POCT(Point Of Care Testing、臨床現場即時検査)

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すぐに検査、すぐに診断医療装置の進化が支えるPOCT(Point Of Care Testing) 現状と将来を探る

生活習慣病の増加や健康意識の高まりにより、検査や診断が手軽に受けられるPOCT(Point Of Care Testing、臨床現場即時検査)が大きく注目されている。すでにさまざまなサービスが開始されており、POCT向けの検査・診断装置の小型・高機能化が活発だ。本稿では、その現状と見込まれる将来の活用までを探る。

POCT(Point of Care Testing、臨床現場即時検査)とは?

POCT(Point of care testing、臨床現場即時検査)の活用が広がっている。POCTとは被検者の近くで行われる検査のことで、病院内なら、ベッドサイドや診察室、病院の外なら、小さな診療所や薬局、自宅で行う場合もある(図1)。

図1.POCTとは

図1.POCTとは

患者の近くで短時間かつ簡易に検査・診断できれば医者や看護師は迅速な処置が可能になり、患者の負担も軽減される。また患者が、自らPOCT装置を利用すれば慢性疾患など対して継続的な検査ができる。つまり、医療機関と患者の双方にメリットがあることから、その普及に伴うPOCT装置市場の拡大も期待されている。

では、従来の検査・診断装置をPOCTに対応させるためには何が求められるだろうか。まず、第一に持ち運びや設置場所に困らないように小型・軽量化することが重要だ。そして、検査時間を短縮するなどの高機能化、また、患者が自ら継続的に装置を利用できるように、検査・診断に伴う苦痛を軽減することなども求められる。

すでに活用が進んでいる分野から、将来期待される分野まで、実際のPOCT装置を見ながらPOCTの動向への理解を深めていこう。

すでに身近なPOCT装置。糖尿病やインフルエンザ診断で先行

医療の現場でPOCTが先行しているのが糖尿病の領域だ。患者が日々の血糖をコントロールするために使う自己検査用グルコース測定器は、すでに世界中で普及している。糖尿病は、網膜症や神経障害などの合併症による重篤化が問題になるため、POCTによる早期検査は非常に有効な手段だ。

また、インフルエンザ診断システムも活用されている。従来の診断薬は発熱などの症状が現れてから半日程度経過し、ウイルスが一定量に増えないと陽性判定が難しかったが、POCT装置では現場において短時間で陽性判定を出せる。

「検体検査」から「生体検査」へ。用途が広がるPOCT装置

上で述べた糖尿病やインフルエンザなどの検査は、人体から採集した血液や尿(検体)の成分や細胞の形・数などを調べる「検体検査」と呼ばれる。POCTはさらに、心電図・超音波など人体を直接調べる「生体検査(生理検査)」の分野でもニーズが急速に高まっている。

現在、生体検査の分野でPOCT対応が顕著なのが「超音波画像診断装置」だ。画像診断分野の中でも特に汎用性が高い超音波画像診断装置は、大がかりな設備を構築する必要がなく、POCTに適している。リアルタイムに画像を描出でき、診断も速やかに行えるので、医療機器メーカはさらなる機能強化に積極的に取り組んでいる。

GEヘルスケア・ジャパン社の超音波画像診断装置を見てみよう。同社がポケットエコーと呼ぶ「Vscan」は、ポケットサイズで持ち運べることから在宅・訪問医療等の現場で高く評価されている。2年後に発売されたモデル(Vscan 1.2)では院外利用する医療従事者の要望に対応し、消費電力を削減し、従来機に比べ充電1回当たりの検査時間(バッテリー持続時間)を1.5倍の90分間に伸ばした。大きさは縦135ミリ×横73ミリ×奥行き28ミリメートル、重さは約390グラムと小型軽量だ。また、2014年に発売した最新機種(Vscan Dual Probe)では、深部臓器用と表在臓器用の二つの探触子を一本のプローブに搭載した上位機種(重量:440g)も提供し、ますます活躍の場を広げている(写真1)。

写真1.聴診器のように医師が持ち運んで手軽に診断できる「Vscan 1.2」、GEヘルスケア・ジャパン株式会社提供

写真1.聴診器のように医師が持ち運んで手軽に診断できる「Vscan 1.2」、GEヘルスケア・ジャパン株式会社提供

医療機器認証番号: 第221ABBZX00252000

GEヘルスケア・ジャパン株式会社

写真2.超音波画像診断装置をケーブルレス化した「ACUSON Freestyle」、シーメンス・ジャパン株式会社提供

写真2.超音波画像診断装置をケーブルレス化した「ACUSON Freestyle」、シーメンス・ジャパン株式会社提供

汎用超音波画像診断装置 アキュソン Freestyle

医療機器認証番号:226AIBZX00008000

シーメンス・ジャパン株式会社

シーメンス社のPOCT装置「ACUSON Freestyle」も、現場で役立つユニークな装置だ。業界で初めて超音波を送受信する探触子(プローブ)をケーブルレス化し、システム本体から約3メートルの範囲内でプローブを遠隔操作できるようにした。医療機器・機材が密集する検査室内で本体を被検者の近くに移動させずに従来の診断業務が行える。被検者の体表にあてるプローブにデータ通信機能を搭載し、システム本体に超音波画像情報を送る仕組みだ(写真2)。

POCT対応装置が普及することで検査率の向上が期待できる分野も多い。国内に潜在患者が約300万人いると言われる睡眠時無呼吸症候群(SAS)を例に挙げよう。

フィリップス・レスピロニクス社は在宅でSAS検査が可能な携帯型睡眠評価装置「ウォッチパット」を提供している。センサーを体に装着し、就寝中に指先の末梢動脈波や動脈血酸素飽和度、いびき・体位を測定する。医療機関がSASを診断する際、従来は入院を伴う検査が必要だったが、同装置は被検者が自宅で睡眠データを測れる。検査中にセンサー信号はメモリーに記録され、解析ソフトウエアによって無呼吸・低呼吸指数や睡眠状態など医師の診断に必要な情報がレポート化される(写真3)。

写真3.慣れた睡眠環境の自宅でSAS検査を実現する「ウォッチパット」、フィリップス・レスピロニクス合同会社提供

写真3.慣れた睡眠環境の自宅でSAS検査を実現する「ウォッチパット」、フィリップス・レスピロニクス合同会社提供

医療機器認証番号:22500BZX00339000

フィリップス・レスピロニクス合同会社

POCTのこれから。新分野・領域へ開発が加速

POCTのニーズ拡大を見込み、次世代製品の開発に乗り出す企業も増えてきた。滋賀県産業支援プラザと複数の企業や大学は協力して、血液一滴で高度診断が可能なPOCTシステムの開発に着手した。従来の血液検査は多量採血が必要な一方、すぐに結果が出ないためその場での診療に役立ちづらいという課題があった。

イムノ・プローブ社や深江化成社、九州大学、東京歯科大学、パナソニックヘルスケア社は共同で口腔内細菌検査機器を開発中だ。歯周病患者は600万人超と言われ、糖尿病や狭心症、心筋梗塞などの全身疾患との関連性も指摘されている。これまで細菌数を簡便に検査できる装置がなかったが、電気的測定法によって迅速に歯周病原菌数を測れるようにする。これにより従来の歯科医による検査だけではなく、歯科衛生士や看護師らが患者の近くで簡易に歯周病のリスク判定ができるようになる。

POCTが変える―「新しい医療」

写真4.不整脈を検出した場合は、自動で電気ショックを与える「LifeVest」、 旭化成ゾールメディカル株式会社提供

写真4.不整脈を検出した場合は、自動で電気ショックを与える「LifeVest」、 旭化成ゾールメディカル株式会社提供

医療機器認証番号:22500BZI00017000

http://lifevest.zoll.com/

従来の検査・診断・治療というフローを充実させる一方、いまや病気の早期発見や予防に力を入れることが重要になってきている。大規模な医療機関だけではなく、中小規模病院、クリニックや薬局、在宅の現場で検査・診断の実施数は今後も飛躍的に高まっていくなかで、POCT装置は大きな役割を果たす。

また検査・診断と治療の融合も今後の大きなテーマになる。POCT装置によってリアルタイムで得た患者データは、迅速な治療を行う上で欠かせない情報だからだ。予防から治療までに広がるPOCTの進化は、「新しい医療」の一つの形として期待されている。

検査・診断のみならず、治療も実現している例を挙げよう。旭化成グループのゾールメディカル(ZOLL Medical)社が提供する着用型自動除細動器「LifeVest」は、装置自体に治療機能を搭載している。患者がベストを常時着用することで、心臓突然死につながる不整脈が起きた際に自動で治療を行う。ベストには心電図を測定する電極と除細動用の電極を備えており、心臓の状態を連続的に監視する。

POCT装置が、より使いやすく手軽になれば、医療従事者の少ない地域の助けにもなる。地域医療や在宅医療が充実すれば、大規模な医療機関に足を運ばなくても済むようになる。検査結果が早く出れば、治療もすぐに始められる。さらに、POCT装置に通信機能を搭載し、例えば検査・診断データを電子カルテに転送できるようにすれば、医療機関ともリアルタイムにつながる。POCT装置の進化は、今後ますます患者と医療機関を結ぶ大きな役割を担っていくだろう。