バーチャル・プロトタイプによる先進的なソフトウェア開発:シノプシス

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「RH850」搭載自動車システム向け「バーチャル・プロトタイプ」

先進的なシミュレーションが実現する、自動車アプリケーション開発におけるソフトウェア検証と課題解決

Synopsys

自動車産業では、新型車に求められる性能とユーザのニーズに応えるため、数百万行に及ぶ組み込みソフトウェアのコードが記述され、テスト、デバッグが繰り返される。そして、その開発スケジュールは厳しく、実際のハードウェアを入手する前から複雑なソフトウェア開発が始まるのが常だ。ルネサスのパートナーである、EDA(Electronic Design Automation)ツールと半導体IPの世界的リーダーであるシノプシスでは、この問題に直面している開発者を支援している。

ルネサスの次世代自動車向けマイコン「RH850」のユーザは、シノプシスの最新ツールで組み込みソフトウェア開発の生産性向上が図れる。本稿では、実際の自動車システム開発において、いかに早期にソフトウェア開発を開始し、高品質な組み込みシステム・ソフトウェアを完成させるかを、シノプシスでプロダクト・マーケティングを担当するMarc Serughetti氏に聞いた。

Marc Serughetti  Director of Product Marketing  Synopsys

Marc Serughetti Director of Product Marketing Synopsys, Inc.

自動車システム開発が直面している「難題」

EDGE: 本日はお話する機会をいただきましてありがとうございます。シノプシスさんは2012年の売上で17億6000万ドルを有する、EDA分野のビジネスリーダーの一社です。組み込みソフトウェア開発の現状と注目すべきトレンドをおうかがいしましょう。

Serughetti氏: 非常に興味深い質問です。対象とするマーケットによって答えが異なりますので、今日は自動車分野に焦点を当ててお話をしましょう。ルネサスさんとシノプシスは自動車分野に注力しており、豊富な経験を有します。ルネサスさんは自動車向け電子機器事業者への代表的なサプライヤであり、弊社は自動車メーカ上位15社の80%と、また、Tier-1メーカ(一次部品供給メーカ)の60%をお客様としています。シノプシスはさまざまな電子機器を開発するお客様の要望に応えられる長期的なビジョンを持ち、財政的に安定、信頼できる企業です。

Marc Serughetti

組み込みソフトウェア開発は、現在、世界の自動車産業が直面している最大の課題と言えるでしょう。エンジンやトランスミッション、シャシ、サスペンションといったおなじみの機械的部品よりも、ソフトウェアが重要な課題となっています。その理由は、標準的な新型車には、50台から100台ものマイコン搭載のECU(Electronic Control Unit)と呼ばれる電子制御ユニットが搭載されているからです。これらのECUにより、自動車一台あたりで1000万行から1億行にも及ぶソフトウェア・コードを走らせています。その規模には驚きを隠せません。

さらに、ソフトウェアの重要性は乗用車でも、トラックでも、モデルチェンジのたびに増大します。ソフトウェアによる制御は安全機能や環境性能、利便性、ナビゲーション、エンターテインメント、そして通信機能などに及び、これらのどの分野でも秀でた性能を発揮すれば自動車メーカの競争力を高める結果を、逆に、もし欠陥があれば売上に甚大な影響が出ます。

その結果、自動車業界は信頼性の高い組み込みソフトウェアの開発に注力するようになりました。たとえば、Tier-1メーカではソフトウェアの開発に最高で50%のR&D資源を投入しており、その開発の進捗が製品スケジュールに大きく影響しています。

実際、ソフトウェアの開発が遅れたために、自動車やトラックの新型車発表が遅れてしまった例も聞いています。このような事が起きれば市場での影響は甚大で、逆に巧みに作られた新型車は、セールス上の大きな利点を得ることになります。

EDGE:ルネサスの「RH850」や「V850」、そして「SH-2A/SH-4A」などのマイコンは、アプリケーションの性能を決める重要な要素ですが、専用のソフトウェア・コードとしてマイコンのアプリケーションが実行されます。システムデザインの成否を決めるのは、ハードウェアとソフトウェアの連携にあるでしょう。お客様がソフトウェア開発に大変な投資をしていることも聞いています。そのため、ルネサスは自社のチップ向けに高品質のサービスを提供すると同時に、各分野のエキスパートであるパートナーの皆様にも同様なことを求めています。ルネサスにとってシノプシスさんが非常に重要なパートナーである理由です。

エキスパートのご意見をうかがいましょう。現在のソフトウェア開発ツールは、自動車システム開発者が厳しいスケジュールを守り、開発を進めるのに十分な性能、機能を提供していますか?

Serughetti氏: 組み込みソフトウェアのコードは非常に複雑で、自動車のハードウェアと並行して記述、テスト、デバッグが行われています。そのため、実際のハードウェアが使えるようになる前から、ソフトウェア開発を早期に開始する必要があります。

図1:新車の開発を簡略化したイメージ

図1:新車の開発を簡略化したイメージ。乗用車やトラックの新型車の開発は、ますます複雑かつ多面的なプロセスとなっている。車内の数十ものECU上で実行されるソフトウェアは非常に複雑なため、ハードウェア実機が出来上がる前に開発が開始される。

多くの場合、自動車システム開発者はRTL (resistor-transistor logic)シミュレータによりコード検証をしています。しかし、RTLシミュレータはLSIの開発においては非常に利用価値が高く、システムデザインにも有益ですが、動作が遅いのが欠点です。

また、MATLAB/Simulinkツールをコード検証に使うことも可能ですが、組み込みシステム開発に必要なマイコン固有の抽象度を検証する能力に欠けています。例えば、ソフトウェアが実行される特定のハードウェア上のデータにアクセスしたり、依存した制御を記述することが出来ません。

厳しい開発スケジュールに立ち向かう、自動車システム開発者を支援する別の方法が必要なのは明らかです。

フル機能の高速ソフトウェア・モデル

EDGE:それでは、自動車業界が求める、より短時間で効率的に自動車システム向け組み込みソフトウェアを開発するツールとは何かおうかがいしましょう。

Serughetti氏: シノプシスは、この問題に対処するために多くのツールを提供しています。最も強力なツールはバーチャル・プロトタイピングで、抽象化のレベルが従来の手法と異なり、TLM(Transaction-Level Modeling)モデルを採用しています。これは、シノプシスの提供するバーチャル・プロトタイプを支える主要技術で、開発中システムの機能を完全に表現する高速なソフトウェア・モデルです。実際のプロダクションコードを修正することなく実行できます。このモデルは、フォールト・テスティング(Fault testing)を含む、さまざまなソフトウェア開発作業で利用可能です。

  仮想プロトタイプベースのソフトウェア開発ソリューション
故障注入
(Fault injection points)
可能 ハードウェアとソフトウェアの外部/内部構成を完全にモデル化して変更が可能
恒久的エラー
(Permanent faults)
可能 シミュレーションによりモデリング
故障注入検証の副作用
(Experiment Intrusiveness)
なし 誤りをシミュレーション・フレームワーク内部に留保、リリース・コード化禁止
可視性
(Observability)
ハードウェアとソフトウェアのイベントを記録して関連付け
制御性
(Controllability)
ソフトウェア/ハードウェア、またはタイムイベントによる
再現性
(Repeatability)
シミュレーション化
高速
(Speed)
約1/10 高速ソフトウェアスタック

図2:バーチャル・プロトタイプを用いたフォールト・テスティング(Fault testing)。TLMモデルにより、ソフトウェア開発者は、システムの状態を変更して、耐機能安全性のシステム性能を評価出来る。ソフトウェア開発者がハードウェアの内部状態(メモリ内容、レジスタ、シグナル等)にアクセスすることを可能にしている。メモリ用の誤り訂正符号のような特定のフォールト・トレラント(Fault-tolerant)機構はモデル化しておく必要があるが、非常に容易に行える。

シノプシスのバーチャル・プロトタイプにより、システム開発者は完全なシステムシミュレーションの利点を享受できます。実際のコードを無修正で実行できるため、プログラムの実行をより細かく制御でき、より詳細に挙動を観察できます。ソフトウェア開発者は、バーチャル・プロトタイプの使用によりECU実機が届く前にコーディングを開始することが可能です。

EDGE: シノプシスさんとルネサスは、「SH-2A」や「V850」向けツールなどで長年協力してきた実績があります。最近はいかがでしょう、何か新しい取り組みはありますか?

Serughetti氏: ルネサスさんのマイコン搭載システムに最適化した、先端的なソリューション開発とその展開を共同で行っています。ルネサスさんが最近発表された、40nm世代プロセスの低消費電力で、車載ネットワーク機能と暗号化機能の強化を実現した「RH850ファミリ」に注力しています。

シノプシスは、「RH850ファミリ」のマイコンが高いスケーラビリティと性能、そして信頼性を自動車システムにもたらすことを理解しています。それは、2月に技術情報誌『Design News』(UBM Canon社発行)が、栄えある「Golden Mousetrap Awards」(2013年度車載分野)を「RH850/F1x」に授けたことで確信を持ちました。授賞にあたって、チップ内蔵のデータ暗号化処理ユニット(ICU)などの機能が高く評価されていました。

VDK、シスレムレベル・シミュレーションモデル、その先を目指して

Serughetti氏: 最近、ルネサスさんと共同で「Virtual MCU Center of Excellence」プロジェクトを開始しました。「RH850」搭載システムのソフトウェア開発とシステム検証を強化する事が目的です。「Virtual MCU Center of Excellence」では、両社の専従のエンジニアチームが「VDK(Virtualizer Development Kits)」やその他の製品開発を進めており、間もなく提供を開始します。「VDK」のシステム全体の可視化と制御が可能な高速シミュレーション環境は、デバッグと解析の効率性を飛躍的高めることが可能です。

図3:「VDK」の特徴

図3:「VDK」の特徴。これらの先進的なソフトウェア開発ツールは、複数の設計とテスト作業を実現することで自動車開発の生産性を高め、コードのデバッグと解析の際に抜群の高効率を実現する。.

「Virtual MCU Center of Excellence」に協力するエキスパート達は、検証が完了したコアと周辺モデルを作成し、「RH850」マイコンの仮想モデルを組み上げます。加えて、シノプシスは一連のソフトウェアツールを提供し、これらをAUTOSARのような他の自動車用開発ツールと結合します。こうして、「VDK」は自動車メーカや一次部品メーカの開発プロセスに容易に組み込むことが可能になります。

EDGE: 「Virtual MCU Center of Excellence」について、もう少しおうかがいしましょう。

Serughetti氏: 両社のエキスパート達は、「RH850」ベースの仮想プロトタイプを開発しています。これは非常に繊細な設計と検証プロセスが求められます。プロジェクトの成功のために、両社のエキスパート達は、シミュレーションモデル構築とマイコンの設計、アプリケーション技術についての深い理解を共有しています。

また、ECUの設計者が「RH850」の機能に非常に早い段階からアクセスを可能とする、仮想プロトタイプのリファレンスも完成間近です。

「Virtual MCU Center of Excellence」で開発中の「VDK」は、仮想プロトタイプをターゲット・プロセッサとして使用しているため、組み込みシステムに完璧な可視性と制御性をもたらします。自動車システム開発者が「VDK」とデバッガを組み合わせれば、ソフトウェア開発の速度が上がるばかりで無く、システム統合とテストの進捗も向上するでしょう。

「VDK」は、他のソフトウェア開発ツールよりも優れたデバッグと解析機能を提供します。図4は、自動車メーカや一次部品メーカが、これらのツールを次世代の自動車やトラックの開発のさまざまな段階で使えることを示しています。

図4:「VDK」のアプリケーション

図4:「VDK」のアプリケーション。自動車メーカや一次部品メーカは、「VDK」の機能をソフトウェア開発の効率向上や、ECUの統合とテストのコスト削減、そして自動車向け組み込みシステムの検証の簡略化に適用できる。

すでに、「RH850」の多くの周辺機能のモデルが作られており、最初の「VDK」をまもなくリリースします。この洗練されたツールは、包括的なコンポーネントをパッケージしており、単にマイコンをモデル化したものとはレベルが違います(図5参照)。

図5:ルネサス「RH850」マイコン用「VDK」

図5:ルネサス「RH850」マイコン用「VDK」。「Virtual MCU Center of Excellence」が送り出すこの製品は、包括的なパッケージとなっている。自動車システムの開発担当者は、このパッケージを用いて複雑なドライバやAUTOSARソフトウェアを他のプロジェクトと共に開発できる。たとえば、仮想ハードウェア・イン・ザ・ループ(HIL:Hardware-in-the-Loop)を用いてシステム統合化とテストが容易に可能になる。また、「VDK」をISO26262が示す障害と検出範囲テストの支援にも利用できる。

将来、「Virtual MCU Center of Excellence」は、自動車メーカや一次部品メーカの要求に応じて、新しいモデルの開発を進める予定です。また、複数のマイコンをネットワークで結ぶ、複雑なマイコンのためのソフトウェアツールの開発も目指します。

正確なシミュレーションが築く「信頼」

Serughetti氏: 「Virtual MCU Center of Excellence」がもたらす、比類無きシミュレーション品質を強調させてください。この共同プロジェクトに参加している両社のエキスパート達は、「RH850」の情報に早い段階からアクセスできます。これは、検証において大きな利点となります。これが、私たちの仮想モデルが正確に実際のチップの機能を反映することにつながります。自動車システムの開発担当者は、シミュレータの結果に完全な信頼を寄せることでしょう。

また、シノプシスとルネサスは、「Virtual MCU Center of Excellence」が作り出すシミュレーションモデルの可用性や最適化、そしてサポートを長期的に約束します。

EDGE:「VDK」の供給とサポートはどちらが行うのですか。

Serughetti氏: シノプシスが、パワートレインやシャシ、ボディなどの機能へ、リファレンスデザイン用「VDK」を供給しサポートします。特定のお客様向けのモデルや統合の要求については、全世界的にサービスを提供可能です。また、カスタム仕様の要求についても、喜んでお話をうかがいます。

EDGE: 本日は、先端的なソフトウェア開発ツールについてのお話をありがとうございました。自動車産業でシステム開発を担当するお客様にとって、シノプシスさんとルネサスが共同で開発する強力かつ正確なシミュレーションモデルを利用することによる大きなメリットが理解できました。

「RH850/F1x」についての詳しい情報はこちら

「Virtual MCU Center of Excellence」について(シノプシス社のプレスリリース)はこちら

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