第3回 環境問題を背景に、中国ハイテク市場のポテンシャルが高まる

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第3回 環境問題を背景に、中国ハイテク市場のポテンシャルが高まる

ここ20数年来、中国経済は年間平均9%の急成長を保ってきたものの、環境汚染が深刻化しつつあり、汚染物質の排出削減は重要課題となっている。「第12次五ヵ年計画(2011年~2015年)」の綱要では、経済の発展と環境保全とを必ずリンクさせ、今後は省エネのための技術や製品、サービスの発展を産業の重点に置くべきだと明確に指摘している。

こうした環境保全に対する行政からのプレッシャを背景に、国内外の企業が中国市場における一連の新しいビジネスチャンスを狙っている。

写真1:環境問題が深刻化している中国の都市

写真1:環境問題が深刻化している中国の都市

民生分野:空気清浄機、浄水器への高まるニーズ

中国のほとんどの都市がPM2.5に襲われたことがメディアにより大々的に取り上げられ大気汚染の深刻化が知れ渡った。同時に、生活排水の垂れ流しや工業排水の不法投棄など、水質汚染も悪化が続いている。このような中で、健康被害が大きな問題となっており、民生機器分野では空気清浄機と浄水器市場が急速に拡大している。

市場調査機関の中怡康(China Market Monitor Co.,LTD)の試算では、2012年空気清浄機の市場規模が126万台、浄水器が260万台であるのに対して、2013年は空気清浄機が90.5%増の240万台、浄水器が64.6%増の428万台になるという(図1)。

写真2:大気汚染問題を背景に大きく売り上げが伸びた空気清浄機

写真2:大気汚染問題を背景に大きく売り上げが伸びた空気清浄機

図1:浄化器市場の試算データ

図1:浄化器市場の試算データ

一方で、現在発売されている中国の空気清浄機と浄水器を見てみると、製品には数々の問題が存在している。

国家レベルの第三者機関による機能認証基準がないのに加え、ほとんどの製品には浄化レベルに関する表示がないため、消費者はどの程度浄化されるのかを簡単に見分けることができない。

また、製品の外観や消費電力、静音性、手入れの利便性などの面において、消費者のニーズには十分に応えることができていないばかりか、製品の機能を誇張した宣伝によって、消費者は製品を選択するときに戸惑いを感じている。さらに、右肩上がりに売上が増加してきているとはいえ、割高な価格のため一般家庭まで普及することがなかなか難しい。空気清浄機の平均価格は2,798元(約45,000円)、浄水器の平均は2,337元(約37,000円)程度であり、普通の小型家電製品を大きく上回り、大型家電製品の平均価格に迫っている。

写真3:製品の機能を誇張した宣伝によって戸惑う消費者

写真3:製品の機能を誇張した宣伝によって戸惑う消費者

つまり、巨大なポテンシャルを持つ中国の空気清浄機、浄水器市場では、汚れを自動で検知するなどのさまざまな機能を搭載し、正しく浄化レベルを表示できる低価格な製品が求められていると言える。

産業分野:環境モニタリングが計器・計測機器産業の収益源に

2013年5月から11月にかけて、環境保護部が中国全域で汚染物質の不正排出企業に対して取締りを行い、電力会社の石炭火力発電ユニット、鉄鋼・セメントメーカー及び石炭ボイラーの除塵・脱硫設備の稼動に対して監査を実施し、対策を徹底していない地方政府に対してその責任を追及することになった。こうした強力な政策を背景に、産業分野における環境モニタリング計器の活用が広がると、業界アナリストが指摘している。

環境モニタリング計器は計測器分野における一大セグメントであり、2013年には国家重要科学計器開発専門プロジェクトの立ち上げによって、1.5億元(約24億円)に上る中央予算が環境計器の開発に投入された。特に大気、土壌、水質に対するモニタリングが強化されることに伴い、今後5年から10年に渡り、環境計器産業のポテンシャルは拡大するものと見られている。前瞻産業研究院 環境計器産業研究チームの予測によると、中国の環境モニタリング計器及びシステム産業が20%前後の伸びを維持し、2015年には240億元(約3,840億円)になるという(図2)。

図2:中国環境モニタリング計器市場の推移に関する予測

図2:中国環境モニタリング計器市場の推移に関する予測
単位:市場規模(億元)、伸び率(%)
(2013年以降は推定)

中国国内での同機器の技術的課題はいくつかあり、短時間で国際レベルに追いつくことが難しい。性能面だけでなく、製品の品質や寿命、生産力や信頼性(故障率)にも問題点がある。さらに、技術力不足からどうしてもラインナップがミドルからローエンド製品に限られてしまっている。

したがって、いまやこの市場は世界的に計器メーカーの注目を集めており、中国特有の「高エネルギー消費、高物質消費、高汚染」に最適化した専用のモニタリングシステムのニーズに応えようとしている。従来の環境モニタリングの手段である光学、電子化学、クロマトグラフィー、マススペクトロメトリー等の技術をベースに、最新の精密機械、電子工学、コンピュータ技術、自動化、人工知能などの技術を融合させ、データの遠隔収集や解析システムの高度化、機器の自己診断機能の強化など、環境モニタリング市場はさらに拡大する傾向である。

新たな都市建設:街まるごとの省エネ化が巨大市場に

民生や産業分野における環境整備が汚染された環境への対策とすれば、行政主導の都市建設は、新たな汚染を回避するための取り組みだと言える。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による炭素排出係数に関する調査によると、現在、工業国の炭素排出の約30%を建物による炭素排出が占めているという。中国では、高層・高密度・高容積率のビルが多く、炭素排出の約50%を占めており、空調、照明、サーバールーム等による電力消費が主な排出源となっている。したがって、ビルディング内にエネルギー管理システムを備えてエネルギー効率を高め、街全体でもエネルギーの最適化を図ることができれば大きな省エネ効果が期待できる。

図3:スマートビルディング(イメージ)

図3:スマートビルディング(イメージ)

ここ数年来、上海、北京、大連、成都、杭州などの都市では、スマート低炭素ビルディングが相次いで建設されている。太陽光発電や省エネ照明器具を備え、センサーで入居者の有無を検知し、自動でオンオフの切り替えを行うなど、電力の管理と最適化まで整えたスマートコミュニティとなっている。将来、ITがさらに省エネや環境保全に活用されることによって、莫大なアプリケーション・ソフトウェアへのニーズが高まり、中国のスマートシティはさらなる成長市場になるに違いない。

環境保全には新しいチャンスがある

生活サービス面における環境浄化製品へのニーズ、産業分野における環境モニタリング市場の拡大、及び行政レベルの省エネ都市建設など、省エネ・排出削減と環境保全は益々重要視されている。環境に対する行政からのプレッシャの裏には巨大な市場が潜んでおり、同時に健康面からもかつてない環境改善ニーズが生まれている。中国市場に進出しようとする国内外の企業にとっては、大きなチャンスが存在しているのである。