Big Data in Manufacturing 製造業でのビッグデータ活用の実態

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Big Data in Manufacturing―製造業でのビッグデータ活用の実態 [前編]

IT業界の単なる流行ではなく、一般消費者向けのマーケティング分野ではビッグデータの活用が急ピッチで進んでいる。製造業でも同様に、ビッグデータの活用が進むのか?その課題と展望を、業界識者である『Industrial Ethernet Book』発行人のLeopold Ploner氏が探る。

製造業でのビッグデータ収集の道が開けた

「ビッグデータ」がIT業界で流行語になってから数年が経ち、現在では製造業でも広くビッグデータについて議論されるようになった。製造業において、ビッグデータを活用するための主要な技術は、FA(ファクトリーオートメーション)の通信プロトコルとして普及が進む産業用イーサネット(Industrial Ethernet)である。

ではまず、産業用イーサネットが無いケースで、製造現場でどのようにデータ収集が行われているのか実態を見てみよう。製造工程からデータを収集することは20世紀後半に始まったが、当時は手書きの測定記録をキャビネットに保管することが主だった。その後、製造装置と制御機器の信号のやり取りを、デジタル通信を用いて行うフィールドバス技術が生まれ、よりリアルタイムでデータを収集できるようになった。しかし、このデータは、多種多様な形式であり、個々のマシンや制御ネットワークを単位とした活用にとどまっていた。

産業用イーサネットの登場により、幅広いデータ交換を可能にする帯域幅や速度、共通のデータ形式が実現された。これにより、製造ラインの末端にあたる温度センサや圧力センサ、電力センサなどのさまざまなセンサが毎秒取得する情報までも、企業レベルで活用できるものとなった。

しかし、実際にはこれらのデータは、多くの場合はあまり有効に利用されていないようだ。Fraunhofer IOSB(*1)のOlaf Sauer博士は、「現在は、メンテナンスや故障対策のために、これらのデータのわずか7%ほどを使用しているに過ぎない」と推定している。

(*1)Fraunhofer IOSB(Fraunhofer Institute of Optronics, System Technologies and Image Exploitation):フラウンホーファー研究機構、ヨーロッパ最大級の応用研究機関

写真:多くのセンサがさまざまなデータをモニタリングする工場のイメージ

写真:多くのセンサがさまざまなデータをモニタリングする工場のイメージ

(提供:『Industrial Ethernet Book』、引用:Daimler AG)

巨大なデータ量と複雑さが、大きな負荷になる

「ビッグデータ」―この言葉は通常、一般的なデータベース管理ソフトなどのアプリケーションで処理するには、規模が大きく複雑なデータセット(データ処理の単位、データのまとまり)を語るために使用されている。

その実態を理解するために、IT分野の調査・コンサルタント企業であるGartner(ガートナー)社のリサーチ担当部長であるDoug Laney氏は、ビッグデータを3次元的であると定義し、量(Volume、データの量)、速度(Velocity、データの発生頻度)、種類(Variety、データの種類)からなる3Vモデルを用いて解説している(図2)。この3つのベクトルのすべてが、急激に増大している状況こそがまさにビッグデータである。

図1:ビッグデータを3次元で表す3Vモデル(提供:『Industrial Ethernet Book』)

図1:ビッグデータを3次元で表す3Vモデル

この3Vモデルは現在、ビッグデータを説明するために広く利用されているが、製造業においては、特に「速度(データの発生頻度)」に注目するべきだ。

一般消費者向けの分野では、消費者のニーズに応じたサービスの提供や商品企画へのビッグデータの活用が進んでいる。例えば、自動販売機にカメラを搭載して、購入者のデータを収集、曜日や時間と、天候や温度センサなどの環境情報と合わせてマーケティング目的でビッグデータを活用するイメージだ。この場合のデータ収集と分析の速度(データの発生頻度)は数時間~数日程度で十分だろう。

一方、製造業においては、製造ラインの製造装置・機器は「リアルタイム」で制御されている。そのため、自動化が進む製造ラインのログデータやさまざまなセンサ情報、工場内外の環境情報などから成るビックデータ(図2)は数秒~数十秒程度の、「リアルタイム」に近い頻度で収集、分析されることが求められる。データの種類は一般消費者向け分野ほどの増大を見込まないが、この「速度(データの発生頻度)」が多いだけに、センサ類の個数が増えればデータ量も爆発的に増大することが懸念される。このことが、製造業におけるビッグデータの実態を理解する上で重要であることを指摘したい。

図2:工場内で収集するビッグデータのイメージ(提供:『Industrial Ethernet Book』)

図2:工場内で収集するビッグデータのイメージ

製造業におけるビッグデータ活用の課題

ビッグデータを活用するために、一般消費者向けの分野では、すでに多くのツールやアプリケーションが開発されている。大量のデータを処理するために、データを細かく断片化して多数の汎用サーバで分散処理するシステムの活用が進んでおり、GoogleやeBay、Yahooにとっては、別個のサーバ上でビッグデータ処理を行うのは、一般的な方法となっている。

しかし、多くの専門家が、そのような一般消費者向けの分野で使用されているデータ分析ツールやソフトウェアが、簡単に製造業におけるビッグデータ処理に適合するわけではないと警告している。なぜなら、ほとんどの製造業界でのシステムの構成は、集中処理型だからだ。実際、GE Intelligent Platforms(GEインテリジェント・プラットフォームス)社が公開しているホワイトペーパ「The Rise of Industrial Big Data」によれば、製造業が分散処理型のシステムを活用する環境を構築するためには、複雑さや必要な専門技術において、多くの場合で製造業における対応能力を超えていると指摘している。つまり、集中処理システムを有する製造業にとって、今主流の分散処理システムへ移行することは極めて難しいということだ。

さらに製造業におけるデータ分析で難しいのは、リアルタイムに大量に収集したデータを、長期間に渡って蓄積した後、設備ごと、月ごと、シフトごと、注文ごとで比較して、相互関係を見える化することだ。こうした複雑なデータの関係を分析することで、製造プロセスを最適化できるだけでなく、設備の予知保全や、品質の向上などに役立てることができる。例えば、プラスチック製造業を想定しよう。製造プロセスのあらゆるデータと品質、そして自然環境データの相互作用を分析することにより、工場内外の温度変化が及ぼす製造ラインの異常や、製品の品質への影響を理解することができるようになる。

このように、製造業におけるビッグデータの活用には、複雑なデータの相互作用を適切に分析し、簡単に抽出でき、適切なフォーマットで結果をさまざまな関連企業・部門に提示できるツールと、製造業特有のデータ速度(発生頻度)に対応する堅牢なシステムが必要となる。

続く後編では、製造業のビッグデータ活用の利益や新たに生まれる企業内の課題等を探る。はたして、製造業において、コストや複雑さを鑑みてもビッグデータの活用は進むのだろうか……。

[寄稿]

Leopold Ploner

Publisher of Industrial Ethernet Book

http://www.iebmedia.com/

Industrial Ethernet Book