信器と大地(接地)を介して逃げてしまうからだ。微弱な信号を検知する高感度の受信技術を開発する必要がある。

また電界は、外部からの電磁雑音に影響されやすい。このため、雑音耐性を高めなければならない。そこで信号周波数帯域に対して鋭い選択性を持たせることで、帯域外の雑音に対する耐性を高めている。

ルネサスはこれまで、擬似的な人体(「ファントム」と呼ばれる、誘電率が人体と同じ物体)を使って信号対雑音比(S/N比)や利得特性、Sパラメータなどの特性を独自に評価してきた。

今後は技術をさらにブラッシュアップするとともに、市場におけるニーズの発掘と市場の創出を狙ってマーケティング活動を推進していく。ルネサスのさらなる活躍にご期待いただきたい。

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