Big Data in Manufacturing 製造業でのビッグデータ活用の実態

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Big Data in Manufacturing―製造業でのビッグデータ活用の実態 [後編] 製造プロセスのあらゆるデータを収集できるようになった今、ビッグデータ活用の課題と展望を探る

FA(ファクトリオートメーション)の通信プロトコルとして、産業用Ethernetの普及が進んだことで、製造業におけるビッグデータ活用の道が拓けた。欧州の業界識者からの寄稿で、製造業におけるビッグデータ活用の実態を探る本連載、前編では製造業ならではのビッグデータの特徴や活用の課題に注目した。引き続き後編では、ビッグデータ活用の利益と成功させるためのメソッドに目を向ける。

注目が集まるビッグデータ活用、その「利益」とは?

製造業では長年に渡り、製造方法の工夫(*1)や自動化、そしてグローバル規模のサプライチェーンの確立など、さまざまな技術や方法を生み出して生産性と製品価値の向上に取り組んできた。その結果、現在の製造業は非常に高度に進化し、さらなる工夫への余地は少なく、「進化の壁」は高いものとなっていた。業界がビッグデータに大きく注目するのは、その高い「進化の壁」を打開する可能性を見出しているからだ。

製造業におけるビッグデータの種類や特徴については前編の実態で述べたとおりだ。ビッグデータを活用する工場では、製造装置に取り付けられたセンサからデータをリアルタイムで収集し分析することで、製造装置の稼働状況や製品の品質状況などをリアルタイムに管理できる。製造ラインの自動化が一層進み、製造ラインが自律的なロボットのように稼働するだろう。製造ラインと工場内外の設備、部品や部材を管理しているタグ情報(RFID)、さらに監視・制御を行う内外のコンピュータがネットワーク化されることで、生産性や製品品質の向上、安定化などが大きく改善する。

また、製造装置は長時間、稼働することが多く、故障による生産計画の変更などのリスクが大きい。製造装置の稼働状況や履歴などのデータを活用することで、保守やメンテナンス作業の最適化が実現する。製品の販売状況などの市場データと連動することで、供給計画の策定などにも大いに役立つ。

図1:ビッグデータ活用の「利益」

図1:ビッグデータ活用の「利益」

これらのビッグデータ活用から生まれる「利益」を十分に理解し、実ビジネスに貢献させる取り組みが重要だ(図1)。実際に、ドイツの電線メーカであるSchwering & Hasse社は、ビッグデータの高速解析システムを使って品質管理システムを構築した。従来は製造工程の中で電線の「100m」単位でしか異常を検知できなかったが、電圧異常を「25mm」単位に検出できるように4,000倍のデータを取得するようにしたところ、製品の品質が格段に向上した(*2)。また、スペインの暖房器具メーカであるBAXIROCA社では、製品の設計、製造からアフターサービスまでのさまざまなデータを収集、分析するシステムを構築した。機器の故障や問題の原因が、設計上の欠陥なのか、設置時の不具合なのか、メンテナンスの不備なのかを分析し、その情報に基づいて製品の改善を行っている。これにより製品価値と顧客サービスが向上し、保証期間中の故障が減少したことで修理費用も減少した(*3)

(*1)製造方法の工夫:工場で作業員の配置をライン化させ、ベルトコンベアなどにより流れてくる機械に部品の取り付けや小加工を行うライン生産方式や、少数の作業者で製品の組み立てから検査までを行うセル生産方式など。

(*2)参照:「Schwering & Hasse ensures qualitymanufacturing at high speed using Apama」

(*3)参照:「BAXIROCA gains powerful insights intoafter-sales performance」

ビッグデータ活用への投資は「ハイリスク」?

ビッグデータの活用を進めるためには、企業はソフトウェアやインフラに対する必要な投資を準備しなくてはならない。欧州の製造業者に聞いてみると、ビッグデータ活用に8800万米ドル(約90億円)程度の投資をした企業がいくつかあるし、5億米ドル(約510億円)を上回ったと話す企業も数社ある。いずれにしても、今後もますますの投資を続けることを多くの製造業者が明言している。

このような大きな投資が必要になるビッグデータの活用だが、専門家たちは、一部の企業にとってビッグデータは、ためるだけためて単に「手に余るデータ」になってしまう可能性があると警告している。「有益な目標ではあるが、導入の費用や複雑さは、日常業務の中で維持していくには大きな課題となる可能性があり、投資に対するリターンは得られないかもしれない」と語る専門家もいる。

ビッグデータ活用の成功メソッド

高度なセンサ技術とネットワーク技術(産業用Ethernet)により、製造業におけるビッグデータ活用の道が拓けた。では、どうしたら利益を生む使い方ができるのだろうか。ビッグデータ活用を成功させるためには、さらなる要素がある。

  1. リアルタイム性

    第一にリアルタイム性が重視される製造業に適した「データ収集プラットフォーム」が必要だ。設備の稼働状況や不良品の検出などは、日ごとや、ある程度の時間分のデータをまとめて処理するバッチ処理ではなく、データへのアクセスやデータの抽出作業がリアルタイムで実行可能でなければならない。

  2. データ分析力

    次に、リアルタイムに増大していく莫大な量のデータを的確に処理する「データ分析」が求められる。すでに市場には、リアルタイムで深い洞察を可能にするアルゴリズムを用いる分析手法やツール、サービスが提供されているが、「分析力」が「競争力」の大きな要素となるため、高度なインテリジェンス分析を担当するデータサイエンティストの育成が必要だ。

  3. データ分析部門と現場の一体感

    そして、最も大切なことだが、データサイエンティストと製造部門をはじめとするさまざまな担当部門マネージャの間に高いレベルの信頼関係も構築されなければならない。事業単位での組織が十分に情報を共有する必要があり、また、さまざまな意思決定が担当者の直感ではなく、データ分析に基づくことが不可欠だ。ある企業の担当者は、「頻繁に起こることだが、データ分析部門はビッグデータを活用して分析を行うが、現場での業務は現状維持に陥ることがしばしばある」と現状を語った。必要な技術やツールを揃えるだけでは、ビッグデータの活用は成功しない。センサや装置のレベルから機器制御、MES(製造実行システム)やERP(企業資源計画)レベルまでの情報階層を横断して、情報を可視化、共有し、組織として一丸となって改善に取り組む意識が必要だ(図2)

図2:製造業の情報階層

図2:製造業の情報階層

出典:Manufacturing for the Future: The Customer Centric Manufacturer, Datix, inc.

ビッグデータという言葉は大げさに宣伝されているが、企業がデータネットワークやデータ収集プラットフォーム、データ分析ツール、そして人材に投資し、結局、何の利益を得ないままに終わってしまうことは、現実的に危惧するべきだ。ビッグデータ活用成功への道は、短くもなければ平坦でもない。

さまざまな困難が待ち受けているビッグデータの活用だが、情報量の拡大と共有化が成功し、組織内で統合された知識が活用できるようになると、ビッグデータへの投資が生産性向上などの形で利益をもたらし始めていることを実感するだろう。筆者自身は製造業におけるビッグデータの活用には大きな期待を寄せている一人だ、今後もますます注目していこう。

[寄稿]

Leopold Ploner

Industrial Ethernet Book 発行人

http://www.iebmedia.com/

Industrial Ethernet Book